肩に顔乗せ笑う子は……?

なつのさんち

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出会い

ついてる

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「あのっ……」

 後ろから声が聞こえた。僕は振り向いて、声の主を確認する。見覚えのない女の子。彼女が声を掛けている相手は僕であるという確信が持てない。
 前髪が目元まで伸びていて、僕の事を見ているのかどうか分からない。染めていない黒い髪の毛は背中の方まで伸ばしているようだ。艶やかで綺麗。
 肌は透き通るように白い。逆に言うと病弱なのかなという印象。運動は得意ではなさそうに見える。
 猫背気味に立っていて、背は僕よりも頭一つ分低い。
 服装はグレイのワンピース。シンプルな格好が好みなのだろうか。背筋を伸ばせばそれなりに人目を引くであろう豊かな胸元が気になる。

 ここは僕が通っている大学のキャンパス。通っている全ての学生を見知っている訳じゃないけど、彼女の事を見かけた覚えはない。
 僕は大学3年で、多分彼女は後輩だろう。何となく僕よりも年下に見えるし、時期的にも新入生かな?

「あのっ……」

 目が合わないから彼女が声を掛けた相手が僕かどうか分からない。でも僕の周りには人はいないし、声を掛けたとしたら僕だと思うんだけど。

 僕は昔から思い込みが激しいんじゃないかと周りから言われて来た。自分の耳に入って来た情報を勝手に先読みしたり深読みしたり、時には付け足したりして事実とは全く違う認識をしてしまうタチらしい。
 悪い意味での1を聞いて10を知るタイプの人間だなと笑われた事もある。
 だから、ただ声を掛けられただけで彼女が僕の事が好きなんじゃないかとか、実は離れ離れになった幼馴染なんじゃないかとか、この出会いは偶然ではなく必然なんじゃないかと運命を感じたりだとかしてしまう。
 病気だって? いや、ただの妄想癖さ。じゃなくて。
 後輩っぽい女の子に声を掛けられた、というだけで様々な空想をしてしまう悪い癖を押し殺し、僕はただ彼女に声を掛けられただけであると意識しながら答える。

「えーっと、僕に用かな?」

 何でもないような顔をして。
 僕が答えた事により、彼女の顔が少し上がる。はらっと前髪が横に揺れ、その瞳が見えた。僕の目よりも少し右、僕の肩あたりを見ているような視線。
 虹彩と言うのだったか、瞳の色が赤茶色で印象的。もしかしてこれを隠す為に前髪を垂らしているのかな?
 目の色でいじめられた経験でもあるのだろうか。何か、そんな話を聞いた事があるような、ないような。
 彼女は細い右手の人差し指を僕の肩へ向けた。

 何か付いてる? 何がだろうか。あ、もしかして肩にホコリが付いてるよって、わざわざ声を掛けてくれたのだろうか。
 ん? でも最初に声を掛けられた時は僕の後ろ姿を見ていた訳だし、ホコリが付いていたとしても見えないよね。
 とりあえず右肩をパンパンと払いながら、

「何か付いてた?」

 と尋ねると、ゆるゆると首を振る彼女。可愛いというよりも綺麗という印象の子だけど、それ以上にお人形さんのようなイメージが先に来る。
 西洋人形とも日本人形とも言えないけど端正な顔立ちで、瞳の色が珍しいのも相まって造り物のような美しさを感じる。
 いや、別に整形を指摘している訳じゃないけど。それくらい美人だって意味で。

「ホコリが付いてるから声を掛けてくれたんじゃないの?」

「違います。その……、ついてるんです」

 ついている? ホコリではなく?
 彼女は細い手を僕に向けたまま、抑揚のない口調で教えてくれた。

「5歳くらいの、女の子」

 もしかして、憑いてる?

「肩に顔を乗せて、おんぶされているような格好です」

「マジで……?」

「マジ、です」


 これが僕と彼女と、彼女の出会いだったんだ。

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