218 / 243
第十五章:結婚式
対面
しおりを挟む
皇宮内に勤める侍女が伊吹に一礼して、式場の外へと歩き出す。伊吹は何も言わず、それに続く。
式場を出て、左へ曲がる。
いくつかの部屋を通り過ぎ、さらに左へと曲がると、木で出来た大きな開き扉があった。
待機していた侍女達が伊吹へ頭を下げ、扉を押し開ける。
さらに廊下が続き、奥の部屋の前で、誘導していた侍女が襖に手を掛け、伊吹の方へ向き直り、頭を下げてから襖を開けた。
そこは二十畳ほどの広間になっており、奥には御簾が掛けられている。式場が見えるような作りだ。
御簾の前に、純白の斎服、束帯は赤くて黄を帯びた色、色烏帽子を被った、伊吹とほぼ同じ格好をした男性が立っていた。
(あれも儀式用か……?)
唯一違うのは、その顔には黒く塗られたおたふくのお面を付けている事。
伊吹がお面を見つめながら部屋へ入ると、ゆっくりと襖が閉められた。この広間にいるのは伊吹と、黒いおたふくのお面を付けた男性の二人きり。
何と言おうか、伊吹は言葉が出て来ない。
(俺が生まれた事は知っていたのか)
(お母様とはどうやって出会ったんだろうか)
(どういう想いで外の暮らしをさせていたのか)
(DVDのお礼も言わないとな)
(YourTunesで活動している事をどう思っているんだろうか)
(再現したビートルズの楽曲は気に入ってくれてるんだろうか)
(月明かりの使者ってバンド名をどう思っただろうか)
(……お母様を愛していたんだろうか)
(俺の事、どう思ってるんだろうか)
喉まで出かかっては引っ込んでいく、様々な想い。伊吹は口を開いては閉じて、何も言葉を発せずにいる。
ようやく会う事が出来た父親への想いが溢れ、伊吹の目に涙がたまっていく。
「ぁーぃ、んんっ!!」
「……?」
お面の下で、男性が何か呟きかけて、咳払いをした。伊吹は首を傾げて様子を見ている。
(何を言おうとしているんだ……?)
「あーーいあむゆわふぁーーざーーー」
「っ!? ノー、ノーーー!!」
伊吹は咄嗟にスペースオペラの一幕を思い出し、息子のセリフを叫んだ。
(だから黒いおふくのお面を被ってたのね……)
伊吹は父、伊織と御神酒を飲み交わす。
三献の儀で口にしたのが伊吹にとって久しぶりの、いや今世では初めての飲酒である。
「はっはっはっ! しかし伝わって良かった。
スベったらどうしようかと思ったぞ」
「いや、初っ端から思い切りぶち込んで来ましたね。
せめて手に赤い扇子持つとかもうちょっと分かりやすくしといてもらわないと」
伊織に渡された盃をグイっと飲み干したのもあり、気分が高揚してすっかり伊織と打ち解けている。
元々伊織自身が息子である伊吹に堅苦しく接されるのを嫌がったので、先ほどの映画のワンシーンを模した再会を演出したのだ。
「まぁまぁ飲め飲め」
「いやさ、前世の死因が酒飲んだ後に後ろから突き飛ばされての交通事故死だから、この世界では一切飲むつもりなかったんですよね」
「んな堅苦しい事言うなよ、親子で飲むのが前世からの夢だったんだよ。付き合ってくれよ」
「そりゃ皇太子殿下にお勧めされたら断れませんけども」
「おい、今くらい自分の立場を忘れさせろよ、敬語もなしだ。
転生者同士仲良くやろうぜ」
「おう、分かったー」
「変わり身早いな!?」
「「はっはっはっはっはっ!!」」
ノリが合う親子なのだった。
式場を出て、左へ曲がる。
いくつかの部屋を通り過ぎ、さらに左へと曲がると、木で出来た大きな開き扉があった。
待機していた侍女達が伊吹へ頭を下げ、扉を押し開ける。
さらに廊下が続き、奥の部屋の前で、誘導していた侍女が襖に手を掛け、伊吹の方へ向き直り、頭を下げてから襖を開けた。
そこは二十畳ほどの広間になっており、奥には御簾が掛けられている。式場が見えるような作りだ。
御簾の前に、純白の斎服、束帯は赤くて黄を帯びた色、色烏帽子を被った、伊吹とほぼ同じ格好をした男性が立っていた。
(あれも儀式用か……?)
唯一違うのは、その顔には黒く塗られたおたふくのお面を付けている事。
伊吹がお面を見つめながら部屋へ入ると、ゆっくりと襖が閉められた。この広間にいるのは伊吹と、黒いおたふくのお面を付けた男性の二人きり。
何と言おうか、伊吹は言葉が出て来ない。
(俺が生まれた事は知っていたのか)
(お母様とはどうやって出会ったんだろうか)
(どういう想いで外の暮らしをさせていたのか)
(DVDのお礼も言わないとな)
(YourTunesで活動している事をどう思っているんだろうか)
(再現したビートルズの楽曲は気に入ってくれてるんだろうか)
(月明かりの使者ってバンド名をどう思っただろうか)
(……お母様を愛していたんだろうか)
(俺の事、どう思ってるんだろうか)
喉まで出かかっては引っ込んでいく、様々な想い。伊吹は口を開いては閉じて、何も言葉を発せずにいる。
ようやく会う事が出来た父親への想いが溢れ、伊吹の目に涙がたまっていく。
「ぁーぃ、んんっ!!」
「……?」
お面の下で、男性が何か呟きかけて、咳払いをした。伊吹は首を傾げて様子を見ている。
(何を言おうとしているんだ……?)
「あーーいあむゆわふぁーーざーーー」
「っ!? ノー、ノーーー!!」
伊吹は咄嗟にスペースオペラの一幕を思い出し、息子のセリフを叫んだ。
(だから黒いおふくのお面を被ってたのね……)
伊吹は父、伊織と御神酒を飲み交わす。
三献の儀で口にしたのが伊吹にとって久しぶりの、いや今世では初めての飲酒である。
「はっはっはっ! しかし伝わって良かった。
スベったらどうしようかと思ったぞ」
「いや、初っ端から思い切りぶち込んで来ましたね。
せめて手に赤い扇子持つとかもうちょっと分かりやすくしといてもらわないと」
伊織に渡された盃をグイっと飲み干したのもあり、気分が高揚してすっかり伊織と打ち解けている。
元々伊織自身が息子である伊吹に堅苦しく接されるのを嫌がったので、先ほどの映画のワンシーンを模した再会を演出したのだ。
「まぁまぁ飲め飲め」
「いやさ、前世の死因が酒飲んだ後に後ろから突き飛ばされての交通事故死だから、この世界では一切飲むつもりなかったんですよね」
「んな堅苦しい事言うなよ、親子で飲むのが前世からの夢だったんだよ。付き合ってくれよ」
「そりゃ皇太子殿下にお勧めされたら断れませんけども」
「おい、今くらい自分の立場を忘れさせろよ、敬語もなしだ。
転生者同士仲良くやろうぜ」
「おう、分かったー」
「変わり身早いな!?」
「「はっはっはっはっはっ!!」」
ノリが合う親子なのだった。
98
お気に入りに追加
512
あなたにおすすめの小説
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
異世界に転生したと思ったら、男女比がバグった地球っぽい!?
ぱふ
恋愛
ある仕事終わりの帰り道、主人公前田世一は連勤の疲れが祟って車に轢かれてしまった。朦朧とする意識の中、家族や今世での未練に悔見ながら気を失ってしまった。そして、目が覚めると知らない天井でいつもと違う場所でにいて、さらに調べると男女比がバグっていた!?これで前世の未練や夢を叶えることができる!そう思って様々なことに挑戦していこうと思った矢先、ある少女と出会った。ぱっとみは可憐な少女だったが中身はドMでやばいやつだった!?そんな、やばめな少女から逃げようと別の子に話しかけたら次はドSなやばい少女がいて、愛が重い少女に監禁されかけて、ドロドロに甘やかしてくれるお姉さんに溶かされて、この世界の洗礼を受けていく。「助けて〜!この世界やばい人しかいないんだけど!」そんな悲痛な叫びが鳴り止まない過激なラブコメが始まる。*カクヨム様ハーメルン様にも掲載しています*
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
貞操逆転世界ではキモデブの俺の遺伝子を美少女達が狙っている!!!!
お小遣い月3万
恋愛
貞操逆転世界ではキモデブのおっさんでもラブコメ無双である。
美少女達が俺の遺伝子を狙っていて、ハーレムどころの騒ぎじゃない。
幼馴染の美少女も、アイドル似の美少女も俺のことを狙っている。
痴女も変態女も俺のことを狙っている。
イモっこいお嬢様ですら俺のことを狙っている。
お前も俺のことを狙っているのか!
美少女達とイチャイチャしたり、痴女に拉致されたり、変態女に襲われて逃げたり、貞操逆転世界は男性にとっては大変である。
逆にモテすぎて困る。
絶対にヤレる美少女達が俺を落とすために、迫って来る。
俺は32歳の童貞だった。アダルトビデオに登場するようなブリーフ親父に似ている。しかも体重は100キロである。
働いたら負け、という名言があるように、俺は誰にも負けていなかった。
だけどある日、両親が死んで、勝ち続けるための資金源が無くなってしまった。
自殺も考えたけど死ぬのは怖い。だけど働きたくない。
俺の元へ政府の人間がやって来た。
将来、日本になにかあった時のためにコールドスリープする人間を探しているらしい。コールドスリープというのは冷凍保存のことである。
つまり絶望的な未来が来なければ、永遠に冷凍庫の隅っこで眠り続けるらしい。
俺は死んでも働きたくないので冷凍保存されることになった。
目覚めたら、そこは貞操逆転世界だった。
日本にとっては絶望的な未来だったのだ。男性は俺しかいない。
そんな日本を再生させるために、俺が解凍されたのだ。
つまり俺は日本を救う正義のヒーローだった。
じゃんじゃんセッ◯スしまくって女の子を孕ませるのが、正義のヒーローの俺の役目だった。
目覚めた俺は32歳なのに17歳という設定で高校に通い始める。謎展開である。学園ラブコメが始まってしまう。
もしかしたら学生の頃のトラウマを払拭させるために17歳という設定を押し付けられているのかもしれない。
そして俺は初恋である幼馴染の遺伝子を持った女の子と同じクラスになった。
あの時ヤリたかったあんな事やこんな事をしまくれる。絶対に幼馴染とヤレるラブコメ。
目覚めたらハーレムどころの騒ぎじゃなかった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる