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第十四章:結婚式に向けて

立食交流会

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 福乃ふくのがいつものように訪ねて来て、伊吹いぶきに立食交流会に出席するよう依頼してきた。

 依頼と福乃は表現したが、これは実質的に伊吹の為の経験をする場の提供である。
 福乃曰く、結婚した男性は多くの女性と顔を合わせる場に出席しなければならない。気に入った相手がいれば一夜を共にするのも男性の務めであると聞かされた。

 伊吹は合コンとお持ち帰りを思い浮かべ苦笑する。
 前世では合コンどころか女性と付き合った事もなく、会話するほどの仲になれたのは姉達かその友達のみ。
 姉の友達に手を出そうものなら、姉達にどう言われるか分からないので、何も出来ずにいたのだ。

 伊吹と一緒に福乃の話を聞いていた藍子達八人は、特に嫌そうな顔を見せない。
 心中は別としても、この世界では常識的な話なのだろうと受け止めた。
 ただ一人、マチルダだけはニヤニヤと伊吹の顔を観察していたが。

 この立食交流会は宮坂家の関係者と、宮坂家と親交の深い家の女性達が集められる。
 福乃は曖昧にぼかしていたが、三ノ宮家さんのみやけと宮坂家の二家と、利害が一致しない家に男子が生まれるのは都合が悪いのだ。

 宮坂家は男子が増える可能性があり、親交の深い家との繋がりをさらに深く出来て、三ノ宮家は後援者を増やす事が出来る。
 まさに共存共栄、持ちつ持たれつ。そして伊吹はくんずほぐれつという訳である。


 そして立食交流会当日。
 伊吹はスモークの貼られたワンボックスカーの窓から外の景色を眺めていた。

(目に入るもの全て俺のものなのか……)

 宮坂家から結納と、GoolGoalゴルゴルとのゴタゴタの末に送られた周辺の土地建物。
 
 実感が沸かず、不思議な感覚の中、ビルから出たのが三ヶ月ぶりとなるのも相まって、伊吹はご機嫌で藍子あいこ燈子とうこに話し掛けている。

 藍子は紫を基調に、燈子は赤を基調とした落ち着いた暗色系のパーティードレス姿で、伊吹は黒のタキシード姿だ。
 車には美哉みや橘香きっかも乗っており、いつも通りの侍女服姿で控えている。
 智枝ともえ柴乃しのみどり琥珀こはくは交流会運営の為に先に会場に入っている。

 交流会の場所は、藍吹伊通あぶいどおり一丁目内のビルの一室。
 このビルはVividColorsヴィヴィッドカラーズ本社の新社屋の一棟で、多目的ホールとして一階から五階までをワンフロアにぶち抜き、パーティー会場として利用出来るように改築されていた。
 その他の小部屋は女性達の化粧室であったり、ベッドが用意されていたりとなっている。


 伊吹が藍子と燈子を伴って会場入りすると、歓談中であった女性達が口を閉じ、一斉に伊吹へ向き直る。

 直接視線を顔には向けずに、伊吹の胸元あたりを見て、そして一礼をする。
 五十名ほどの女性達に礼をされ、居心地悪い思いをする伊吹であるが、事前に福乃に教えられた通り、何も答えずに皆が空けた道を通って奥へと歩く。

 男性とその連れには専用のテーブルと椅子が用意されており、基本的にはその周りで過ごすのが一般的だ。
 伊吹が椅子にかけ、その両隣に藍子と燈子がかけたのを確認し、福乃が伊吹達のテーブルへと歩み寄る。

「ようこそお越し下さいました。お飲み物は何になさいますか?」

 いつもの気安い福乃ではなく、着飾った余所行き姿の福乃に少し圧倒されつつ、伊吹はアイスティーを頼む。藍子と燈子も同じものを頼んだ。

 福乃がウエイトレス(役を買って出た伊吹の侍女)に指示して、食事が乗った小皿を複数枚テーブルへ持ってこさせる。
 伊吹が一口、二口と食事を口にしたのをきっかけに、立食交流会の本番が始まる。

「お初にお目にかかります。私は……」

 少し年齢が高めのお姉様が伊吹へと挨拶をする。
 彼女は宮坂家の分家当主であり、その隣に次期当主である年若い女性が話を振られるのを待っている。

「こちらは私の娘の……」

 母親が娘を男性に紹介する事で、今晩何があっても私は全て心得ております、という暗黙の了解を示しているのだ。

 この挨拶の場では一言二言交わすに留め、気になった相手がいた場合は改めて呼びつけるか、自ら声を掛けに行く、というのがこの立食交流会の目的となる。

 藍子も燈子も、本来であればこういう交流会に出る立場だったと聞かされて、伊吹は胸の痛い思いをした。初対面の男に抱かれる事に対する同情心だ。

 しかし、その二人から可能な限り相手をしてあげてほしいと言われてしまい、これもこの世界の為かと、大人しく挨拶を受けている。

 まだ高校生だったり、中には中学生を紹介される事もあるが、初潮を迎えて人工授精の順番が回って来ていないもの、という条件でこの場に集められており、この世界の倫理観的には問題ない。

「こちら、娘の空音そらねでございます。先日十七になりました」

「お初にお目にかかります。宮坂空音と申します。
 伊吹様、後ろの侍女を捨てて私を雇いませんこと?
 決して後悔はさせませんわよ」

 ただし、制服姿の少女を受け入れるかどうかは、伊吹次第になるのだが。
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