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第一章:土下座女と男装の麗人(男)
男装の麗人(男)
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オフィス街、昼食時を少し過ぎた時間帯。支払いを終えた男がラーメン屋から出て来る。すぐには歩き出さず、ビルの陰で吹き出る汗をハンカチで拭う。
「どうぞー。男装ってあっついですよねー。私も時々するけど、さすがに今の時期にタートルネックはきっついでしょー。でもその姿勢は大好き」
道端でうちわを配っていたアルバイトの女が男に歩み寄る。男は小さく頭を下げてうちわを受け取る。
「あー、声も出さないなんてちょー本格的ですね。私ってば男装中に声掛けられたら調子に乗ってベラベラ喋っちゃってちょー幻滅されるんですよ。こないだなんて、声が女だって言って怒鳴られて散々でした。
あ、このうちわ、男性化整形の病院のなんで必要ないかもだけど良かったらよろしくでーす」
しっかりとアルバイトとしての職務をこなし、離れて行く女。声は大きいが、あまり長く話すと迷惑が掛かるという気遣いを感じる。
耳の辺りを押さえて離れていく女の背中を見送りながら、男は貰ったうちわで顔を扇ぐ。
「しかし本当に暑いな。これ脱いだらヤバいんだろうか」
肩まで伸ばされた髪の毛は、汗で濡れて頬やうなじにぺったり張り付いている。
坊主頭にしたらダメかなぁと呑気に考える男の目の前に、スライディング土下座をかますビジネススーツ姿の女が現れた。
「話を聞いて頂けませんか!?」
「……いいですけど場所変えません?」
混雑する時間を過ぎているとは言え、オフィス街である。昼食時をあえて外して昼休憩をしようと考えたビジネスウーマン達が興味深そうに二人を眺めている。
「ありがとうございます! では少し離れた場所にある喫茶店へ参りましょう!
もちろんお茶代は私が持ちます!!」
立ち上がり、ずれたメガネをクイっと直したショートカットの女を見て、男はキャリアウーマンだなぁという印象を覚える。
「力強いナンパねぇ、私も若い時は女と分かりつつも男装の女に……」
と、うんぬんかんぬん言いながら野次馬していた女達が通り過ぎていく。
「ささっ、こちらへどうぞ」
男はスライディング土下座キャリアウーマンに腕を掴まれ、喫茶店へと連れて行かれる。
男の身長は百七十五センチ。ヒールを履いているスライディングキャリア土下座ウーマンとそう変わらない。
「暑いですし、アイスコーヒーで良いですか?」
「そうですね」
男は女に答えつつ、すれ違う一見男女のカップル、に見える女達を見て、自分達もそういう風に見えるのだろうと納得する。
カランコロン♪
路地を入った先、落ち着いた印象の純喫茶風の店へ入る二人。
慣れた様子で女はカウンターの向こうにいる店員に右手の指を二本出してアイスコーヒーを注文する。
店には客がいないようで、店の雰囲気にピッタリなジャズが流されている。
店内の一番奥、商談にも使えそうなテーブルの壁際のソファーを男に勧め、自らお冷とおしぼりを取って来てテーブルに置き、そして対面の椅子へと腰掛ける。
冷たいおしぼりを首筋にあてがい、女がふーっと小さく息を吐く。
「ババ臭いけどついついやっちゃうんですよね」
「分かりますよ」
では僕も失礼して、とおしぼりを広げて顔を拭く男。
おじさん臭いですよね、と言い掛けて寸前で止める。今の自分の置かれた状況を思い出し、しかし慌てずにおしぼりを畳んでテーブルに置く。
「お化粧じゃないんだ……」
怪しまれたか、と男の背中に冷や汗が伝うが、今さらである。逆に堂々としていれば案外バレないのではないか、と男は開き直って笑顔を浮かべる。
「どうぞー。男装ってあっついですよねー。私も時々するけど、さすがに今の時期にタートルネックはきっついでしょー。でもその姿勢は大好き」
道端でうちわを配っていたアルバイトの女が男に歩み寄る。男は小さく頭を下げてうちわを受け取る。
「あー、声も出さないなんてちょー本格的ですね。私ってば男装中に声掛けられたら調子に乗ってベラベラ喋っちゃってちょー幻滅されるんですよ。こないだなんて、声が女だって言って怒鳴られて散々でした。
あ、このうちわ、男性化整形の病院のなんで必要ないかもだけど良かったらよろしくでーす」
しっかりとアルバイトとしての職務をこなし、離れて行く女。声は大きいが、あまり長く話すと迷惑が掛かるという気遣いを感じる。
耳の辺りを押さえて離れていく女の背中を見送りながら、男は貰ったうちわで顔を扇ぐ。
「しかし本当に暑いな。これ脱いだらヤバいんだろうか」
肩まで伸ばされた髪の毛は、汗で濡れて頬やうなじにぺったり張り付いている。
坊主頭にしたらダメかなぁと呑気に考える男の目の前に、スライディング土下座をかますビジネススーツ姿の女が現れた。
「話を聞いて頂けませんか!?」
「……いいですけど場所変えません?」
混雑する時間を過ぎているとは言え、オフィス街である。昼食時をあえて外して昼休憩をしようと考えたビジネスウーマン達が興味深そうに二人を眺めている。
「ありがとうございます! では少し離れた場所にある喫茶店へ参りましょう!
もちろんお茶代は私が持ちます!!」
立ち上がり、ずれたメガネをクイっと直したショートカットの女を見て、男はキャリアウーマンだなぁという印象を覚える。
「力強いナンパねぇ、私も若い時は女と分かりつつも男装の女に……」
と、うんぬんかんぬん言いながら野次馬していた女達が通り過ぎていく。
「ささっ、こちらへどうぞ」
男はスライディング土下座キャリアウーマンに腕を掴まれ、喫茶店へと連れて行かれる。
男の身長は百七十五センチ。ヒールを履いているスライディングキャリア土下座ウーマンとそう変わらない。
「暑いですし、アイスコーヒーで良いですか?」
「そうですね」
男は女に答えつつ、すれ違う一見男女のカップル、に見える女達を見て、自分達もそういう風に見えるのだろうと納得する。
カランコロン♪
路地を入った先、落ち着いた印象の純喫茶風の店へ入る二人。
慣れた様子で女はカウンターの向こうにいる店員に右手の指を二本出してアイスコーヒーを注文する。
店には客がいないようで、店の雰囲気にピッタリなジャズが流されている。
店内の一番奥、商談にも使えそうなテーブルの壁際のソファーを男に勧め、自らお冷とおしぼりを取って来てテーブルに置き、そして対面の椅子へと腰掛ける。
冷たいおしぼりを首筋にあてがい、女がふーっと小さく息を吐く。
「ババ臭いけどついついやっちゃうんですよね」
「分かりますよ」
では僕も失礼して、とおしぼりを広げて顔を拭く男。
おじさん臭いですよね、と言い掛けて寸前で止める。今の自分の置かれた状況を思い出し、しかし慌てずにおしぼりを畳んでテーブルに置く。
「お化粧じゃないんだ……」
怪しまれたか、と男の背中に冷や汗が伝うが、今さらである。逆に堂々としていれば案外バレないのではないか、と男は開き直って笑顔を浮かべる。
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