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第十五章:結婚式

対面

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 皇宮内に勤める侍女が伊吹いぶきに一礼して、式場の外へと歩き出す。伊吹は何も言わず、それに続く。

 式場を出て、左へ曲がる。
 いくつかの部屋を通り過ぎ、さらに左へと曲がると、木で出来た大きな開き扉があった。
 待機していた侍女達が伊吹へ頭を下げ、扉を押し開ける。
 さらに廊下が続き、奥の部屋の前で、誘導していた侍女が襖に手を掛け、伊吹の方へ向き直り、頭を下げてから襖を開けた。

 そこは二十畳ほどの広間になっており、奥には御簾が掛けられている。式場が見えるような作りだ。
 御簾の前に、純白の斎服さいふく束帯そくたいは赤くて黄を帯びた色、色烏帽子を被った、伊吹とほぼ同じ格好をした男性が立っていた。

(あれも儀式用か……?)

 唯一違うのは、その顔には黒く塗られたおたふくのお面を付けている事。

 伊吹がお面を見つめながら部屋へ入ると、ゆっくりと襖が閉められた。この広間にいるのは伊吹と、黒いおたふくのお面を付けた男性の二人きり。

 何と言おうか、伊吹は言葉が出て来ない。

(俺が生まれた事は知っていたのか)

(お母様とはどうやって出会ったんだろうか)

(どういう想いで外の暮らしをさせていたのか)

(DVDのお礼も言わないとな)

YourTunesユアチューンズで活動している事をどう思っているんだろうか)

(再現したビートルズの楽曲は気に入ってくれてるんだろうか)

(月明かりの使者ってバンド名をどう思っただろうか)

(……お母様を愛していたんだろうか)

(俺の事、どう思ってるんだろうか)


 喉まで出かかっては引っ込んでいく、様々な想い。伊吹は口を開いては閉じて、何も言葉を発せずにいる。
 ようやく会う事が出来た父親への想いが溢れ、伊吹の目に涙がたまっていく。



「ぁーぃ、んんっ!!」

「……?」

 お面の下で、男性が何か呟きかけて、咳払いをした。伊吹は首を傾げて様子を見ている。

(何を言おうとしているんだ……?)



「あーーいあむゆわふぁーーざーーー」

「っ!? ノー、ノーーー!!」

 伊吹は咄嗟にスペースオペラの一幕を思い出し、息子のセリフを叫んだ。

(だから黒いおふくのお面を被ってたのね……) 


 伊吹は父、伊織いおりと御神酒を飲み交わす。
 三献の儀で口にしたのが伊吹にとって久しぶりの、いや今世では初めての飲酒である。

「はっはっはっ! しかし伝わって良かった。
 スベったらどうしようかと思ったぞ」

「いや、初っ端から思い切りぶち込んで来ましたね。
 せめて手に赤い扇子持つとかもうちょっと分かりやすくしといてもらわないと」

 伊織に渡された盃をグイっと飲み干したのもあり、気分が高揚してすっかり伊織と打ち解けている。
 元々伊織自身が息子である伊吹に堅苦しく接されるのを嫌がったので、先ほどの映画のワンシーンを模した再会を演出したのだ。

「まぁまぁ飲め飲め」

「いやさ、前世の死因が酒飲んだ後に後ろから突き飛ばされての交通事故死だから、この世界では一切飲むつもりなかったんですよね」

「んな堅苦しい事言うなよ、親子で飲むのが前世からの夢だったんだよ。付き合ってくれよ」

「そりゃ皇太子殿下にお勧めされたら断れませんけども」

「おい、今くらい自分の立場を忘れさせろよ、敬語もなしだ。
 転生者同士仲良くやろうぜ」

「おう、分かったー」

「変わり身早いな!?」

「「はっはっはっはっはっ!!」」

 ノリが合う親子なのだった。
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