19 / 52
19:M&A
しおりを挟む
「白紙ですか……!?」
口調こそ努めて冷静にしようとしているが、声色が若干乱れた。
もしかして柳井さんから見れば社長はM&Aセンターへ登録するだろうという手応えを感じていたのかも。
「株主の方々の同意を得られませんでしたか?」
「いや、まだ専務や他の株主への説明はしてなくてね。
ただ状況が変わっただけだ」
んー、専務には説明してなかったのか。
そう言えば上條課長に売る相手が個人であれば五百円でいいのかって確認してたもんな。
M&Aセンターを通じれば売る相手は企業だろうし、その時は評価額での譲渡になるだろうからな。
金額だけ見れば出資した時の十数倍の現金を受け取れる訳だ。
まぁ上手く相手が見つかれば、の話だけれども。
「状況が変わった、ですか……」
そう言って、ちらっと俺の方を見る柳井さん。
うん、この状況で気付かない訳ないよね。
気まずい。
「失礼ですが、幸坂さんは社長のご親戚、とか……?」
「いやいや、違う。
まぁ何にしても、M&Aの話はなしだ。
私は当分退任せんし、専務ももうしばらく現役を続ける。
そういう事だ」
いやどういう事だよ。
銀行としては納得出来る訳ないだろうに。
柳井さん的にはM&Aセンターの人間を紹介し、うちの会社がそのセンターへ登録する事で着手金の何%かが手数料として銀行に入るのだろう。
そもそもそのM&Aセンターは宮坂銀行系列のグループ会社だろうし、うちの会社を買う企業へ宮坂銀行が貸し付けをしたりととてもおいしいビジネスなんじゃないだろうか。
それが今日、この場でなくなってしまった。
今までこの話を進めている時にはいなかった面子がおり、何か関係あるのか確認するとはぐらかされる。
納得出来ないよな。
社長ももっと丁重に断るなり、上手な嘘をつくなりすればいいものを……。
その後、当たり障りのない雑談が続けられ、変な空気感のまま柳井さんが帰る流れに。
ソファーから立ち上がる柳井さん。
それにつられて俺と上條課長も立ち上がる。
社長はソファーに座ったまま。
ドアを開けようとした俺を手で制し、上條課長が柳井さんを伴って社長室を退出していった。
最後に見えた柳井さんの表情、かなり不機嫌そうだったな。
隠す事が出来なかったのか、銀行員としてのプライドがそうさせたのか分からないが。
嫌な感じ。
「支店長を連れて来る前に、社内に幸坂君の事を正式通達する必要があるな……」
ポツリと零れる社長の独白。
いや、遅いよ?
いやいや、展開が早過ぎるんだな。
明日は出社せず家に籠りたい気分だ……。
口調こそ努めて冷静にしようとしているが、声色が若干乱れた。
もしかして柳井さんから見れば社長はM&Aセンターへ登録するだろうという手応えを感じていたのかも。
「株主の方々の同意を得られませんでしたか?」
「いや、まだ専務や他の株主への説明はしてなくてね。
ただ状況が変わっただけだ」
んー、専務には説明してなかったのか。
そう言えば上條課長に売る相手が個人であれば五百円でいいのかって確認してたもんな。
M&Aセンターを通じれば売る相手は企業だろうし、その時は評価額での譲渡になるだろうからな。
金額だけ見れば出資した時の十数倍の現金を受け取れる訳だ。
まぁ上手く相手が見つかれば、の話だけれども。
「状況が変わった、ですか……」
そう言って、ちらっと俺の方を見る柳井さん。
うん、この状況で気付かない訳ないよね。
気まずい。
「失礼ですが、幸坂さんは社長のご親戚、とか……?」
「いやいや、違う。
まぁ何にしても、M&Aの話はなしだ。
私は当分退任せんし、専務ももうしばらく現役を続ける。
そういう事だ」
いやどういう事だよ。
銀行としては納得出来る訳ないだろうに。
柳井さん的にはM&Aセンターの人間を紹介し、うちの会社がそのセンターへ登録する事で着手金の何%かが手数料として銀行に入るのだろう。
そもそもそのM&Aセンターは宮坂銀行系列のグループ会社だろうし、うちの会社を買う企業へ宮坂銀行が貸し付けをしたりととてもおいしいビジネスなんじゃないだろうか。
それが今日、この場でなくなってしまった。
今までこの話を進めている時にはいなかった面子がおり、何か関係あるのか確認するとはぐらかされる。
納得出来ないよな。
社長ももっと丁重に断るなり、上手な嘘をつくなりすればいいものを……。
その後、当たり障りのない雑談が続けられ、変な空気感のまま柳井さんが帰る流れに。
ソファーから立ち上がる柳井さん。
それにつられて俺と上條課長も立ち上がる。
社長はソファーに座ったまま。
ドアを開けようとした俺を手で制し、上條課長が柳井さんを伴って社長室を退出していった。
最後に見えた柳井さんの表情、かなり不機嫌そうだったな。
隠す事が出来なかったのか、銀行員としてのプライドがそうさせたのか分からないが。
嫌な感じ。
「支店長を連れて来る前に、社内に幸坂君の事を正式通達する必要があるな……」
ポツリと零れる社長の独白。
いや、遅いよ?
いやいや、展開が早過ぎるんだな。
明日は出社せず家に籠りたい気分だ……。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
9
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる