41 / 243
第四章:Vtunerデビューの準備
敵情視察
しおりを挟む
美子が食器を下げ、台所へ向かった。
美哉と橘香が国立侍女育成専門学校を卒業し、初任者研修も終えた今、二人を常に伊吹のそばに控えさえ、美子と京香は主に家事や裏方作業などに回ろうという方針を決めている。
それが伊吹の為であり、娘達の為でもあると二人は判断している。伊吹に仕える侍女としての気持ちと、三人の子供を持つ母親としての気持ち。どちらを取っても結局はそう変わらない。
事務所にあるテレビを付けて、YourTunesアプリを選択する。伊吹は午前中に発覚した、自分がこの世界のYourTunes事情に詳しくない事を反省し、少しでも情報収集しようと考えた。
「あ、この人って元一期生の人じゃない?」
先ほど燈子のスマートフォンで見た伊地藤玲夢が生配信中であるらしい。
敵情視察だ、と彼女のチャンネルを選択して生配信を覗く。
『マジほんとあり得ないと思わん!? 不良品掴まされたとか最悪だわマジでほんと』
何やら怒っている様子。アバターの動きが先ほど燈子に見せられたものよりもぎこちなく、時々コマ送りのような動きをしている。
『収益は搾取するは機材は不良品だわ、マジほんと使えない女だわ』
どうやら藍子の悪口を言っているようだ。
視聴者の同時接続者数は三千人。昼間の生配信である事を考えると、決して少ないとは言えないが、多いとも言えない。
伊吹はリモコンを操作してコメント欄を表示するよう設定し、視聴者の反応を確認する。
≪怒ってるのは分かるけど配信中に言うべき事じゃないな≫
≪業者に連絡して調整してもらうべき≫
≪あの日かな???≫
意外にも玲夢に同調するようなコメントは見受けられない。配信主が怒っている分、逆に客観的な見方をしているのかも知れない。
『業者に連絡? 連絡先知らないしあの女に言って呼ばせるわ。
ってか配信見たら私の機材が壊れてる事くらい察するべきじゃね? そっちから大丈夫ですかって連絡寄越すべきよ。
ったくマジ無能』
伊吹はさすがに黙って見ていられなくなった。
「こいつ何なの? 藍子さんから機材とアバター強奪するだけじゃなく、配信者としてもクズじゃない?
これクズキャラとしてやってるんじゃなくてただのクズでしょ」
伊吹の言葉に美哉が同調する。
「詳しくないけど、あまり応援しようとは思わない」
「よしよし、怒らない怒らない」
「あっ! 橘香だけずるい!」
怒りを露わにする伊吹を宥めるべく、橘香が頭を優しく撫でる。そして橘香に対抗して美哉が伊吹を抱き寄せて胸元へ押し付ける。
(幸せはここにあったのか……)
伊吹が美哉と橘香とイチャイチャしていると、視聴者から伊地藤玲夢へと投げ銭が送られた。
投げ銭とは、視聴者が配信者へと金銭を送るシステムだ。
≪500円:機材修理代≫
『あらぁ~、投げ銭ありがとう♡
でも支払いはあの女にさせるね。こっちは被害者だし。
不良品寄越すような無能には金出すしか出来んのよマジほんと。あいつ良いとこのお嬢様だから金だけはあるしね。
そもそも五百円で足りないし!最新機器なんだからさぁwww』
「あー、こいつ早めに潰そう。見ててイライラする。
こんな奴が独立? 経営? やって行ける訳なくね?」
伊吹の怒りに同調するかのように、視聴同時接続数が二千三百人まで減少する。
美哉と橘香が伊吹の頬っぺたをぷにぷにしたり、手を取って太ももへ導いたり、何とか気を紛らわせようとしていると、伊吹用にと用意されたインカムが反応する。
美哉がハンズフリーに設定して通話状態へ移行させ、橘香がテレビ画面を消した。
「はい、こちら伊吹」
『あーっと、こちら燈子。敵本拠地へ到着、どうぞ』
伊吹は燈子が割と冗談を好む性格であると判断し、伊吹も冗談で返す事にした。
「了解。速やかに侵入せよ。極力殺すな」
『くくくっ、了解。
以後こちらからの呼びかけはないものとする。何かあればそちらから指示をくれ。以上』
『とこちゃん、何言ってんの?』
向こうのインカムは燈子がイヤホンに繋いでやり取りしているので、藍子にこちらの声は聞こえていない。
燈子とのやり取りで少し怒りが落ち着いた伊吹は、美哉の胸元で深呼吸をする。再び落ち着きがなくなる伊吹。
「はいはい、後でね」
「お母さんにもう一回提出に行ってもらわなきゃ」
「え、精液採取器に出す前提なの?」
『え、ナニなに何の話?』
『こちらからの呼びかけはないんじゃなかったの?』
美哉と橘香が国立侍女育成専門学校を卒業し、初任者研修も終えた今、二人を常に伊吹のそばに控えさえ、美子と京香は主に家事や裏方作業などに回ろうという方針を決めている。
それが伊吹の為であり、娘達の為でもあると二人は判断している。伊吹に仕える侍女としての気持ちと、三人の子供を持つ母親としての気持ち。どちらを取っても結局はそう変わらない。
事務所にあるテレビを付けて、YourTunesアプリを選択する。伊吹は午前中に発覚した、自分がこの世界のYourTunes事情に詳しくない事を反省し、少しでも情報収集しようと考えた。
「あ、この人って元一期生の人じゃない?」
先ほど燈子のスマートフォンで見た伊地藤玲夢が生配信中であるらしい。
敵情視察だ、と彼女のチャンネルを選択して生配信を覗く。
『マジほんとあり得ないと思わん!? 不良品掴まされたとか最悪だわマジでほんと』
何やら怒っている様子。アバターの動きが先ほど燈子に見せられたものよりもぎこちなく、時々コマ送りのような動きをしている。
『収益は搾取するは機材は不良品だわ、マジほんと使えない女だわ』
どうやら藍子の悪口を言っているようだ。
視聴者の同時接続者数は三千人。昼間の生配信である事を考えると、決して少ないとは言えないが、多いとも言えない。
伊吹はリモコンを操作してコメント欄を表示するよう設定し、視聴者の反応を確認する。
≪怒ってるのは分かるけど配信中に言うべき事じゃないな≫
≪業者に連絡して調整してもらうべき≫
≪あの日かな???≫
意外にも玲夢に同調するようなコメントは見受けられない。配信主が怒っている分、逆に客観的な見方をしているのかも知れない。
『業者に連絡? 連絡先知らないしあの女に言って呼ばせるわ。
ってか配信見たら私の機材が壊れてる事くらい察するべきじゃね? そっちから大丈夫ですかって連絡寄越すべきよ。
ったくマジ無能』
伊吹はさすがに黙って見ていられなくなった。
「こいつ何なの? 藍子さんから機材とアバター強奪するだけじゃなく、配信者としてもクズじゃない?
これクズキャラとしてやってるんじゃなくてただのクズでしょ」
伊吹の言葉に美哉が同調する。
「詳しくないけど、あまり応援しようとは思わない」
「よしよし、怒らない怒らない」
「あっ! 橘香だけずるい!」
怒りを露わにする伊吹を宥めるべく、橘香が頭を優しく撫でる。そして橘香に対抗して美哉が伊吹を抱き寄せて胸元へ押し付ける。
(幸せはここにあったのか……)
伊吹が美哉と橘香とイチャイチャしていると、視聴者から伊地藤玲夢へと投げ銭が送られた。
投げ銭とは、視聴者が配信者へと金銭を送るシステムだ。
≪500円:機材修理代≫
『あらぁ~、投げ銭ありがとう♡
でも支払いはあの女にさせるね。こっちは被害者だし。
不良品寄越すような無能には金出すしか出来んのよマジほんと。あいつ良いとこのお嬢様だから金だけはあるしね。
そもそも五百円で足りないし!最新機器なんだからさぁwww』
「あー、こいつ早めに潰そう。見ててイライラする。
こんな奴が独立? 経営? やって行ける訳なくね?」
伊吹の怒りに同調するかのように、視聴同時接続数が二千三百人まで減少する。
美哉と橘香が伊吹の頬っぺたをぷにぷにしたり、手を取って太ももへ導いたり、何とか気を紛らわせようとしていると、伊吹用にと用意されたインカムが反応する。
美哉がハンズフリーに設定して通話状態へ移行させ、橘香がテレビ画面を消した。
「はい、こちら伊吹」
『あーっと、こちら燈子。敵本拠地へ到着、どうぞ』
伊吹は燈子が割と冗談を好む性格であると判断し、伊吹も冗談で返す事にした。
「了解。速やかに侵入せよ。極力殺すな」
『くくくっ、了解。
以後こちらからの呼びかけはないものとする。何かあればそちらから指示をくれ。以上』
『とこちゃん、何言ってんの?』
向こうのインカムは燈子がイヤホンに繋いでやり取りしているので、藍子にこちらの声は聞こえていない。
燈子とのやり取りで少し怒りが落ち着いた伊吹は、美哉の胸元で深呼吸をする。再び落ち着きがなくなる伊吹。
「はいはい、後でね」
「お母さんにもう一回提出に行ってもらわなきゃ」
「え、精液採取器に出す前提なの?」
『え、ナニなに何の話?』
『こちらからの呼びかけはないんじゃなかったの?』
81
お気に入りに追加
511
あなたにおすすめの小説
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
強制的にダンジョンに閉じ込められ配信を始めた俺、吸血鬼に進化するがエロい衝動を抑えきれない
ぐうのすけ
ファンタジー
朝起きると美人予言者が俺を訪ねて来る。
「どうも、予言者です。あなたがダンジョンで配信をしないと日本人の半分近くが死にます。さあ、行きましょう」
そして俺は黒服マッチョに両脇を抱えられて黒塗りの車に乗せられ、日本に1つしかないダンジョンに移動する。
『ダンジョン配信の義務さえ果たせばハーレムをお約束します』
『ダンジョン配信の義務さえ果たせば一生お金の心配はいりません』
「いや、それより自由をください!!」
俺は進化して力を手に入れるが、その力にはトラップがあった。
「吸血鬼、だと!バンパイア=エロだと相場は決まっている!」
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う
月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる