上 下
92 / 243
第七章:安藤さん家の四兄弟チャンネル始動

神からの謝罪

しおりを挟む
 多恵子たえこ達の過度の緊張がややほぐれたところで、肝心の打ち合わせに移行した。
 伊吹いぶき燈子とうこの座るテーブルの対面に、多恵子が座る。

「髪の毛をかき上げる動作と、そのかき上げた髪の毛が重力に引かれてハラハラと下りて来るような動きって出来ます?
 重力センサー機能が付いているアプリケーションがあれば簡単なんですけど。
 あと、特定のお菓子の箱のオブジェクトを3DCGで用意しておいて、箱を開けて中身を取り出し、お菓子を口に入れて囓る動作が出来る、とか」

 伊吹いぶきが思い付くまま要望を口にして、多恵子が答えていく。

「必ずや実現させてみせます。が、今すぐには無理ですのでお時間を頂きたいです。
 まずは現在使用しているアプリケーションで再現可能か確認し、難しそうなら別のアプリケーションを試してみます」

 伊吹が望むなら当然叶えるのがVCスタジオの仕事だと多恵子は考えている。
 しかし、今すぐ出来ると言うと神に対して嘘を吐く事になるので、多恵子は時間が必要であると素直に答えた。

(じゃあ少しずつでも良いから進めてもらうか)

 そう思って口を開きかけた伊吹に対し、橘香きっかが耳打ちをする。

「河本さん達、家に帰らずずっと仕事してるみたいです」

 それを聞いて、伊吹の表情が曇った。

「河本さん。はっきりと分からないのであれば感覚的に答えて下さいね。
 実現出来るのはは三日後か、三週間後か、三ヶ月後か、三年後か。嘘偽りなく」

 伊吹の問い掛けに対し、これも河本は素直に答える。

「気持ちとしては三日後とお答えしたいのですが、現実的に考えますと三週間後から三年後の間かと思われます。
 しかし! 我ら十二人。安藤家あんどうけVividColorsヴィヴィッドカラーズのさらなる発展の為に寝る間を惜しんででも成し遂げてみせます!!」

 多恵子の発言を受けて、その他の十一人も気持ちは同じであると、胸を張って大きく頷いてみせる。

「ダメです」

「……はい?」

 思わぬ伊吹の否定を受けて、十二人が首を傾げる。

「お支払いしている給料以上の労働をするのは止めて頂きたい。僕は皆さんの犠牲の上に利益を上げようなどと思っていません。
 僕の侍女が察するに、貴女方は家へ帰れていないようですね?

 それについては、すみませんでした」

 伊吹が頭を下げる。十二人の帰れない女性達が一斉に息を吞んだ。
 自分達は何故、神に頭を下げさせてしまったのだろうと思考を巡らせる。

「僕が無茶な要求をし続けたのが原因ですね。ちゃんと余裕を持って開発が出来るよう配慮すべきでした。
 出来る出来ないで聞くと、出来ると答えざるを得ない状況にしてしまっていたんですね」

 申し訳なさそうな表情で話す伊吹へ、多恵子が両手を振って違うと説明する。

「いやいやいや、お待ち下さい!
 それは我々が勝手にしてしまった事でして……」

「いや、貴女方は我が社に雇用されている立場。貴女方の健康管理も我が社の責任でもってすべきですね。
 先ほどは安藤家の為なら何でも出来るかと聞いていましたが、あれはあくまで心意気を聞いたに過ぎません。
 安藤家の為に死ぬ気で働けなんて、僕は望んでいません」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

強制的にダンジョンに閉じ込められ配信を始めた俺、吸血鬼に進化するがエロい衝動を抑えきれない

ぐうのすけ
ファンタジー
朝起きると美人予言者が俺を訪ねて来る。 「どうも、予言者です。あなたがダンジョンで配信をしないと日本人の半分近くが死にます。さあ、行きましょう」 そして俺は黒服マッチョに両脇を抱えられて黒塗りの車に乗せられ、日本に1つしかないダンジョンに移動する。 『ダンジョン配信の義務さえ果たせばハーレムをお約束します』 『ダンジョン配信の義務さえ果たせば一生お金の心配はいりません』 「いや、それより自由をください!!」 俺は進化して力を手に入れるが、その力にはトラップがあった。 「吸血鬼、だと!バンパイア=エロだと相場は決まっている!」

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う

月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

処理中です...