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05:筆頭株主
しおりを挟む社長の渋い声を聞いて、じーん、と身体が震えている。
「名誉顧問ももう八十を越えた。
ご家族から早く株を処分してくれと言われてるらしくてな、会社の自己株にして引き取ってくれんかと要請されてたんだ。
しかし上條君に詳しく調べてもらったところ、どうやら会社が引き取る場合は額面の五百円では買えんらしい。
上條君、いくらだったかね?」
「我が社の株式評価額は五千五百円です」
「五千五百円。
名誉顧問の持ち株数は25%。
上條君」
「買い取り総額は一億三千七百五十万円です」
「会社がご隠居の株を引き取るとなると、一億四千万円近く払わなくてはならない。
しかし君が、幸坂君がご隠居から株を引き取るとなると。
上條君」
「千二百五十万円です」
「たった千五百万円ほどで買い取れる訳だ、お得だと思わないかね?」
確かにお得だ!
一億二千五百万円もお得になる!!
「しかもだ、田沼専務と名誉顧問から買い取った株を合わせると45%。
上條君」
「我が社の筆頭株主となります」
「そう、筆頭株主!
我が社の大株主になるんだよ。
筆頭株主になるという事はだね、会社の経営に重要な責任を持つ事になるのだよ。
つまり、君は……」
「……社長」
ん?
上條君と振られるパターンが崩れたのが気に食わなかったのか、課長が社長へ何か言いたそうな表情を浮かべている。
「まぁまぁ」
ニコニコ顔の専務が課長を諫めておられる。
「詳しい手続きや本当に五百円で売買が出来るのか等、上條君の方で顧問税理士の先生に確認しておいてくれ。
さて幸坂君、昼には少し早いが食べに出るとしよう。
株主としての心得とは何ぞやというのを私と専務から詳しく教えてあげよう」
「おっ、久しぶりに光嶋亭のしゃぶしゃぶと参りましょうか!」
専務が立ち上がりスマホで予約を取り始めた。
やけに腰が軽いな、いつもなら俺に振られる仕事なのに。
まぁ経理課なんて言っても五十人規模の会社だから、財務に人事に総務に労務と何でも経理課の仕事だからな。
駐車場の雑草抜いたりすんのも俺の仕事だし。
社長が頼んだ、と課長の背中を叩いて社長室から送り出し、そしてセカンドバッグを脇に挟んで俺に向き直る。
「運転は頼んだぞ」
あ、それは俺なのね。
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