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無口な大学生

洋太の車

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「おはよー」

 土曜日。9時半に真智子が食卓へ顔を出すと、洋太が座っていた。

「もう食べ終わったの?」

「っス」

 洋太はすでに朝食を終えており、ただ食卓に座っているだけの状態。

「あなたを待ってたのよ、ねぇ洋太くん」

「……っス」

 姿勢は良いのに、目線はテーブルを見下ろしてキョロキョロさせている洋太。
 起き抜けで頭の回らない真智子は、母親から受け取ったアイスコーヒーをぐびりと飲んでから洋太へ尋ねる。

「何だった? あー、もしかして買い出しかな? 車出してあげよっか?」

「あ、いえ。車は自分のを出すので、道案内してもらいたいっス」

 洋太はこの街での生活において車移動が必須であると聞いていた為、こちらの大学へ進学するにあたり、運転免許を取得して自動車も用意していた。

「車あるんだー……。えぇっ!?」

「あら、あなた知らなかったの? うちの庭に泊まってるワンボックス、洋太君はあれに乗ってうちに引っ越して来たのよ?
 はぁー、あれだけ大きい車なんだから普通気付くと思うんだけど」

 顔を見るまで、洋太のイメージは小学生のあの頃の華奢で無口で可愛い庇護対象のままであった真智子にとって、洋太が車を運転してこの街に来たなどという想像なんてした事もなかったのだ。

「30分も車を走らせればショッピングモールにアウトレットに大きな家具屋もあるから、真智子に案内してもらいなさいね。
 今日1日で終わらなくても、明日も休みなんだから」

 運転をしない母親にとって、それぞれが全然違う方向である事とか、全て回ろうと思えば本当に1日潰れる事などは考慮されない。
 別に言い返すほどの事ではないので、真智子は黙って食パンを齧っている。

「男の子の部屋に何が必要かなんて全然分からなかったのよ、用意出来なくてごめんなさいね。
 これ、進学祝いと引っ越し祝い。受け取って」

 遠慮する洋太へ半ば無理矢理お祝いを渡す母親。こういう親戚付き合いに慣れていないからか、どうして良いのか分からず困った顔をする洋太に、真智子が素直に貰っておきなさいと助け船を出す。
 ありがとうございます、と頭を下げて両手で祝儀袋を受け取る洋太。

「これで足りなかったら真智子に出させなさいな。どうせ彼氏もいないんだし、年下の男の子の為なら財布のひもも緩むはずよ」

「ちょっとー、一言余計じゃない?」

 まぁ本当の事だけどさ、と母親に笑って返している真智子の目を、洋太がじっと見つめていた。
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