転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界に彩りを

なつのさんち

文字の大きさ
上 下
2 / 243
第一章:土下座女と男装の麗人(男)

男装の麗人(男)

しおりを挟む
 オフィス街、昼食時を少し過ぎた時間帯。支払いを終えた男がラーメン屋から出て来る。すぐには歩き出さず、ビルの陰で吹き出る汗をハンカチで拭う。

「どうぞー。男装ってあっついですよねー。私も時々するけど、さすがに今の時期にタートルネックはきっついでしょー。でもその姿勢は大好き」

 道端でうちわを配っていたアルバイトの女が男に歩み寄る。男は小さく頭を下げてうちわを受け取る。

「あー、声も出さないなんてちょー本格的ですね。私ってば男装中に声掛けられたら調子に乗ってベラベラ喋っちゃってちょー幻滅されるんですよ。こないだなんて、声が女だって言って怒鳴られて散々でした。
 あ、このうちわ、男性化整形の病院のなんで必要ないかもだけど良かったらよろしくでーす」

 しっかりとアルバイトとしての職務をこなし、離れて行く女。声は大きいが、あまり長く話すと迷惑が掛かるという気遣いを感じる。
 耳の辺りを押さえて離れていく女の背中を見送りながら、男は貰ったうちわで顔を扇ぐ。

「しかし本当に暑いな。これ脱いだらヤバいんだろうか」

 肩まで伸ばされた髪の毛は、汗で濡れて頬やうなじにぺったり張り付いている。
 坊主頭にしたらダメかなぁと呑気に考える男の目の前に、スライディング土下座をかますビジネススーツ姿の女が現れた。

「話を聞いて頂けませんか!?」

「……いいですけど場所変えません?」

 混雑する時間を過ぎているとは言え、オフィス街である。昼食時をあえて外して昼休憩をしようと考えたビジネスウーマン達が興味深そうに二人を眺めている。

「ありがとうございます! では少し離れた場所にある喫茶店へ参りましょう!
 もちろんお茶代は私が持ちます!!」

 立ち上がり、ずれたメガネをクイっと直したショートカットの女を見て、男はキャリアウーマンだなぁという印象を覚える。

「力強いナンパねぇ、私も若い時は女と分かりつつも男装の女に……」

 と、うんぬんかんぬん言いながら野次馬していた女達が通り過ぎていく。

「ささっ、こちらへどうぞ」

 男はスライディング土下座キャリアウーマンに腕を掴まれ、喫茶店へと連れて行かれる。
 男の身長は百七十五センチ。ヒールを履いているスライディングキャリア土下座ウーマンとそう変わらない。

「暑いですし、アイスコーヒーで良いですか?」

「そうですね」

 男は女に答えつつ、すれ違う一見男女のカップル、に見える女達を見て、自分達もそういう風に見えるのだろうと納得する。

カランコロン♪

 路地を入った先、落ち着いた印象の純喫茶風の店へ入る二人。
 慣れた様子で女はカウンターの向こうにいる店員に右手の指を二本出してアイスコーヒーを注文する。
 店には客がいないようで、店の雰囲気にピッタリなジャズが流されている。
 店内の一番奥、商談にも使えそうなテーブルの壁際のソファーを男に勧め、自らお冷とおしぼりを取って来てテーブルに置き、そして対面の椅子へと腰掛ける。
 冷たいおしぼりを首筋にあてがい、女がふーっと小さく息を吐く。

「ババ臭いけどついついやっちゃうんですよね」

「分かりますよ」

 では僕も失礼して、とおしぼりを広げて顔を拭く男。
 おじさん臭いですよね、と言い掛けて寸前で止める。今の自分の置かれた状況を思い出し、しかし慌てずにおしぼりを畳んでテーブルに置く。

「お化粧じゃないんだ……」

 怪しまれたか、と男の背中に冷や汗が伝うが、今さらである。逆に堂々としていれば案外バレないのではないか、と男は開き直って笑顔を浮かべる。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

シン・三毛猫現象 〜自然出産される男が3万人に1人の割合になった世界に帰還した僕はとんでもなくモテモテになったようです〜

ミコガミヒデカズ
ファンタジー
 気軽に読めるあべこべ、男女比モノです。  以前、私がカクヨム様で書いていた小説をリメイクしたものです。  とあるきっかけで異世界エニックスウェアに転移した主人公、佐久間修。彼はもう一人の転移者と共に魔王との決戦に挑むが、 「儂の味方になれば世界の半分をやろう」  そんな魔王の提案に共に転移したもう一人の勇者が応じてしまう。そんな事はさせないと修は魔王を倒そうとするが、事もあろうに味方だったもう一人の勇者が魔王と手を組み攻撃してきた。  瞬間移動の術でなんとか難を逃れた修だったが、たどり着いたのは男のほとんどが姿を消した異世界転移15年後の地球だった…。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

【掲示板形式】気付いたら貞操逆転世界にいたんだがどうすればいい

やまいし
ファンタジー
掲示板にハマった…… 掲示板形式+αです。※掲示板は元の世界(現代日本)と繋がっています。

処理中です...