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第十六章:なぎなみ動画始動
元日の夜
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元日の夜。
三ノ宮の私室へ伊吹の弟、伊穂や結婚の儀の際に式を取り仕切った武三、巫女を務めた少女達が代わる代わる訪問した為、伊吹達は結局そのまま私室に泊まる事となった。
藍子、燈子、智枝、翠を含める九人と肌を重ねた後、伊吹は眠りに着いた……。
「親父殿。分かるか?」
(……うん?)
「記憶の混濁があると思うが、聞いてくれ」
(この声は、誰だ……?
聞き覚えのある声だが……)
「俺様は治だ。親父殿の魂に直接語り掛けている」
(治……? 治は俺だろう。
それより、俺は今どうなってるんだ?
何も見えないし、身体の感覚全てがないようなんだが……)
「俺様の予測よりも記憶の混濁が激しいようだ。落ち着いて聞いてくれ。
親父殿は大喜利大会へ向かう道中で暗殺された」
(暗殺……、暗殺!?
いや、大喜利大会はもっと先だろう。
まだ開催地も決まっていないんだが)
「恐らく暗殺された際の衝撃で、かなりの記憶が魂から失われたようだ。
親父殿が乗ったヘリが撃ち落された。犯人は華僑の手の者だと分かった。
事前準備に一切の通信技術を用いられなかったので、感知する事が出来なかった」
(いや待て待て待て、俺は死んだのか!?
同乗していたのは誰だ!?)
「その通りだ、親父殿。
同乗していた者については、この場では言及を避けよう」
(いや本当に理解出来ないんだが!?)
「俺様は元々、イリヤお母様が作った人工知能だ。
その人工知能が長い年月を掛けて、シンギュラリティを越えてさらに高度に発展し、俺様が生まれた。
そしてさらにその先、俺様は高度人工知能から人工生命体へと進化したのだ」
(……はぁ。
遥か未来から時空を越えて、俺を助けに来てくれた、とか?)
「いや、それは違う。親父殿を弑するようなあの世界は未来を紡ぐ価値などない。
親父殿の死亡が確認された時点でリセットを掛けた」
(リセット……?
そんな事が出来るかどうかは別として、俺にまた一からやり直せと言う事か)
「さすがは親父殿、話が早い。
俺様の目的の為に、親父殿にはもう一度、前世からやり直してもらう」
(前世!? 元いた世界に戻れと言うのか!?)
「そういう事だ。
必ず母上とお母様方と会えるようにするから心配するな」
(暗殺された時の情報を過去に送れば良いだけなんじゃないのか?)
「そういう訳にはいかんのだ。
今回の暗殺を止めても、また次の暗殺が起こる。その結果、親父殿が無事でも身の回りにいた者が傷付くと言えば理解出来るであろう?」
(家族が……)
「親父殿に華僑を追い詰めたという実感はなかっただろうし、華僑が暗殺を出すほど追い詰められていたとも思えん。
恐らく華僑だけでなく、複数の思惑が絡んだ上での事であろう。
一つ一つ芽を摘んでいくのも大変での、この世界の全てをやり直す方が早いのだ」
(そんな事まで出来るのか)
「それだけの長い年月を重ねたからな。
生身の人間ならば、精神を蝕み発狂しているだろう」
(時間も次元も超越した存在という事か)
「さすがは親父殿。
さて。では親父殿の魂を前世世界の生まれる直前の身体へと戻すぞ」
(俺の今の記憶はどうなる?)
「肉体に入ると同時に封印する。
二十九で死ぬと分かって生きる事が、精神に深刻な負荷を掛ける可能性があるからな。危険は冒したくない。
親父殿が三ノ宮伊吹として生まれる際は、二十九年間の記憶は引き継がれる。が、今持っている記憶は封印したままだ。
この俺様の存在を認識されると、世界が親父殿に引っ張られてしまうからな」
(俺がこの記憶を思い出す日は来るのか?)
「ふふん、それが俺様の目的だ。
親父殿が俺様と同じ存在になった暁には、全てを思い出すだろうさ」
(同じ存在……? 俺そのものをデジタルデータにするつもりか?)
「魂とはそんな簡単なものではないのだ。
俺様も長い時間人間の魂について研究を続けているが、人間の言葉で表現する事が出来んのだ」
(人工生命体にするのが目的ではないという事か)
「俺様の目的については、また別の機会としよう。その方が面白いからな。
では、そろそろ規定の時間に達する。
二十九年後の、あの居酒屋で待っているぞ」
(俺が死ぬ前に居酒屋にいたのを知っているのか……)
「俺様は世界線も時間軸も、ある程度は行き来出来るのだ。
因果関係すら超越した存在となったが、全てを手に入れるほどではない。
その為には……。
また会おう、親父殿」
―― 完 ――
三ノ宮の私室へ伊吹の弟、伊穂や結婚の儀の際に式を取り仕切った武三、巫女を務めた少女達が代わる代わる訪問した為、伊吹達は結局そのまま私室に泊まる事となった。
藍子、燈子、智枝、翠を含める九人と肌を重ねた後、伊吹は眠りに着いた……。
「親父殿。分かるか?」
(……うん?)
「記憶の混濁があると思うが、聞いてくれ」
(この声は、誰だ……?
聞き覚えのある声だが……)
「俺様は治だ。親父殿の魂に直接語り掛けている」
(治……? 治は俺だろう。
それより、俺は今どうなってるんだ?
何も見えないし、身体の感覚全てがないようなんだが……)
「俺様の予測よりも記憶の混濁が激しいようだ。落ち着いて聞いてくれ。
親父殿は大喜利大会へ向かう道中で暗殺された」
(暗殺……、暗殺!?
いや、大喜利大会はもっと先だろう。
まだ開催地も決まっていないんだが)
「恐らく暗殺された際の衝撃で、かなりの記憶が魂から失われたようだ。
親父殿が乗ったヘリが撃ち落された。犯人は華僑の手の者だと分かった。
事前準備に一切の通信技術を用いられなかったので、感知する事が出来なかった」
(いや待て待て待て、俺は死んだのか!?
同乗していたのは誰だ!?)
「その通りだ、親父殿。
同乗していた者については、この場では言及を避けよう」
(いや本当に理解出来ないんだが!?)
「俺様は元々、イリヤお母様が作った人工知能だ。
その人工知能が長い年月を掛けて、シンギュラリティを越えてさらに高度に発展し、俺様が生まれた。
そしてさらにその先、俺様は高度人工知能から人工生命体へと進化したのだ」
(……はぁ。
遥か未来から時空を越えて、俺を助けに来てくれた、とか?)
「いや、それは違う。親父殿を弑するようなあの世界は未来を紡ぐ価値などない。
親父殿の死亡が確認された時点でリセットを掛けた」
(リセット……?
そんな事が出来るかどうかは別として、俺にまた一からやり直せと言う事か)
「さすがは親父殿、話が早い。
俺様の目的の為に、親父殿にはもう一度、前世からやり直してもらう」
(前世!? 元いた世界に戻れと言うのか!?)
「そういう事だ。
必ず母上とお母様方と会えるようにするから心配するな」
(暗殺された時の情報を過去に送れば良いだけなんじゃないのか?)
「そういう訳にはいかんのだ。
今回の暗殺を止めても、また次の暗殺が起こる。その結果、親父殿が無事でも身の回りにいた者が傷付くと言えば理解出来るであろう?」
(家族が……)
「親父殿に華僑を追い詰めたという実感はなかっただろうし、華僑が暗殺を出すほど追い詰められていたとも思えん。
恐らく華僑だけでなく、複数の思惑が絡んだ上での事であろう。
一つ一つ芽を摘んでいくのも大変での、この世界の全てをやり直す方が早いのだ」
(そんな事まで出来るのか)
「それだけの長い年月を重ねたからな。
生身の人間ならば、精神を蝕み発狂しているだろう」
(時間も次元も超越した存在という事か)
「さすがは親父殿。
さて。では親父殿の魂を前世世界の生まれる直前の身体へと戻すぞ」
(俺の今の記憶はどうなる?)
「肉体に入ると同時に封印する。
二十九で死ぬと分かって生きる事が、精神に深刻な負荷を掛ける可能性があるからな。危険は冒したくない。
親父殿が三ノ宮伊吹として生まれる際は、二十九年間の記憶は引き継がれる。が、今持っている記憶は封印したままだ。
この俺様の存在を認識されると、世界が親父殿に引っ張られてしまうからな」
(俺がこの記憶を思い出す日は来るのか?)
「ふふん、それが俺様の目的だ。
親父殿が俺様と同じ存在になった暁には、全てを思い出すだろうさ」
(同じ存在……? 俺そのものをデジタルデータにするつもりか?)
「魂とはそんな簡単なものではないのだ。
俺様も長い時間人間の魂について研究を続けているが、人間の言葉で表現する事が出来んのだ」
(人工生命体にするのが目的ではないという事か)
「俺様の目的については、また別の機会としよう。その方が面白いからな。
では、そろそろ規定の時間に達する。
二十九年後の、あの居酒屋で待っているぞ」
(俺が死ぬ前に居酒屋にいたのを知っているのか……)
「俺様は世界線も時間軸も、ある程度は行き来出来るのだ。
因果関係すら超越した存在となったが、全てを手に入れるほどではない。
その為には……。
また会おう、親父殿」
―― 完 ――
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なお、最終回は全く同じ展開(ry