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第七章:安藤さん家の四兄弟チャンネル始動

VCスタジオ

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 皆で昼食を摂った後、伊吹は配信部屋でパソコン前に待機している。
 今夜の安藤家あんどうけの四男の初配信前を前にして、やりたい事を思い付いた。
 今夜の初配信までにその思い付きを組み込み、アバターの再調整が可能であるかを開発技術者へ確認するのだ。

 伊吹はいつも、自分の要求がどれだけ高度な内容なのかを考えずにVCスタジオの技術者へ投げるようにしている。
 とにかく自分はやりたい事、必要としている事を伝えるから、それが現時点で実現可能か、もしくは実現するには何が必要かを答えてほしいと伝えている。

 伊吹は前世世界で見た事がある事はいずれこの世界でも実現出来ると確信している。
 無理。出来ない。それで済ませるのではなく、実現させるにあたり必要な機材やソフトウェア、予算、実現に要する時間を答えてくれとお願いしている。


『こちら燈子とうこ。現着した、指示を仰ぐ』

 自らのスマートフォンから伊吹へと電話し、燈子が二階のフロアに到着した事を報告した。

「とこ軍曹、愛しているよ」

『ぴゃっ!
 お兄さん、私の脳が溶けちゃったらどうしてくれるつもり!?』

 伊吹は生配信を通じ、女性を翻弄するというあまり良いとは言えない楽しみを覚えてしまった。
 前世でも気軽に女性と会話をしていたが、ここまで酷くはなかった。もし前世でもこんな冗談が言えたなら、伊吹は童貞で死ぬ事がなかっただろう。

「もちろん責任は取るよ?」

 燈子は福乃ふくのに言われた、宮坂家から三ノ宮家さんのみやけへ年頃の女を嫁がせるという話を思い出し、さらに顔を赤らめる。

『……ごほんっ、もう入るわ。
 あとでパソコンからチャットを送るから』

 燈子は一旦通話を切り、VCスタジオが入っているフロアの扉を開け、部屋へと入った。


 VividColorsヴィヴィッドカラーズに買収される形で拾われた元社長、河本こうもと多恵子たえこは、自分達が世界初の男性Vtunerブイチューナーの為に声を掛けられた事に大変驚いた。そして、戸惑った。

 自分が男性に関わる仕事をするとは夢にも思っていなかった。
 男性が十八禁ゲームに触れる機会などないであろうし、そもそも十八禁ゲームの内容的に、男性に嫌悪されても仕方ないと思っていたのだ。

 会社倒産の危機から救われ、仕事を与えてくれただけでなく、自分達の技術を評価してくれている伊吹は、正しく神の如く存在。
 そんな伊吹に求められれば、何だってやってみせるという意気込みで仕事に当たるようになった。

 今までの打ち合わせで伊吹が求めた要件は全て達成して来た。時間が足りなければ睡眠時間を削り、会社に泊まり込み、それでも対応出来なければ信頼出来る知り合いに声を掛けて頭数を増やした。
 買収時はたった四人だったVCスタジオの従業員も、今では十二人に増えている。

 安藤家の一キャラごとに三人の担当が付き、十二人で開発及び細かな質の向上を行っている。
 十二人全員がこんなに充実した夢のような仕事など他に存在しないと確信しているし、伊吹からもたらされる要望は誰もが思い付かなかったような神の啓示の如く衝撃を与え、皆の製作意欲を刺激する。

 Vtunerブイチューナー用のアバター開発に限ればこの世界の最先端へと足を踏み入れており、伊吹の意向でさらなる機材、さらなるソフトウェア、さらなるモーションキャプチャ用カメラが買い与えられるので、その勢いは留まるところを知らない。

 VCスタジオが世界最強技術者集団になる日もそう遠くない。
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