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第三章:三ノ宮家と宮坂家

三ノ宮家と宮坂家

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 どっぷりと絞り取られた伊吹いぶきは、美哉みや橘香きっかに手を引かれてシャワールームで丸洗いされた。
 久しぶりの三人でのシャワーだが、伊吹には反応する元気がない。まるで吸血鬼に血を吸われた被害者のような表情だ。

 身支度を整えられた伊吹は、二人に連れられてVividColorsヴィヴィッドカラーズの事務所へ入る。

美子よしこさん! 京香きょうかさん!」

 事務所で待機していた侍女達を見て、伊吹は二人に抱き着いた。無事で良かった、とまた泣き声を漏らす。

「伊吹様もご無事で良かったです。聞くところによると、偶然宮坂家みやさかけのご令嬢と会われたとか」

 美子はやんわりと伊吹を離し、事務所内に藍子あいこ燈子とうこ、そして喫茶店のママさんである福乃ふくのがいる事に気付かせる。

「おっと、失礼しました。
 昨日はあのまま寝てしまったようで、お部屋を借りる形になってしまいました。
 ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」

 伊吹が三人に頭を下げた事で、藍子が慌てて立ち上がる。

「そんな! 迷惑だなんて思ってません。このビルを改装した意味があったんだって思えて、嬉しいです」

 いえいえ、こちらこそいえいえ、と伊吹と藍子のやり取りが続き、福乃が口を開く。

「伊吹様。今後の対応について伊吹様にご説明しないとならないので、そろそろお掛けになって下さいな」

 福乃に促され、伊吹はソファーへと座った。侍女達四人は伊吹の背後に控えている。
 自分の屋敷であれば全員に座るよう声を掛ける伊吹であるが、ここは出先であり、他人の目もある。
 伊吹は正面に座る福乃と藍子と燈子に相対し、説明を始めるようお願いする。

「まず、ご存知ではなかったようですが、私達宮坂家は元を辿ると三ノ宮家さんのみやけの分家筋になります。心乃春このは様からは、伊吹様の身に何かあればよろしく頼むと、常々お聞きしておりました」

「そうだったんですね」

 伊吹にとっては初耳の情報だ。伊吹は自分の父親の事を含め、親戚などの話を母親からも祖母からも聞かされていない。

 京香が東京へ向かうと決断した際、男性保護省を頼ると共に、万が一保護省が信頼出来ない場合に備えて宮坂家にも連絡を入れていたのだ。
 その判断は正解であり、保護省内部に他国に通じるスパイがおり、三ノ宮家襲撃に関わっている事が判明している。
 心乃春が亡くなった事が引き金となり、三ノ宮家の家中が混乱している今であれば伊吹の確保はそう難しくないだろうという目論見であったようだ。

 すでにスパイは排除済みだが、男性保護省は内部調査中であり、正常に機能しているとは言い難い状況だ。
 従って、伊吹が藍子と出会ったのは非常に幸運であった。

「まだどこに他国の者が潜んでいるか分かりません。ご実家へ戻られるのをちょっと遅らせた方がよろしいかと。
 ですので、しばらくこのビルを使って下さいな。周りの警備は宮坂警備保障が担当させて頂きますよ」

 福乃の申し出があった事とは別に、伊吹は藍子との件で話を詰める為にも、このビルに残った方が都合が良いと考えた。

「藍子さん。このビルの改装工事の費用、支払いは明日までですよね?」

 伊吹の身が危険に晒されていたと知った今、藍子は自分の会社の危機など二の次であると考えていた。
 しかし、伊吹に話を振られた以上、答えるしかない。

「……はい、そうです」
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