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18:銀行

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 さて、銀行は社長と何の話をしに来るのだろうか。
 銀行とのやり取りは基本的には上條かみじょう課長に任されている。
 銀行担当者が来社される時は経理課に通し、俺や山村やまむらさんや村川むらかわさんがいる前で上條課長と話をする。
 その為に経理課に応接セットがある訳だ。
 融資の更新手続きや借り換えの際、社長のサインが不要な場合は経理課で手続きをする。
 また、社長のサインが必要な際は今回のように事前にアポを取って社長室にて手続きをすると思うが、直近で借り換えへ新規借り換えの話はなかったはずだ。

 社長はソファーに座ったままゴルフ用品のカタログを眺めているだけで、俺に説明をするつもりはないようだ。

コンコンコンッ

「はい」

 今度は社長自ら返事をされ、上條課長が銀行担当者を伴って入って来られた。
 宮坂銀行の柳井やないさん。
 俺より年上で、お子さんをお持ちの男性銀行員だ。
 俺が社長のデスクに座っているのに気付いてぎょっとした顔をされている。

 ……そうだよな、俺がここに座ってるとか違和感バリバリだよな。
 社長も上條課長も特に説明せず、それぞれソファーへ腰かける。
 俺も上條課長の左隣へと座る。

「後身の育成の為に幸坂こうさかを同席させて頂きます。
 今後こういう機会が増えると思いますので」

「そうですか」

 すんなり納得は出来ないだろうが、表面上は頷いて見せる柳井さん。
 俺は柳井さんと初対面ではない。
 初めてお会いした時に名刺の交換を済ませているし、銀行サイドとしては俺が同席して困るような事なんてないよな。

 まずは政治や経済のニュースについての雑談から入り、それについての業界の動き、そして自社への影響があるかないかについてなど話が進んでいく。
 
「それで社長、保留となっていたM&Aセンターへの登録の件なのですが」

 場が温まった頃に大久保さんが本日の本題を口にする。
 ……M&Aか。
 俺の、というか一般社員の預かり知らぬところで会社の売却についての話が進んでいた、と。

 あー、一般社員に同席されて銀行サイドが困る話があったわ。
 買収か。
 自分の会社が売りに出るって事は、自分の生活に直結する話だもんな。

「あぁ、その話だがね。白紙にさせてくれ」
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