1 / 17
出会い
ついてる
しおりを挟む「あのっ……」
後ろから声が聞こえた。僕は振り向いて、声の主を確認する。見覚えのない女の子。彼女が声を掛けている相手は僕であるという確信が持てない。
前髪が目元まで伸びていて、僕の事を見ているのかどうか分からない。染めていない黒い髪の毛は背中の方まで伸ばしているようだ。艶やかで綺麗。
肌は透き通るように白い。逆に言うと病弱なのかなという印象。運動は得意ではなさそうに見える。
猫背気味に立っていて、背は僕よりも頭一つ分低い。
服装はグレイのワンピース。シンプルな格好が好みなのだろうか。背筋を伸ばせばそれなりに人目を引くであろう豊かな胸元が気になる。
ここは僕が通っている大学のキャンパス。通っている全ての学生を見知っている訳じゃないけど、彼女の事を見かけた覚えはない。
僕は大学3年で、多分彼女は後輩だろう。何となく僕よりも年下に見えるし、時期的にも新入生かな?
「あのっ……」
目が合わないから彼女が声を掛けた相手が僕かどうか分からない。でも僕の周りには人はいないし、声を掛けたとしたら僕だと思うんだけど。
僕は昔から思い込みが激しいんじゃないかと周りから言われて来た。自分の耳に入って来た情報を勝手に先読みしたり深読みしたり、時には付け足したりして事実とは全く違う認識をしてしまうタチらしい。
悪い意味での1を聞いて10を知るタイプの人間だなと笑われた事もある。
だから、ただ声を掛けられただけで彼女が僕の事が好きなんじゃないかとか、実は離れ離れになった幼馴染なんじゃないかとか、この出会いは偶然ではなく必然なんじゃないかと運命を感じたりだとかしてしまう。
病気だって? いや、ただの妄想癖さ。じゃなくて。
後輩っぽい女の子に声を掛けられた、というだけで様々な空想をしてしまう悪い癖を押し殺し、僕はただ彼女に声を掛けられただけであると意識しながら答える。
「えーっと、僕に用かな?」
何でもないような顔をして。
僕が答えた事により、彼女の顔が少し上がる。はらっと前髪が横に揺れ、その瞳が見えた。僕の目よりも少し右、僕の肩あたりを見ているような視線。
虹彩と言うのだったか、瞳の色が赤茶色で印象的。もしかしてこれを隠す為に前髪を垂らしているのかな?
目の色でいじめられた経験でもあるのだろうか。何か、そんな話を聞いた事があるような、ないような。
彼女は細い右手の人差し指を僕の肩へ向けた。
何か付いてる? 何がだろうか。あ、もしかして肩にホコリが付いてるよって、わざわざ声を掛けてくれたのだろうか。
ん? でも最初に声を掛けられた時は僕の後ろ姿を見ていた訳だし、ホコリが付いていたとしても見えないよね。
とりあえず右肩をパンパンと払いながら、
「何か付いてた?」
と尋ねると、ゆるゆると首を振る彼女。可愛いというよりも綺麗という印象の子だけど、それ以上にお人形さんのようなイメージが先に来る。
西洋人形とも日本人形とも言えないけど端正な顔立ちで、瞳の色が珍しいのも相まって造り物のような美しさを感じる。
いや、別に整形を指摘している訳じゃないけど。それくらい美人だって意味で。
「ホコリが付いてるから声を掛けてくれたんじゃないの?」
「違います。その……、ついてるんです」
ついている? ホコリではなく?
彼女は細い手を僕に向けたまま、抑揚のない口調で教えてくれた。
「5歳くらいの、女の子」
もしかして、憑いてる?
「肩に顔を乗せて、おんぶされているような格好です」
「マジで……?」
「マジ、です」
これが僕と彼女と、彼女の出会いだったんだ。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。


ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる