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22:ご隠居

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 専務が社長と上條かみじょう課長をとりなし、四人でソファーに掛けて今後の話し合いをする事になった。

「とりあえず、だ。
 ご隠居はもう株主ではなくなった。
 名誉顧問も退いてもらおう」

 社長はこのタイミングで先代社長である名誉顧問を会社から追い出すつもりのようだ。

「社長と名誉顧問との間でそのような取り決めをされていたのですか?」

「いや? だがもう持ち株はないんだ。
 構わんだろう。
 上條君、そのように電話で伝えておいてくれ。
 来月から給料は払わんと」

 事前に名誉顧問と決めていた訳ではないらしい。
 随分と一方的な物言いだ。

 本来ならば名誉顧問に直接会って社長が会社としての意向を伝えて、納得してもらった上で名誉顧問の座を辞してもらうというのが筋だろう。
 絶対に揉めるし遺恨が残る。
 そして恨まれるのは社長だけでなく、専務も上條課長も、そして直接は関係のない俺にまで及ぶだろう。

 ここは筆頭株主として、ちゃんと名誉顧問が納得する形で退任してもらうよう社長へ指示するべきだろうか。
 俺が社長に指示?
 株主として?
 いやぁ、ちょっとそんな事を言う勇気はないな……。

「しかし社長、そのような不義理をしてしまえば悪感情を持たれてしまいます。
 それに、これは名誉顧問だけの問題ではありません。
 近々専務のご勇退も考えておられるのですよね?
 すでに株主ではないからと、専務の待遇もぞんざいに扱うおつもりですか?」

 上條課長、言いにくい事をしっかりすっぱりと言って下さる。
 さすが我が社の幹部、次の給与改定の時に色を付けさせてもらおう。

 俺が人事に口を出せるかどうかまだ分からないけどね。
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