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第七章:安藤さん家の四兄弟チャンネル始動

切り抜き動画

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 初配信を終えた翌朝。伊吹いぶきは夜だけでなくいつも通り朝のお勤めまでさせられた後、身支度を整えて事務所に移動して朝食を摂る。

「おいしいですね」

 当初は従者が主と食事を共にするなど、と小言を言っていた智枝ともえも、一週間近く経った今では違和感なく三ノ宮家さんのみやけの一員として食卓に混ざっている。

「昨日の配信は刺激が強かったですね。
 あの囁き、規制されぬようにセリフは考えるべきだと思うのです」

「まぁ智枝の言う事ももっともなんだよなぁ。
 もっともなんだけど、規制が必要な内容は喋ってないんだ。問題ないと思うけど、うーん……」

 伊吹がバイノーラルマイクを通じて囁いた、前世世界で言うところのASMR動画が話題に上がる。

 昨夜の配信では、行き過ぎた官能表現にならぬよう気を付けていたが、この世界においてはどういう判断がなされるか分からない。
 そもそも、今までそのような表現をネットで広く発信する男がいなかったのだ。

「ご主人様、考えておられる事はご自分のみに留めず、全て私達にお伝え下さいませ。
 お一人で思い悩まれるのはお身体に良くありません」

 智枝だけでなく、美哉も橘香も、そして美子よしこ京香きょうかも伊吹の事を見つめている。

「うん、それについてはあーちゃんととこちゃんが揃ってから、みんなに聞いてもらう事にするよ」


 そして藍子あいこ燈子とうこが事務所へとやって来たので、伊吹が話を切り出す。

「昨日の配信の見逃し動画だけど、すでに一千万再生も回ってる。
 で、すでにこの動画から一部分を切り抜いて他のチャンネルで公開されてると思うんだけど、探してみてもらえるかな」

 見逃し配信とは、生配信された映像を録画保存し、視聴者が後からでも視聴出来るようにしたYourTunesユアチューンズの機能の事だ。
 伊吹は皆に各自のスマートフォンでYourTunes内を検索し、昨夜の英知えいじの生配信を切り抜いた動画が投稿されていないか確認してもらう。

「『男性』とか『安藤英知』とか『VividColorsヴィヴィッドカラーズ』とかで検索したら出て来るんじゃないかな」

「……確かに動画の一部を切り抜いたのを無断転載されてる」

 藍子が伊吹の言う切り抜き動画を発見し、表情を険しくさせる。

「男性の動画を勝手に使うだけで普通に犯罪だし、なおかつお兄さんの動画ってのがね。
 動画のコメント欄確認したけど滅茶苦茶荒らされてるよ」

 著作権だけでなく、男性を保護する為の複数の法律に触れる可能性がある。
 いくつかは親告罪ではないので、伊吹とVividColors側が訴えなくても罪に問われる事になる。

「まぁ正直それはどうでもいいんだけど、その切り抜き動画をこっちで用意して『安藤さん家の四兄弟チャンネル』で公開すんの。
 無断転載されるって事は、需要があるって事なんだよね。
 だから公式でやろう」

 伊吹は違法に投稿されている切り抜き動画を問題視するのではなく、そこに需要があるのならば自分達で作って投稿すれば良いだろうと提案した。

「なるほど、VividColorsの収益になり、なおかつ違法動画の駆逐にも繋がる訳ですね。
 さすがご主人様です」

 智枝が伊吹の提案を全面的に支持する。

「これから生配信も増えるし、四人分の編集をするのは大変になるのは目に見えてる。
 ので、切り抜き動画を作る専門の人を雇いたいんだよね。
 公式切り抜き動画に関しては、すでに生配信してるし、切り抜いてない見逃し動画も公開してるから、内部の人間である必要もないと思うんだけど。
 あーちゃん、どうかな?」

「うん、とっても良いと思う。
 知り合いで頼めそうな会社を当たってみるよ。それに、河本こうもとさん達にもツテがあるかも知れないし」
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