上 下
34 / 243
第三章:三ノ宮家と宮坂家

精液採取

しおりを挟む
 藍子あいこは改装工事の関係各所への支払い手続きを済ませた後、馴染みの弁護士へ役員登記など諸々の手続きを依頼した。

「お兄さん、本当に配信者になるの?」

 燈子とうこは今さらお兄さん呼びを止めるのもなと思い、伊吹をお兄さんと呼び続けている。

「はい。しばらくはこっちにいる事になったし、このビルには配信環境があるんでしょう?」

「そっか、分かった。
 とにかく、お兄さん達は部屋に戻って休んでてよ。事件から昨日の今日で撮影を始める必要なんてないからさ。
 あたしは今のうちに『男性に聞く100の質問』の内容を考えとくよ」

 伊吹は燈子の勧めに甘えて、侍女達を伴って昨夜借りた配信部屋へと戻った。

 福乃ふくの宮坂みやさか警備保障の職員達を連れ、他フロアへと移動している。許可なき者を伊吹いぶきがいる六階まで通さないよう監視しているので安心するように、との事だった。


 二十畳ほどの部屋にテーブルとイスが置かれ、その奥に配信スペースが用意されている。配信スペースにはパソコンデスクとオフィスチェア、そしてその後ろにグリーンバック用のロールカーテンがある。
 マンションで一人暮らしする部屋、としては少し広いが、伊吹と侍女四人で寝起きするには狭い。

 伊吹がソファーに座ると、橘香きっかがずっと大事そうに抱えていた肩掛けカバンが京香きょうかへと手渡された。

「今朝採取させて頂きました精液を、男性保護省の方へ提供して参ります」

「あ、ハイ」

「六回分も採取出来るなんて、聞いた事がございません。素晴らしい事ですよ」

「イエ、娘さん達のお陰デス……」

 伊吹は全身を襲う快感に耐え、目を瞑っていただけである。

 通常、男性の体内から射精された精液は、二・三時間でダメになってしまう。
 その為、特殊な液体に満たされた精液採取器を使って採取するのだが、それでも二日も持たない。
 原則、採取された精液はその日の内に最寄りの保健所へ提出する必要する事になっている。

 伊吹の場合、今回が初回の提出という事で、提出先が男性保護省となる。
 屋敷襲撃の件がなくとも、男性保護省の出張所に赴いて採取を受ける段取りとなっていた。
 伊吹はその事を事前知識として聞かされていたのだが、自分で出して自分で採取するものだと思っていた。

(まさか美哉みやと橘香に搾り取られるとは思いもよらなかったなぁ)

 初回提供時、男性保護省にて精液から射精した者の遺伝子を解析する。
 遺伝子を分析しておかないと、父親が誰か分からなくなり、受精させる卵子と近親交配となり、遺伝子異常を持った子供が生まれてしまう可能性がある。

 ただでさえ男性が少ない世界において、どの女性の卵子をどの男性の精子でもって人工授精させるのかは、国によって徹底的に管理されている。
 ただし、公平を期す為に女性側が特定の男性の精液を選ぶ事は出来ない。男性側が情報開示を求めた際は、自分の精液が誰の卵子と受精したか、どこに自分の子供がいるのかを知る事は出来る。

「この精液で、どれだけの女性がお子を授かるのでしょうか。心乃春このは様も咲弥さくや様もお喜びだと思います」

「あ、ハイ」

 たくさん精液が出たからお母さんとおばあちゃんも喜ぶよ、と言われても、伊吹はそうですねと返す精神構造を持っていなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

強制的にダンジョンに閉じ込められ配信を始めた俺、吸血鬼に進化するがエロい衝動を抑えきれない

ぐうのすけ
ファンタジー
朝起きると美人予言者が俺を訪ねて来る。 「どうも、予言者です。あなたがダンジョンで配信をしないと日本人の半分近くが死にます。さあ、行きましょう」 そして俺は黒服マッチョに両脇を抱えられて黒塗りの車に乗せられ、日本に1つしかないダンジョンに移動する。 『ダンジョン配信の義務さえ果たせばハーレムをお約束します』 『ダンジョン配信の義務さえ果たせば一生お金の心配はいりません』 「いや、それより自由をください!!」 俺は進化して力を手に入れるが、その力にはトラップがあった。 「吸血鬼、だと!バンパイア=エロだと相場は決まっている!」

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...