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出会い
そう言えば
しおりを挟む(桜もすっかり散ってしまったね)
(暖かくなったと思ったらすぐにまた寒くなってさ、これが三寒四温って言うやつなのかな)
(このお餅、中にみたらしが入ってるよ、噛んだらじゅわって口の中に蜜が広がって美味しいよ)
(そう言えば君と一緒におやつを食べた事もあるだろうね。君はどんな顔をして食べていたかな)
(君の顔、思い出せなくてごめんね)
「先輩?」
「んっ? あぁ、真鍋さん。こんにちは」
いけないいけない。またあの子に語り掛けてしまっていた。
目の前の美人な後輩、真鍋さん。5歳くらいの女の子が憑いていますよと真鍋さんに声を掛けられて以来、たびたび見えもしない女の子に向けて語り掛けてしまう自分がいる。
大学のキャンパス。ベンチに1人で座ってお餅を食べている僕を見た真鍋さんは、僕の事をぼっちなんだなと思うだろうか。
何と思われようが僕にはそれなりに仲の良い友達がいるから別にいいんだけどね。
「お隣、いいですか?」
手でどうぞと勧めると、ちょこんと頭を下げて隣に座って来た。律儀な良い子だ。
「これ食べる? 友達から旅行のお土産だって貰ったんだ。美味しかったから買ったんだって。友達が」
さり気なく友達いるよアピール。
真鍋さんはお礼を言いながら、お餅の入っている箱に細い手を伸ばす。
「そうそう、そのお餅はね……」
ぱくり。真鍋さんは一口でそのお餅を頬張り、もきゅもきゅと言い表したくなるような仕草で噛んでいる。
あれ? みたらしがとろっと出て来た事に驚かないのかな。僕なんて最初はビックリして、でもそれが癖になって黙々と食べ続けていたんだけど。
「おいしいですよね、この小餅」
小餅。あ、箱にみたらし小餅って書いてある。そっか、真鍋さんはこのお餅の事を知っていたのか。
「真鍋さんはこのお餅、食べた事あるんだね。やっぱり誰かからのお土産?」
一瞬何を言われているのか分からない、というような仕草でこてんと小首を傾げ、そしてあぁと思い当たったように口を開く。
だからね、真鍋さん。もうちょっと感情を表に出そうよ。一つ一つの仕草はとても品があって綺麗なんだけど、無表情だからどうしても冷たく見えるんだよ。
何て言ったっけ。あぁ、そうそう。氷の微笑って感じだろうか。いや、微笑すらも浮かべていないんだけど。
「私、関西に住んでいたんです」
「へぇ? 真鍋さん、関西出身だったんだ。イメージがなかったよ」
「いえ、出身というか、生まれはこちらです。小さい頃に引っ越して、それが関西だったんです。
大学進学を機にこちらへ戻りたくて」
なるほど。親の都合か何かで引っ越しをしたけれど、生まれ故郷に帰りたかったんだろう。やはり地元には思い入れを持つもんなのだろう。
僕は生まれてからこの方、一度もここを離れた事がないから分からないけどね。
「そうなんだ、それでこの大学を受験した訳なんだね。
どうだい? 久し振りに帰って来た生まれ故郷は。変わっていたかい?」
「いえ、街自体はあまり記憶にないんですよね。引っ越しをしたのが5歳の時だったもので」
無表情、そして抑揚のない口調でそう言う真鍋さん。その無表情は何もない表情ではなく、努めて何かを押し殺しているが故の無表情なのではないだろうかと、僕にはそう見えた。
街自体は記憶にないのに、何故地元に戻りたいと思ったんだろうか。何か、大事な思い出でもあるんだろうか。
それにしても、5歳か……。
そうそう、5歳と言えば。
「実はね、僕の後ろにいるという女の子に心当たりがあるんだよ」
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