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33:営業部長

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「失礼します」

 名誉顧問の声を受けて、営業部長が部屋へ来られた。
 俺の隣に座るらしい。
 事務のおばちゃんが一緒に入って来て、部長のお茶を置いて出て行った。
 もう変な噂すんなよ。

「先日はどうもありがとうございました」

「いやいや、いつでも連絡をくれればいい」

 何やら部長は最近名誉顧問に世話になったみたいだな。

「それで、今回はどのような……?」

 部長が俺の顔と名誉顧問の顔を交互に見ながら様子を窺って来る。

「うんうん、今日は鷲田わしだの気持ちをほぐしに来た。
 君は今回の会社の株の話で、この幸坂こうさかの事を良く思ってないだろうと思ってな」

 うわぁ、部長が苦虫を噛んだような顔をしている。
 気持ちは分かるけど営業なんだからもうちょっと表情を隠してくれないかな。
 部長はその歪んだ表情をぐっと堪えてから、俺の肩にバンと手を置いて口を開いた。
 
「しかし顧問、こんな若造に会社経営なんぞ出来ると思われますか?
 帳簿の上の数字しか見て来なかった人間ですよ。
 たまたま金があるからと上に立たれたんじゃ、こっちはやってられませんよ!」

 部長が喋りながら肩を揺らすもんだから視界がぐわんぐわんする。
 さすがに俺もキレるぞ。

「しかしなぁ、鷲田。
 会社ってのは株主の資産を運用する箱みたいなもんだ。
 お前が言う若造の金を増やす為にお前は働いてんだぞ。
 文句があんなら辞めろ。
 お前が揺らしてるその肩に、社員全員の首が乗ってんだ」

「……もしかして、もう?」

 うんうん、とまた名誉顧問が大きく頷く。
 それを見て俺の肩から手を離す部長。
 そうか、社内的にはまだ名誉顧問と専務の株が俺の物になった事は知られていないのか。

「幸坂はすでに45%の株を持つ筆頭株主だ。
 お前をクビには出来なくても、社員に指示してボーナスを減らしたり外部へ左遷したりくらいは出来るんだぞ」

 しないけどね。
 ……今のところは。

「社長はちょっと、やり過ぎなんじゃないですかね?」

 営業部長は真っ直ぐに名誉顧問を見つめている。
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