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第九章:事業拡大

お気持ち動画撮影

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「つまり……、副社長のお顔をドット絵で表現して紙に印刷して台紙に貼り付け、それを被って動画を撮影されるって事ですか?」

「そう。別に似てなくても良いんですけどね」

 何度も伊吹と打ち合わせで顔を合わせた事により、多恵子もある程度緊張せずに会話をする事が出来ている。
 また、伊吹がVCスタジオに初めて赴いた際の発言を真に受けて、現在の多恵子はふわふわの真紅のドレス姿だ。

(これってゴスロリファッションってヤツかな?
 やっぱりオタク文化にはこういう服装が似合うよな。
 安藤あんどう乃絵流のえるのコスプレってこんなイメージなんじゃないだろうか)

 多恵子と話ながら、伊吹はちょっとした悪戯心を出した。
 背の低い多恵子を乃絵流に見立て、妹に頼み事をする兄のように、伊吹は両手を合わせて上目遣いで見つめる。

「こういうの、乃絵流のえるなら出来るかなぁと思って。
 ね? 頼むよ。お兄ちゃんの為だと思ってさ」

 伊吹のお願いを受けた多恵子は目を見開き、雷に打たれたように全身を震わせる。
 そして伊吹の手を包み込むように握り、答える。

「お任せ下さいまし、お兄様。簡単な作業ですのでお気になさらず。
 すぐに戻りますのでしばしお待ちになって?」

 そう言い残し、上品な所作で足早に事務所を出て行った。

「ノリが良いね。乃絵流の魂を憑依させたのかな?」

「お兄さんは降霊術士だったのね」

 伊吹は自分のノリに多恵子が合わせてくれたのだと思っているが、実際は多恵子の中の乃絵流が覚醒したのであり、燈子の認識は割と正しい。

「さて、乃絵流が戻って来るまでに何しよっか。喋る内容でも決める?」

 伊吹と燈子、そして秘書三人が喋る文言を考えている間に、多恵子が印刷したドット絵の似顔絵を手に戻って来た。

「おー、絶妙だね。似てるとも似てないとも言える。
 さすが乃絵流、頼んで良かった」

 伊吹は得意げな表情を見せる多恵子の頭を撫でる。
 燈子が事前に用意していた厚紙に、そのドット絵が印刷された紙をのりで貼り付けた。
 似顔絵の耳あたりに輪ゴムをステープラーで止めて、お面が完成する。

「どう?」

 伊吹がお面を付けて、皆の方へ顔を向ける。

「ちょっと声がくぐもるけど問題ないよ」

「旦那様、目のところに穴を開けた方がよろしいのではないでしょうか?」

 お面の微調整をし、燈子のスマホで撮影する事になった。

「動画をご覧の皆さん、こんにちは。安藤さん家の四兄弟、中の人です。
 昨日の生配信で、私と弊社社長が婚約関係にある事を公表致しました。沢山の反響を頂き、ありがたい反面そうでない面もありまして、対応に追われている次第です。

 お問い合わせに一つ一つお答えするのが非常に困難ですので、こうして緊急で動画を回しております。

 まず一番に申し上げたいのは、私の婚約者は一人ではない事。弊社社長の妹さんとも婚約関係にあります」

「ちょっと、今それ言う必要ある?」

「大事な事なので申し上げました。
 ちなみにこれ、編集せずそのまま流します」

「げっ、ごほんっ」

「私の婚約者二人は私人であり、個人情報が守られるべき人間です。もちろん私もそうです。当チャンネルに関わる全ての関係者も同じです。

 動画を投稿し、生配信をしているからといって、私的な情報を探ったり、憶測でものを言うのは迷惑です。止めて頂きたい。

 また、当チャンネルの動画をそのままテレビで放映したり、画像を雑誌やネット上などに掲載するのも止めて頂きたい。悪質なものについては法的手段を取る可能性があります。

 テレビや雑誌の取材など、現状一切お受け致しません。一つ一つにお答えするだけでも大変な数になっておりますので、こちらの動画でもってお返事とさせて頂きます。

 最後に、当チャンネルの動画を翻訳して投稿して下さっている皆さん。そして動画をご覧になっておられる全ての皆さん。いつもありがとうございます。
 これからも皆さんに楽しい時間を過ごして頂けるよう、生配信や動画の投稿を頑張って参ります。
 出来れば私本来の声のまま楽しんでもらいたいですね。これを機に日本語を学んでみませんか?

 皆様が楽しい日々を過ごせますよう、心からお祈り申し上げます。
 それでは次の生配信でお会いしましょう。またね」

「ね、ちゃんと編集してくれるよね? ね?」
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