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第二章:転生先は並行世界
【悲報】俺氏、神様に会わず転生してしまう
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伊吹の前世はしがない会社員だった。
この男は普通の大学を出た後、超有名企業グループの販売を担当する子会社へと就職した。
私生活では外見が普通よりもやや良い事が逆に作用してしまい、女性との仲を進める事が難しかった。
姉が二人いた事も、女性と付き合う事が出来なかった要因の一つとなる。
彼女がいそうに見えるから、きっと付き合えないだろう。
女性の扱いに慣れているから、きっと遊んでるのだろう。
そんな先入観を持たれてしまい、女性からアプローチを掛けられる事なく、そして自分からも積極的に行動しなかった事もあり、男は二十九歳になっても女性経験がなかった。
三十歳になる前の日。
このままでは魔法使いになってしまうと、男は勇気を出して風俗街へと向かった。
しかし周りの目が気になり、風俗街の入り口を遠くから眺めるだけで心臓がバクバクと跳ね、足がすくんでしまう。
とりあえず落ち着こうと思い、男は近くの居酒屋に入って酒を注文した。
(これを飲んだら行くぞ!)
とりあえず生、から始まり。
(空きっ腹のまま風俗店に入って、途中でぐぅぐぅと腹が鳴るのはカッコ悪いな。
精の付くツマミを食べてもう一杯いくか)
山芋の短冊、牡蠣のニンニク炒め、レバニラ炒めをハイボールで流し込む。
(食べたら余計に腹が減って来た。丼ものも頼むか)
男がうにイクラ丼を頼むと、隣に座っている客が男の御猪口に日本酒をつぐ。
「ささっ、親父殿。海鮮ものには日本酒が合うと聞くぞ?」
「んん? あぁ、そうですね」
いつからこんな客が隣に座っていただろうか。整った顔立ちの若い男で、紫の着物を羽織っている。
(俺はまだ親父と呼ばれるような年齢じゃないんだが)
男は訝しげに思うものの、勧められるままに御猪口に口を付け、ぐいっと飲み干す。
男は知らず知らずに相当な量の酒を飲んでしまっていた。紫の着物の男にさぁさぁと勧められたのだ。
ふら付く身体で風俗街へと向かう。ゴールデン街のアーチを睨み付け、交差点で信号待ちをしていると、後ろから勢い良く押し出され、車道へと飛び出してしまう。
「あれだけ飲めば痛みもなかろう」
そんな声を聞きつつ、男が最後に目にしたものは、大きなトラックが放つ眩いライト。
思わず目をギュッと瞑り、強い衝撃を感じて……。
享年二十九歳、童貞。
そこで終わるはずだった、しがない会社員の人生。
しかし、彼の意識は暗闇の中、不思議な温もりに包まれて確かに存在していた。
手も足も動かせず、声も出せない。ただ存在しているというだけの状態。
植物状態で病院のベッドに寝かされているのかとも考えたが、どうやら違うらしい。
(トラックに轢かれてからどれくらいの時間が経ったんだろう)
少しずつ手足が動くようになった。グルグルと何かが蠢くような音も感じるになった。そして時々、身体全体に響くかのように女性の声が聞こえる。
(これってもしかして、俺を呼ぶ女神様の声なのでは!?
って事は、トラックに轢かれて死んだのか……?)
バタバタと手足を動かし、ここにいるぞとアピールする。
響く女性の声と、とても遠くにいるように聞こえる、くぐもった男性らしき声。
しかしすぐに何かが起こる事はなく、それからかなりの時間が経った。
寝て起きて寝て起きて声が響いて寝て。食事も排泄もする事なく、ただ温かい何かに包まれて、生きてる。
楽しくはないが辛い事もない。働く必要もなく、結婚は子供はと急かされる事もない。
(まぁいいか、もうしばらくこのままでも)
さらにどれだけの時間が経っただろうか。
(何か狭くなってね?)
身体を包む空間が固く、狭くなっているように感じる。上からぐっと押されるような圧と、呻くような女性の声。
なすすべなく身を任せ、何かに引っ掛かると頭の角度を変えてみたり、肩をすぼめてみたり。
そして突如感じる重力。
こうして、彼は長らく過ごした居心地の良い空間から押し出された。
ぼんやりと照らす光。
幼子の鳴き声。
複数の人間の話し声。浮遊感。
そして、肌と肌の温かい触れ合い。
「おめでとうございます、元気な男の子です!」
「やっと会えたわね、伊吹。私があなたのお母さんよ」
(……何ですと!?)
こうして再び生まれる事となった、今世では伊吹と名付けられた男。前世ではサブカルチャーに好んで触れていたので、自分の身に起こった事はある程度把握出来た。
(【悲報】俺氏、神様に会わず転生してしまう)
出産というものは母親の身体だけでなく、赤ん坊の身体にもそれなりに負担が掛かるようで、産まれた直後からの伊吹の意識はぼんやりとしていた。
気付けば病院ではないどこかで寝かされていた。まだよく見えない目、座っていない首。周りを見回す事は出来ないが、自分を覗き込む人物が複数いる事は分かる。
自分の母親が綺麗である事と、母方の祖母が同居しているらしき事。
自分が住んでいるのはそれなりに大きな屋敷である事。
メイドさんのような女性が二人いる事。
そして、小さな女の子も二人いる事。
メイドさん二人と女の子二人はそれぞれ親子であるらしき事。
どうやら二家族ともこの屋敷に住んでいるらしき事。
(どう考えても日本語だよなぁ)
聞こえて来る会話を理解出来る事から、異世界ではなさそうだと判断した。
仰向けに寝かされた目線の先、天井には明るさを調節出来るシーリングライトがあるので、電気を使用する文明がある事からも分かる。
かなり早い段階で丹田に溜まっているであろう魔力的なパワーを探るのは止めた。残念ながらこの世界にも魔法はない。
(【悲報】俺氏、同じ地球で生まれ変わる)
この男は普通の大学を出た後、超有名企業グループの販売を担当する子会社へと就職した。
私生活では外見が普通よりもやや良い事が逆に作用してしまい、女性との仲を進める事が難しかった。
姉が二人いた事も、女性と付き合う事が出来なかった要因の一つとなる。
彼女がいそうに見えるから、きっと付き合えないだろう。
女性の扱いに慣れているから、きっと遊んでるのだろう。
そんな先入観を持たれてしまい、女性からアプローチを掛けられる事なく、そして自分からも積極的に行動しなかった事もあり、男は二十九歳になっても女性経験がなかった。
三十歳になる前の日。
このままでは魔法使いになってしまうと、男は勇気を出して風俗街へと向かった。
しかし周りの目が気になり、風俗街の入り口を遠くから眺めるだけで心臓がバクバクと跳ね、足がすくんでしまう。
とりあえず落ち着こうと思い、男は近くの居酒屋に入って酒を注文した。
(これを飲んだら行くぞ!)
とりあえず生、から始まり。
(空きっ腹のまま風俗店に入って、途中でぐぅぐぅと腹が鳴るのはカッコ悪いな。
精の付くツマミを食べてもう一杯いくか)
山芋の短冊、牡蠣のニンニク炒め、レバニラ炒めをハイボールで流し込む。
(食べたら余計に腹が減って来た。丼ものも頼むか)
男がうにイクラ丼を頼むと、隣に座っている客が男の御猪口に日本酒をつぐ。
「ささっ、親父殿。海鮮ものには日本酒が合うと聞くぞ?」
「んん? あぁ、そうですね」
いつからこんな客が隣に座っていただろうか。整った顔立ちの若い男で、紫の着物を羽織っている。
(俺はまだ親父と呼ばれるような年齢じゃないんだが)
男は訝しげに思うものの、勧められるままに御猪口に口を付け、ぐいっと飲み干す。
男は知らず知らずに相当な量の酒を飲んでしまっていた。紫の着物の男にさぁさぁと勧められたのだ。
ふら付く身体で風俗街へと向かう。ゴールデン街のアーチを睨み付け、交差点で信号待ちをしていると、後ろから勢い良く押し出され、車道へと飛び出してしまう。
「あれだけ飲めば痛みもなかろう」
そんな声を聞きつつ、男が最後に目にしたものは、大きなトラックが放つ眩いライト。
思わず目をギュッと瞑り、強い衝撃を感じて……。
享年二十九歳、童貞。
そこで終わるはずだった、しがない会社員の人生。
しかし、彼の意識は暗闇の中、不思議な温もりに包まれて確かに存在していた。
手も足も動かせず、声も出せない。ただ存在しているというだけの状態。
植物状態で病院のベッドに寝かされているのかとも考えたが、どうやら違うらしい。
(トラックに轢かれてからどれくらいの時間が経ったんだろう)
少しずつ手足が動くようになった。グルグルと何かが蠢くような音も感じるになった。そして時々、身体全体に響くかのように女性の声が聞こえる。
(これってもしかして、俺を呼ぶ女神様の声なのでは!?
って事は、トラックに轢かれて死んだのか……?)
バタバタと手足を動かし、ここにいるぞとアピールする。
響く女性の声と、とても遠くにいるように聞こえる、くぐもった男性らしき声。
しかしすぐに何かが起こる事はなく、それからかなりの時間が経った。
寝て起きて寝て起きて声が響いて寝て。食事も排泄もする事なく、ただ温かい何かに包まれて、生きてる。
楽しくはないが辛い事もない。働く必要もなく、結婚は子供はと急かされる事もない。
(まぁいいか、もうしばらくこのままでも)
さらにどれだけの時間が経っただろうか。
(何か狭くなってね?)
身体を包む空間が固く、狭くなっているように感じる。上からぐっと押されるような圧と、呻くような女性の声。
なすすべなく身を任せ、何かに引っ掛かると頭の角度を変えてみたり、肩をすぼめてみたり。
そして突如感じる重力。
こうして、彼は長らく過ごした居心地の良い空間から押し出された。
ぼんやりと照らす光。
幼子の鳴き声。
複数の人間の話し声。浮遊感。
そして、肌と肌の温かい触れ合い。
「おめでとうございます、元気な男の子です!」
「やっと会えたわね、伊吹。私があなたのお母さんよ」
(……何ですと!?)
こうして再び生まれる事となった、今世では伊吹と名付けられた男。前世ではサブカルチャーに好んで触れていたので、自分の身に起こった事はある程度把握出来た。
(【悲報】俺氏、神様に会わず転生してしまう)
出産というものは母親の身体だけでなく、赤ん坊の身体にもそれなりに負担が掛かるようで、産まれた直後からの伊吹の意識はぼんやりとしていた。
気付けば病院ではないどこかで寝かされていた。まだよく見えない目、座っていない首。周りを見回す事は出来ないが、自分を覗き込む人物が複数いる事は分かる。
自分の母親が綺麗である事と、母方の祖母が同居しているらしき事。
自分が住んでいるのはそれなりに大きな屋敷である事。
メイドさんのような女性が二人いる事。
そして、小さな女の子も二人いる事。
メイドさん二人と女の子二人はそれぞれ親子であるらしき事。
どうやら二家族ともこの屋敷に住んでいるらしき事。
(どう考えても日本語だよなぁ)
聞こえて来る会話を理解出来る事から、異世界ではなさそうだと判断した。
仰向けに寝かされた目線の先、天井には明るさを調節出来るシーリングライトがあるので、電気を使用する文明がある事からも分かる。
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