220 / 243
第十五章:結婚式
家族写真
しおりを挟む
「くっくっくっ、心乃夏。野望が潰えたな」
「野望?」
「自分の孫を皇王にしたかったんじゃないか?」
浮かべていた笑顔が消え、心乃夏は無表情になってしまう。
心乃夏は心乃春の一卵性の妹であり、皇宮の侍女をまとめる役職に就いている、と自己紹介をした。
「殿下、有耶無耶になったのではなく、私が皇宮内を統制して三ノ宮の御子への不可侵を認めさせたのです。
殿下と姪と姉のわがままを受け入れたこの私の働きがあればこそ。多少は評価して頂ければと存じますが」
「心乃夏には十分に尽くしてもらっているよ。いつもありがとう」
伊織の感謝を受けてもなお無表情の心乃夏。いつもの二人のやり取りなのだろう、と伊吹は受け取った。
「両陛下のご準備がもう間もなく整いますので、そろそろご移動をお願い致します」
「おや、じゃなくてお父様。両陛下ってもしかして……」
「俺の実の両親であり、お前の父方祖父母だな」
血統は世界で一番由緒正しいとはいえ、中身が一般人である伊吹は、緊張のあまりガタガタと震えだす。
「どうしよ、俺そんな礼儀とか作法とか分からねぇよ!」
「開き直れ、心乃夏の助言通りにやれば何とかなる。
この俺の両親だぞ? 公式の場では別だが、多少の失敗なんざ気にしないさ」
伊織の言葉がどこまで信じられるか分からない為、伊吹はあわあわし続ける。
「さぁ、こちらをお飲みになって落ち着いて下さいませ」
心乃夏が伊吹の口に盃を運び、半ば無理やり飲み込ませる。
「これ酒じゃないか!?
酔っぱらって失態犯したらどうするんですか!?」
「どうしようと思われている間は大丈夫でございます。ささ、参りましょう」
「いや、そもそも何をしに行くの!?
顔を合わせるだけ? 何かしらの儀式?」
取り乱す伊吹をよっこいせと立たせて、心乃夏が腕を引いて伊吹を誘導する。その後ろを楽し気について歩く伊織。
「写真撮影だよ、家族揃ってのな」
皇宮内の庁舎中央玄関上のバルコニー、真ん中に黒の燕尾服で正装をした皇王が立ち、その左に純白のロングドレス姿の皇后が控える。
皇王、皇后の右隣に伊織、藍子、伊吹、燈子の順番で立ち、伊吹達三人は言われた通りに階下参列客や報道陣に向けて手を振っている。
「お、お父様? 僕の皇位継承順位だけでも今すぐに教えてもらえません?」
口を動かさず、笑顔を張り付けたまま小声で伊織へと問いかける伊吹。
伊織も口を動かさないまま答える。
「お前は三位だよ。三ノ宮だからな」
皇位継承順位の一位が皇太子である伊織だとして、自分が三位ならばやはり兄がいるのではないか、いや叔父がいるのか、などと伊吹が考え込んでいる間に、顔見せの時間が終わり、全員がバルコニーから室内へと戻る。
先ほどと同じ並びで立ち、足を引き、背筋を伸ばし、顎を引いて、とカメラマンに言われるがまま伊吹が姿勢を変える。
藍子も燈子も同じように指示を受けて、撮影が終わる。
ソファーへ誘導され、皇王と皇后の真ん前の位置へ座るよう促され、伊吹はまた極度の緊張に襲われる。
「めでたい。今日は良き日だ」
「えぇ、とっても良き日でございますわ」
ニコニコと伊吹、藍子、燈子を眺める祖父母に対し、伊吹が意を決して口を開く。
「皇王陛下、皇后陛下。
お初にお目に掛かります、伊吹と申します。
この度は私達の結婚の儀に際し、お時間を賜りましてありがとうございます」
「うん。心乃春から時々写真が送られて来ていたからね、初めて会ったような気がしないよ」
心乃春は心乃夏経由で伊吹の成長を皇宮へ報告していたのだ。いくら娘である咲弥の遺言とはいえ、最低限必要の連絡はしていたのである。
「皇王陛下。私を見守って下さいまして、ありがとうございます。
お陰様で、このような素晴らしい妻達と出会い、結ばれる事が出来ました」
皇王が伊吹へ頷いてみせる。
「そして皇后陛下。妻達に大変貴重なお衣装をお貸し下さいましてありがとうございます」
「お衣装は着てこそ本当の価値がございます。とてもお似合いで良かったわ」
皇后が藍子と燈子の手を取って微笑み、そう伝える。
二人は恐縮と感動で震え、うるうると目に涙を浮かべている。
「両陛下、そろそろお時間でございます」
心乃夏が声を掛け、皇王と皇后がソファーを立つ。
「またの機会にゆっくりと話そう。
ふふっ、Alphadealとの一件はなかなかに胸がすく思いだったぞ。
さすが伊織と咲弥の子だ、わんぱくで大いに結構!」
皇王が口角を上げ、不敵な笑みを浮かべる。
先ほどまでの朗らかな印象からがらりと変わった事で、伊吹は背中に冷や汗が吹き出る。
「あなた」
「おっと。それでは、また近いうちにね」
伊吹、藍子、燈子が頭を下げて皇王、皇后を見送る。
二人と入れ替わるように、伊吹と同い年ほどの燕尾服姿の青年が室内へ入って来た。
「兄上。ご結婚おめでとうございます」
「野望?」
「自分の孫を皇王にしたかったんじゃないか?」
浮かべていた笑顔が消え、心乃夏は無表情になってしまう。
心乃夏は心乃春の一卵性の妹であり、皇宮の侍女をまとめる役職に就いている、と自己紹介をした。
「殿下、有耶無耶になったのではなく、私が皇宮内を統制して三ノ宮の御子への不可侵を認めさせたのです。
殿下と姪と姉のわがままを受け入れたこの私の働きがあればこそ。多少は評価して頂ければと存じますが」
「心乃夏には十分に尽くしてもらっているよ。いつもありがとう」
伊織の感謝を受けてもなお無表情の心乃夏。いつもの二人のやり取りなのだろう、と伊吹は受け取った。
「両陛下のご準備がもう間もなく整いますので、そろそろご移動をお願い致します」
「おや、じゃなくてお父様。両陛下ってもしかして……」
「俺の実の両親であり、お前の父方祖父母だな」
血統は世界で一番由緒正しいとはいえ、中身が一般人である伊吹は、緊張のあまりガタガタと震えだす。
「どうしよ、俺そんな礼儀とか作法とか分からねぇよ!」
「開き直れ、心乃夏の助言通りにやれば何とかなる。
この俺の両親だぞ? 公式の場では別だが、多少の失敗なんざ気にしないさ」
伊織の言葉がどこまで信じられるか分からない為、伊吹はあわあわし続ける。
「さぁ、こちらをお飲みになって落ち着いて下さいませ」
心乃夏が伊吹の口に盃を運び、半ば無理やり飲み込ませる。
「これ酒じゃないか!?
酔っぱらって失態犯したらどうするんですか!?」
「どうしようと思われている間は大丈夫でございます。ささ、参りましょう」
「いや、そもそも何をしに行くの!?
顔を合わせるだけ? 何かしらの儀式?」
取り乱す伊吹をよっこいせと立たせて、心乃夏が腕を引いて伊吹を誘導する。その後ろを楽し気について歩く伊織。
「写真撮影だよ、家族揃ってのな」
皇宮内の庁舎中央玄関上のバルコニー、真ん中に黒の燕尾服で正装をした皇王が立ち、その左に純白のロングドレス姿の皇后が控える。
皇王、皇后の右隣に伊織、藍子、伊吹、燈子の順番で立ち、伊吹達三人は言われた通りに階下参列客や報道陣に向けて手を振っている。
「お、お父様? 僕の皇位継承順位だけでも今すぐに教えてもらえません?」
口を動かさず、笑顔を張り付けたまま小声で伊織へと問いかける伊吹。
伊織も口を動かさないまま答える。
「お前は三位だよ。三ノ宮だからな」
皇位継承順位の一位が皇太子である伊織だとして、自分が三位ならばやはり兄がいるのではないか、いや叔父がいるのか、などと伊吹が考え込んでいる間に、顔見せの時間が終わり、全員がバルコニーから室内へと戻る。
先ほどと同じ並びで立ち、足を引き、背筋を伸ばし、顎を引いて、とカメラマンに言われるがまま伊吹が姿勢を変える。
藍子も燈子も同じように指示を受けて、撮影が終わる。
ソファーへ誘導され、皇王と皇后の真ん前の位置へ座るよう促され、伊吹はまた極度の緊張に襲われる。
「めでたい。今日は良き日だ」
「えぇ、とっても良き日でございますわ」
ニコニコと伊吹、藍子、燈子を眺める祖父母に対し、伊吹が意を決して口を開く。
「皇王陛下、皇后陛下。
お初にお目に掛かります、伊吹と申します。
この度は私達の結婚の儀に際し、お時間を賜りましてありがとうございます」
「うん。心乃春から時々写真が送られて来ていたからね、初めて会ったような気がしないよ」
心乃春は心乃夏経由で伊吹の成長を皇宮へ報告していたのだ。いくら娘である咲弥の遺言とはいえ、最低限必要の連絡はしていたのである。
「皇王陛下。私を見守って下さいまして、ありがとうございます。
お陰様で、このような素晴らしい妻達と出会い、結ばれる事が出来ました」
皇王が伊吹へ頷いてみせる。
「そして皇后陛下。妻達に大変貴重なお衣装をお貸し下さいましてありがとうございます」
「お衣装は着てこそ本当の価値がございます。とてもお似合いで良かったわ」
皇后が藍子と燈子の手を取って微笑み、そう伝える。
二人は恐縮と感動で震え、うるうると目に涙を浮かべている。
「両陛下、そろそろお時間でございます」
心乃夏が声を掛け、皇王と皇后がソファーを立つ。
「またの機会にゆっくりと話そう。
ふふっ、Alphadealとの一件はなかなかに胸がすく思いだったぞ。
さすが伊織と咲弥の子だ、わんぱくで大いに結構!」
皇王が口角を上げ、不敵な笑みを浮かべる。
先ほどまでの朗らかな印象からがらりと変わった事で、伊吹は背中に冷や汗が吹き出る。
「あなた」
「おっと。それでは、また近いうちにね」
伊吹、藍子、燈子が頭を下げて皇王、皇后を見送る。
二人と入れ替わるように、伊吹と同い年ほどの燕尾服姿の青年が室内へ入って来た。
「兄上。ご結婚おめでとうございます」
99
お気に入りに追加
544
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
シン・三毛猫現象 〜自然出産される男が3万人に1人の割合になった世界に帰還した僕はとんでもなくモテモテになったようです〜
ミコガミヒデカズ
ファンタジー
気軽に読めるあべこべ、男女比モノです。
以前、私がカクヨム様で書いていた小説をリメイクしたものです。
とあるきっかけで異世界エニックスウェアに転移した主人公、佐久間修。彼はもう一人の転移者と共に魔王との決戦に挑むが、
「儂の味方になれば世界の半分をやろう」
そんな魔王の提案に共に転移したもう一人の勇者が応じてしまう。そんな事はさせないと修は魔王を倒そうとするが、事もあろうに味方だったもう一人の勇者が魔王と手を組み攻撃してきた。
瞬間移動の術でなんとか難を逃れた修だったが、たどり着いたのは男のほとんどが姿を消した異世界転移15年後の地球だった…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる