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出会い
再会
しおりを挟む「そんなん急に言われても……」
「いや、でもこの展開はある意味当然やろ……」
「でもでも、よう分からん事言うてはるし、どないしょ……」
何やら真鍋さんは1人の世界へと没入してしまっている様子。声を掛けるべきか否か迷うが、やはりこういう時はそっとしておく方が良いだろうと判断する。
学生とは学び、考え、そして行動するべきだと思う。例え失敗しようとも、それ即ち経験。
もちろん、失敗なぞしないに越した事はない。大人達は若い内の苦労は買ってでもしろ、と言うが、それは自分達の苦労を若者へわざわざ買わせてまでやらしてやろうと企んで言っているだけの事。僕は出来れば失敗などせず、一生を苦労を知らずに終えたいと思っている。
まぁ無理なんだけど。
などと、真鍋さんの様子を見ながらどうでもいい事を考えていると、はっと我に返った真鍋さんがペコペコと頭を下げ出した。それもまた無表情で。もう少し済まなさそうな顔をした方がいいね。
「すみません、突然の事だったので慌ててしまいました」
何が突然の事だったんだろう。僕の背中におぶさっているという、女の子がどんな表情なのか聞いたのが突然の事だったのだろうか。
「そうです。私も泣いていたんです。戻って来ようと思っていて。だから今ここにいて……。
先輩。場を改めてもう1度、先ほどのお話をしてもらってもいいですか?
ちょっと今はぐちゃぐちゃなので、心を整理して次はちゃんと答えさせてもらいますから」
ピンと背筋を伸ばし、僕の目をじっと見つめて話す真鍋さん。うん、猫背よりもそちらの方が良いよ。
その……、少し目のやり場に困るかも知れないけれど。どうしても男ってヤツは見てしまうんだよね、ついつい目が行ってしまうんだ。
決して僕が胸フェチって訳ではないと思うんだけどね。こればっかりは許してほしい。
「それでは今日のところは失礼します。みたらし小餅、おいしかったです。ご馳走様でした」
立ち上がり、改めて僕に頭を下げて、真鍋さんは歩いて行ってしまった。
あれ? 女の子の表情の話はどうなったんだろう。
真鍋さんを引き留めようとベンチから立ち上がった瞬間、目の前がすっと暗くなって、回りの音が聞こえなくなって、そして鈴を転がすような、聞き心地の良い笑い声だけが僕の耳に聞こえた。
『あぁ……、やっと私の声が届くようになったんだね』
そっか、君はこんな声で話していたんだったね。ゆっくりと首だけを動かして背後を確認すると、零れんばかりの笑みを浮かべた、あの時の女の子に再会したんだ。
「久し振りだね、みなちゃん」
おっと、声に出してはいけない。
分かっている。この子は幽霊だ。僕にしか見えないし、聞こえない。
いや、真鍋さんには見えているんだったか。僕が急にみなちゃんが見えるようになって、声も聞こえるようになった事と真鍋さんの様子がおかしかった事、何か関係があるのかな?
みなちゃんはあの頃のままの姿に見える。
もちろん見たのはもう10年以上振りの事なので、確信はないけれど。でも、少しずつ僕の記憶が頭の底から引っ張り上げられて行っているような感覚を覚える。
そうそう、いつもスカートを履いて、上はポロシャツが多かったな。髪の毛は毛先がとても細くて顔に触れるとこそばいからって、後ろでくくってて。おさげって言うんだったかな。
あぁ、あの時のままの姿で、僕の背中にくっついていたんだね。
(やっと会えた)
『あたしはずっとずっと、のーの背中にいたけどね』
そうだ、初めて会った頃、みなちゃんは僕の名前をちゃんと言えなかったから、南朋が“のー”になっちゃったんだ。
南朋って言えるようになっても、あだ名みたいにのーって呼ばれてたっけ。少しずつだけど、思い出して来たよ。
僕達はしばらく、その場で見つめ合っていた。
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