32 / 243
第三章:三ノ宮家と宮坂家
三ノ宮家と宮坂家
しおりを挟む
どっぷりと絞り取られた伊吹は、美哉と橘香に手を引かれてシャワールームで丸洗いされた。
久しぶりの三人でのシャワーだが、伊吹には反応する元気がない。まるで吸血鬼に血を吸われた被害者のような表情だ。
身支度を整えられた伊吹は、二人に連れられてVividColorsの事務所へ入る。
「美子さん! 京香さん!」
事務所で待機していた侍女達を見て、伊吹は二人に抱き着いた。無事で良かった、とまた泣き声を漏らす。
「伊吹様もご無事で良かったです。聞くところによると、偶然宮坂家のご令嬢と会われたとか」
美子はやんわりと伊吹を離し、事務所内に藍子と燈子、そして喫茶店のママさんである福乃がいる事に気付かせる。
「おっと、失礼しました。
昨日はあのまま寝てしまったようで、お部屋を借りる形になってしまいました。
ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
伊吹が三人に頭を下げた事で、藍子が慌てて立ち上がる。
「そんな! 迷惑だなんて思ってません。このビルを改装した意味があったんだって思えて、嬉しいです」
いえいえ、こちらこそいえいえ、と伊吹と藍子のやり取りが続き、福乃が口を開く。
「伊吹様。今後の対応について伊吹様にご説明しないとならないので、そろそろお掛けになって下さいな」
福乃に促され、伊吹はソファーへと座った。侍女達四人は伊吹の背後に控えている。
自分の屋敷であれば全員に座るよう声を掛ける伊吹であるが、ここは出先であり、他人の目もある。
伊吹は正面に座る福乃と藍子と燈子に相対し、説明を始めるようお願いする。
「まず、ご存知ではなかったようですが、私達宮坂家は元を辿ると三ノ宮家の分家筋になります。心乃春様からは、伊吹様の身に何かあればよろしく頼むと、常々お聞きしておりました」
「そうだったんですね」
伊吹にとっては初耳の情報だ。伊吹は自分の父親の事を含め、親戚などの話を母親からも祖母からも聞かされていない。
京香が東京へ向かうと決断した際、男性保護省を頼ると共に、万が一保護省が信頼出来ない場合に備えて宮坂家にも連絡を入れていたのだ。
その判断は正解であり、保護省内部に他国に通じるスパイがおり、三ノ宮家襲撃に関わっている事が判明している。
心乃春が亡くなった事が引き金となり、三ノ宮家の家中が混乱している今であれば伊吹の確保はそう難しくないだろうという目論見であったようだ。
すでにスパイは排除済みだが、男性保護省は内部調査中であり、正常に機能しているとは言い難い状況だ。
従って、伊吹が藍子と出会ったのは非常に幸運であった。
「まだどこに他国の者が潜んでいるか分かりません。ご実家へ戻られるのをちょっと遅らせた方がよろしいかと。
ですので、しばらくこのビルを使って下さいな。周りの警備は宮坂警備保障が担当させて頂きますよ」
福乃の申し出があった事とは別に、伊吹は藍子との件で話を詰める為にも、このビルに残った方が都合が良いと考えた。
「藍子さん。このビルの改装工事の費用、支払いは明日までですよね?」
伊吹の身が危険に晒されていたと知った今、藍子は自分の会社の危機など二の次であると考えていた。
しかし、伊吹に話を振られた以上、答えるしかない。
「……はい、そうです」
久しぶりの三人でのシャワーだが、伊吹には反応する元気がない。まるで吸血鬼に血を吸われた被害者のような表情だ。
身支度を整えられた伊吹は、二人に連れられてVividColorsの事務所へ入る。
「美子さん! 京香さん!」
事務所で待機していた侍女達を見て、伊吹は二人に抱き着いた。無事で良かった、とまた泣き声を漏らす。
「伊吹様もご無事で良かったです。聞くところによると、偶然宮坂家のご令嬢と会われたとか」
美子はやんわりと伊吹を離し、事務所内に藍子と燈子、そして喫茶店のママさんである福乃がいる事に気付かせる。
「おっと、失礼しました。
昨日はあのまま寝てしまったようで、お部屋を借りる形になってしまいました。
ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
伊吹が三人に頭を下げた事で、藍子が慌てて立ち上がる。
「そんな! 迷惑だなんて思ってません。このビルを改装した意味があったんだって思えて、嬉しいです」
いえいえ、こちらこそいえいえ、と伊吹と藍子のやり取りが続き、福乃が口を開く。
「伊吹様。今後の対応について伊吹様にご説明しないとならないので、そろそろお掛けになって下さいな」
福乃に促され、伊吹はソファーへと座った。侍女達四人は伊吹の背後に控えている。
自分の屋敷であれば全員に座るよう声を掛ける伊吹であるが、ここは出先であり、他人の目もある。
伊吹は正面に座る福乃と藍子と燈子に相対し、説明を始めるようお願いする。
「まず、ご存知ではなかったようですが、私達宮坂家は元を辿ると三ノ宮家の分家筋になります。心乃春様からは、伊吹様の身に何かあればよろしく頼むと、常々お聞きしておりました」
「そうだったんですね」
伊吹にとっては初耳の情報だ。伊吹は自分の父親の事を含め、親戚などの話を母親からも祖母からも聞かされていない。
京香が東京へ向かうと決断した際、男性保護省を頼ると共に、万が一保護省が信頼出来ない場合に備えて宮坂家にも連絡を入れていたのだ。
その判断は正解であり、保護省内部に他国に通じるスパイがおり、三ノ宮家襲撃に関わっている事が判明している。
心乃春が亡くなった事が引き金となり、三ノ宮家の家中が混乱している今であれば伊吹の確保はそう難しくないだろうという目論見であったようだ。
すでにスパイは排除済みだが、男性保護省は内部調査中であり、正常に機能しているとは言い難い状況だ。
従って、伊吹が藍子と出会ったのは非常に幸運であった。
「まだどこに他国の者が潜んでいるか分かりません。ご実家へ戻られるのをちょっと遅らせた方がよろしいかと。
ですので、しばらくこのビルを使って下さいな。周りの警備は宮坂警備保障が担当させて頂きますよ」
福乃の申し出があった事とは別に、伊吹は藍子との件で話を詰める為にも、このビルに残った方が都合が良いと考えた。
「藍子さん。このビルの改装工事の費用、支払いは明日までですよね?」
伊吹の身が危険に晒されていたと知った今、藍子は自分の会社の危機など二の次であると考えていた。
しかし、伊吹に話を振られた以上、答えるしかない。
「……はい、そうです」
72
お気に入りに追加
512
あなたにおすすめの小説
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
異世界に転生したと思ったら、男女比がバグった地球っぽい!?
ぱふ
恋愛
ある仕事終わりの帰り道、主人公前田世一は連勤の疲れが祟って車に轢かれてしまった。朦朧とする意識の中、家族や今世での未練に悔見ながら気を失ってしまった。そして、目が覚めると知らない天井でいつもと違う場所でにいて、さらに調べると男女比がバグっていた!?これで前世の未練や夢を叶えることができる!そう思って様々なことに挑戦していこうと思った矢先、ある少女と出会った。ぱっとみは可憐な少女だったが中身はドMでやばいやつだった!?そんな、やばめな少女から逃げようと別の子に話しかけたら次はドSなやばい少女がいて、愛が重い少女に監禁されかけて、ドロドロに甘やかしてくれるお姉さんに溶かされて、この世界の洗礼を受けていく。「助けて〜!この世界やばい人しかいないんだけど!」そんな悲痛な叫びが鳴り止まない過激なラブコメが始まる。*カクヨム様ハーメルン様にも掲載しています*
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
貞操逆転世界ではキモデブの俺の遺伝子を美少女達が狙っている!!!!
お小遣い月3万
恋愛
貞操逆転世界ではキモデブのおっさんでもラブコメ無双である。
美少女達が俺の遺伝子を狙っていて、ハーレムどころの騒ぎじゃない。
幼馴染の美少女も、アイドル似の美少女も俺のことを狙っている。
痴女も変態女も俺のことを狙っている。
イモっこいお嬢様ですら俺のことを狙っている。
お前も俺のことを狙っているのか!
美少女達とイチャイチャしたり、痴女に拉致されたり、変態女に襲われて逃げたり、貞操逆転世界は男性にとっては大変である。
逆にモテすぎて困る。
絶対にヤレる美少女達が俺を落とすために、迫って来る。
俺は32歳の童貞だった。アダルトビデオに登場するようなブリーフ親父に似ている。しかも体重は100キロである。
働いたら負け、という名言があるように、俺は誰にも負けていなかった。
だけどある日、両親が死んで、勝ち続けるための資金源が無くなってしまった。
自殺も考えたけど死ぬのは怖い。だけど働きたくない。
俺の元へ政府の人間がやって来た。
将来、日本になにかあった時のためにコールドスリープする人間を探しているらしい。コールドスリープというのは冷凍保存のことである。
つまり絶望的な未来が来なければ、永遠に冷凍庫の隅っこで眠り続けるらしい。
俺は死んでも働きたくないので冷凍保存されることになった。
目覚めたら、そこは貞操逆転世界だった。
日本にとっては絶望的な未来だったのだ。男性は俺しかいない。
そんな日本を再生させるために、俺が解凍されたのだ。
つまり俺は日本を救う正義のヒーローだった。
じゃんじゃんセッ◯スしまくって女の子を孕ませるのが、正義のヒーローの俺の役目だった。
目覚めた俺は32歳なのに17歳という設定で高校に通い始める。謎展開である。学園ラブコメが始まってしまう。
もしかしたら学生の頃のトラウマを払拭させるために17歳という設定を押し付けられているのかもしれない。
そして俺は初恋である幼馴染の遺伝子を持った女の子と同じクラスになった。
あの時ヤリたかったあんな事やこんな事をしまくれる。絶対に幼馴染とヤレるラブコメ。
目覚めたらハーレムどころの騒ぎじゃなかった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる