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第十六章:なぎなみ動画始動

年始の挨拶

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 元旦早朝。
 伊吹いぶき藍子あいこ燈子とうこ、そして智枝ともえ美子よしこを伴って皇宮へ向かった。
 皇宮から公用車が迎えに来て、パトカーに挟まれて信号が全て青の状態で一般道を進む。
 空が明るくなる前には皇宮へ到着し、通された洋間でソファーに座る。

「元日は国の為に祈ったり儀式を執り行ったりする印象だけど、とりあえずここで待ってたらいいんだろうか」

「はい。皇太子殿下がお時間を見てこちらへお出でになるそうです」

 智枝が伊織いおり付きの執事とやり取りをし、今回の訪問となった。正月くらい顔を出せ、というとても当たり前のような理由での呼び出しだ。

 皇族、それも皇太子となると年明けから様々な儀式で忙しいだろうに、ようやく会えるようになったのだから時間を作ってゆっくり話したい、との事だ。
 伊織はこうして無理やりにでも時間を作らないと、いつまで経っても顔を合わせる事が出来ない立場である。

 しばらく雑談しながら待っていると、先触れとして来た侍女がまもなくお出でになります、と教えに来た。

「待たせたな」

 ソファーに座っていた伊吹、藍子、燈子が立ち上がり、頭を下げる。

「「「明けましておめでとうございます」」」

「あぁ、おめでとう。今年もよろしく、な。
 まぁ、とりあえず座ってくれ」

 伊織はソファーに座って早々、伊吹を手招きして顔を近付けさせ、小声で転生の件を皆に伝えているのかを確認した。

「あぁ、全員知ってるよ。どこまで信じてくれてるかは別にして」

「そうか、じゃあ俺が転生者だって事も知ってる訳だな?」

「もちろん。例のDVDを皆で見たからね」

 伊吹は話の流れ的にちょうど良いと判断し、手土産として用意した「月明かりの使者」の特製CD-BOX仕様版を伊織へ手渡す。

「おぉ、未発売のCDがひと月前に手に入るなんてなかなか出来ない経験だな」

「それ以外にも出来ない経験いっぱいしてんじゃねぇの?」

「まぁそうだけどよぉ」

 笑い合う伊吹息子伊織父親だが、二人とも前世での仲の良い相手への接し方になっている為、周りは非常にドキマギとしている。
 それに気付いている二人だが、こればかりは改められないなぁと内心思っている。

「そうそう、一応三ノ宮さんのみやの私室も用意させてあるからな。
 ここで育った訳ではないとはいえ、実家ではあるんだからな」

「お父様と話すより黙って私室にいる方が緊張しそうだな」

 伊吹の渾身のギャグは伊織しか笑わせる事が出来なかった。

「そうだ、他の転生者と話して分かった事があるんだけどさ、どうもそれぞれ別々の並行世界から来てるっぽいんだよね。
 お父様が住んでた日本の正式名称って何?」

「何ってお前、大日本皇国は大日本皇国だろ?」

 あー、とリアクションする伊吹を見て、伊織が目を見開く。

「もしかして、伊吹は大日本皇国じゃない国だったのか?」

「俺は大の付かない日本皇国で、他にはただの日本国と大日本帝国っていう人もいたよ」

「同じ日本なのに国名が違うのか……、不思議な話だな。
 ってかそれで良くビートルズが共通で存在してたな」

 そうなんだよ、と伊吹がさらに事情を説明しようとするが、伊織付きの侍女が時間であると告げる。

「悪い、これでも忙しい身でな」

「いや、分かってるから大丈夫。また顔を出すよ。
 って気軽に来れる場所じゃないけど」

「だから言っただろ? 私室が用意してあるんだから、ここは気軽に来れる場所なんだよ。
 まぁ、来るとなると事前に皇宮警察に連絡して信号を全部青にしてもらう必要があるがな」

「それが気軽じゃないんだよなぁ」

 伊吹の返事に伊織が笑って同意する。

「両陛下も合間を見て伊吹の顔を見に来ると仰っていた。
 もう少ししたら伊穂いおも来ると思うから、私室の確認でもして待っててやってくれ」

 伊織はそう言って立ち上がり、美子へ向き直った。

「美子。遅くなったが、咲弥さくやに付き添ってくれてありがとうな。
 それと、これからも息子を頼む」

 壁際に控えていた美子が跪いて応えた。

「相変わらず気楽には話せないか、まぁしゃあないわな。
 京香きょうかにもよろしく伝えておいてくれ。娘達にもな。元気な孫を見せに来てくれってな」

 そう言って、伊織は去って行った。

「あ、そっか。俺が世間に顔見せしたって事は、お父様も両陛下も、俺が美哉みや橘香きっかを妊娠させた事が伝わってるって事なのか。
 どうせだったら今日改めて伝えれば良かったな」

「ご主人様、申し訳ございません。私が気が利かず……」

 智枝が頭を下げる。皇宮へ二人の妊娠を伝えたのは智枝だ。
 執事として、伊吹から伊織に直接伝えるように進言すべきだったと今、気付いたのだ。
 他の男性であれば、そのような事まで気が利かせる事がない為、智枝もそこまでする必要があると気が付かなかったのだ。

「いや、良いよ。僕が自分で気付くべきだった。
 また今度会ったら時に経過報告も合わせて伝えるようにするよ」
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