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無口な大学生

「動きますよ」

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 真智子の背をつつつっと嫌な汗が流れる。
 同時に、自分がした事のうち、全てを覚えている訳じゃない事に気付く真智子。
 先ほど思い出した赤ちゃんの種の話も、今の今まで真智子の頭の中では存在しない記憶になっていた。

(どうしよう……、洋太はもう大人。私が8歳の洋太にしていた事が、おかしな事だって気付いているはず!)

「次の交差点はどっちっスか?」

「……えっ!? と、左よ」

 動揺を隠せない真智子。もう間が持たないという意識はない。
 過去の自分の行いを洋太がどう思っているのか。
 あの時洋太は寝ていたのか、それとも寝たフリをしていたのか。
 全てを覚えている洋太が再び自分のいるこの街に戻って来た真意は何なのか。
 自分をどうするつもりなのか……。

(どうしようどうしようどうしようどうしよう……!!)

 信号待ち。何も口に出来ず、ただただ内心焦っている真智子。
 チラチラと洋太の顔色を窺うが、特に変化はなさそうに見受けられる。
 若干緊張したままの、少し引き攣った顔。洋太も洋太で間が持たないと思ているのかもしれない。
 洋太も自分とは違う理由ではあるが緊張しているのだなと思い、真智子がやや落ち着きを取り戻しかけたその時。
 洋太の目線の先に、こじんまりとした白いお城が建っているのを見つけてしまった。
 進行方向とは逆。すなわち、帰り道に前を通る。

(まさか、ね……?)

 さすがに自分の考え過ぎだろうと、小さく息を吐いた時。真智子は見てしまった。
 カーナビに表示されている地点登録のピン。その場所が、洋太の目線の先にあるラブホテル周辺にある事に気付いてしまった。

「動きますよ」

 信号が青に変わり、洋太はブレーキから足を離してアクセルをゆっくりと踏み込む。

(えっ、どうなるの? 私どうなっちゃうの!?)

 2人を乗せた車は間もなく、ショッピングモールに到着する。
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