6 / 243
第一章:土下座女と男装の麗人(男)
先見の明
しおりを挟む
楽しそうに自分の仕事内容を語っていた藍子の表情が曇ったのを見て、伊吹はカウンターでグラスを拭いているママさんに向けて手を上がる。
「すみません、アイスコーヒーのお代わりをお願いします」
「あっ、私もお願いします!
すみません、飲み物がなくなったのに気付かなくて」
長々と自分語りしていたのに気付き、藍子は顔を赤らめながらストローに口を付けて残りを飲み干す。
伊吹は興味深いお話です、と答えて気にしていない事を伝える。
ママさんがお代わりのアイスコーヒーをテーブルに置き、藍子はミルクとシロップを入れてかき混ぜると、改めて自分の会社の置かれた状況について説明しだす。
「最初の一人が契約してくれてから、その子の横の繋がりで所属契約について詳しく聞きたいと言って下さるYourTunerが連絡を下さるようになりました。
ありがたい事に、少しずつ所属YourTunerが増えていったんです」
一人で活動するYourTunerでも、YourTuner同士の繋がりを持っている。
お互いのチャンネルに出演し合う事により多くの新規視聴者の目に触れる機会を得て、双方のチャンネル登録者を増やす事が出来るのだ。
その繋がり内での紹介で、VividColorsの所属YourTunerは最大十五名まで伸ばす事となった。一企業の売上として見るとまだまだ零細と呼ばれる規模感である。
しかし、藍子は順調な滑り出しであると判断した。現状、事業は上手く行っている。であれば、勢いを付ける為にも、自分の目標であるVtuner事業の為にも先行投資が必要だ。
「所属YourTunerが増えても、すぐにみんなをVtuner化する事は出来ません。イラストの発注やモーションキャプチャー用の機材の購入、撮影するスタジオの用意や自宅での動画撮影やライブ配信が出来るようにする為の環境整備など、とても十五人分用意する事は出来ません」
伊吹が元いた世界では、すでにヴァーチャルライバーは一般層にまで浸透していた。誰もが特別な機材を用意する事なく、スマートフォン一つで配信する事が出た。
が、この世界ではまだその技術段階には達していない。広く普及していない技術に関する機材はとてつもなく高価だ。
伊吹が元いた世界ではスマートフォン一つで出来る事でも、この世界においては複数の高額な機材が必要となる。
「ですので、所属YourTunerの中からチャンネル登録者の多い三名を初期メンバーとして選出し、一期生としてVtunerデビューさせたです」
ヴァーチャルライバー達を世に知らしめ、一般層にまで普及させる。この世界の映像配信技術を新たな段階へと押し上げる重要人物、それが藍子がなのだと伊吹は理解した。
「一期生Vtuner達はデビューしてすぐ、収益が爆発的に増加しました。やはり私の判断は間違っていなかった。そう確信したのです。
残りの十二名を二期生としてVtunerデビューさせるべく、すぐに詳細な事業計画書を作成し、色んな銀行へ融資のお願いをして回りました。
が、YourTunerという職業自体がまだ市民権を得ていない事に加え、さらにヴァーチャル配信に特化した事業にお金を貸してくれる銀行はありませんでした」
ただの事業家であればそこで一度立ち止まり、現在得ている収益を増やしてから改めて会社の自己資本で事業拡大を行うだろう。
が、藍子はただの事業家ではなく、秘めている情熱もまた半端なものではなかったのだ。
「個人名義の銀行口座から必要最小限のみを残して全額引き出し、それでも足りない分は親から譲られて私が所有していた投資目的の株や不動産を売却して現金化しました」
ん? と伊吹は首を傾げる。
今聞かされた内容を鑑みるに、藍子はいわゆるお嬢様だ。それも相当なレベルで。
親に泣きつけば直接会社へ資金を出してくれるのではと、伊吹は感じた。
伊吹の浮かべた表情から察し、藍子は小さく首を振る。
「VividColorsを立ち上げたのは大学在学中なんです。それも親の経営する系列の会社へ勤務する話を蹴ってまで会社を作ったんです。
反対はされませんでしたが、自分で決めたのだから自分の力で頑張ると約束したんです。
事業拡大の為にお金を出してとは言えませんでした」
「すみません、アイスコーヒーのお代わりをお願いします」
「あっ、私もお願いします!
すみません、飲み物がなくなったのに気付かなくて」
長々と自分語りしていたのに気付き、藍子は顔を赤らめながらストローに口を付けて残りを飲み干す。
伊吹は興味深いお話です、と答えて気にしていない事を伝える。
ママさんがお代わりのアイスコーヒーをテーブルに置き、藍子はミルクとシロップを入れてかき混ぜると、改めて自分の会社の置かれた状況について説明しだす。
「最初の一人が契約してくれてから、その子の横の繋がりで所属契約について詳しく聞きたいと言って下さるYourTunerが連絡を下さるようになりました。
ありがたい事に、少しずつ所属YourTunerが増えていったんです」
一人で活動するYourTunerでも、YourTuner同士の繋がりを持っている。
お互いのチャンネルに出演し合う事により多くの新規視聴者の目に触れる機会を得て、双方のチャンネル登録者を増やす事が出来るのだ。
その繋がり内での紹介で、VividColorsの所属YourTunerは最大十五名まで伸ばす事となった。一企業の売上として見るとまだまだ零細と呼ばれる規模感である。
しかし、藍子は順調な滑り出しであると判断した。現状、事業は上手く行っている。であれば、勢いを付ける為にも、自分の目標であるVtuner事業の為にも先行投資が必要だ。
「所属YourTunerが増えても、すぐにみんなをVtuner化する事は出来ません。イラストの発注やモーションキャプチャー用の機材の購入、撮影するスタジオの用意や自宅での動画撮影やライブ配信が出来るようにする為の環境整備など、とても十五人分用意する事は出来ません」
伊吹が元いた世界では、すでにヴァーチャルライバーは一般層にまで浸透していた。誰もが特別な機材を用意する事なく、スマートフォン一つで配信する事が出た。
が、この世界ではまだその技術段階には達していない。広く普及していない技術に関する機材はとてつもなく高価だ。
伊吹が元いた世界ではスマートフォン一つで出来る事でも、この世界においては複数の高額な機材が必要となる。
「ですので、所属YourTunerの中からチャンネル登録者の多い三名を初期メンバーとして選出し、一期生としてVtunerデビューさせたです」
ヴァーチャルライバー達を世に知らしめ、一般層にまで普及させる。この世界の映像配信技術を新たな段階へと押し上げる重要人物、それが藍子がなのだと伊吹は理解した。
「一期生Vtuner達はデビューしてすぐ、収益が爆発的に増加しました。やはり私の判断は間違っていなかった。そう確信したのです。
残りの十二名を二期生としてVtunerデビューさせるべく、すぐに詳細な事業計画書を作成し、色んな銀行へ融資のお願いをして回りました。
が、YourTunerという職業自体がまだ市民権を得ていない事に加え、さらにヴァーチャル配信に特化した事業にお金を貸してくれる銀行はありませんでした」
ただの事業家であればそこで一度立ち止まり、現在得ている収益を増やしてから改めて会社の自己資本で事業拡大を行うだろう。
が、藍子はただの事業家ではなく、秘めている情熱もまた半端なものではなかったのだ。
「個人名義の銀行口座から必要最小限のみを残して全額引き出し、それでも足りない分は親から譲られて私が所有していた投資目的の株や不動産を売却して現金化しました」
ん? と伊吹は首を傾げる。
今聞かされた内容を鑑みるに、藍子はいわゆるお嬢様だ。それも相当なレベルで。
親に泣きつけば直接会社へ資金を出してくれるのではと、伊吹は感じた。
伊吹の浮かべた表情から察し、藍子は小さく首を振る。
「VividColorsを立ち上げたのは大学在学中なんです。それも親の経営する系列の会社へ勤務する話を蹴ってまで会社を作ったんです。
反対はされませんでしたが、自分で決めたのだから自分の力で頑張ると約束したんです。
事業拡大の為にお金を出してとは言えませんでした」
103
お気に入りに追加
511
あなたにおすすめの小説
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
強制的にダンジョンに閉じ込められ配信を始めた俺、吸血鬼に進化するがエロい衝動を抑えきれない
ぐうのすけ
ファンタジー
朝起きると美人予言者が俺を訪ねて来る。
「どうも、予言者です。あなたがダンジョンで配信をしないと日本人の半分近くが死にます。さあ、行きましょう」
そして俺は黒服マッチョに両脇を抱えられて黒塗りの車に乗せられ、日本に1つしかないダンジョンに移動する。
『ダンジョン配信の義務さえ果たせばハーレムをお約束します』
『ダンジョン配信の義務さえ果たせば一生お金の心配はいりません』
「いや、それより自由をください!!」
俺は進化して力を手に入れるが、その力にはトラップがあった。
「吸血鬼、だと!バンパイア=エロだと相場は決まっている!」
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?
わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。
ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。
しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。
他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。
本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。
贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。
そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。
家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる