1 / 5
ミユキって、誰?
しおりを挟む
「ねぇ、ミユキって誰?」
「……は?」
久しぶりの彼女とのデート。
彼女はここのところ就活で忙しく、会う事はもちろん電話する時間すら取ってもらえなかった。
そんな多忙な彼女から誘われて、こうして夕食を共にしている幸せな時間、になるはずだったのに。
彼女の口から思いもよらない名前が出て、最初はピンと来なかった。
「昨日気味が悪い事があったからって、寝る前にちょっとだけ電話で話したでしょ? 切る時に『お休み、ミユキ』って言われたんだけど」
……は? 何でその名前を?
昨日は寝言を口にするような状況ではなかった。気味が悪い出来事については教えられてないけど、普通に喋って普通に話して、普通に切った。
そのつもりだったんだが。
「別に私以外の人と寝落ち通話するのは良いよ、実際に会っても良いしホテル行ったとしても怒らない。でも最低限私には知られないようにしてくれないかな。その、マナーって言うか……」
寝落ち通話。
一人で寝られない、と言葉にするととても甘えた性格に聞こえるが、ある種の精神的な安らぎを求めての事だ。
寝酒を求めるのとそう変わらないと自分では思っている。寝落ち通話友達を探せば割と簡単に見つける事が出来るほど、寝落ち通話は認知されている。
もちろん俺が探す相手は女性だ。向こうとしても寝るまで話し相手になってくれるならオッサンであろうがイケメンでなかろうが関係ない。声さえ気にならなければ、後は気が合うかどうかの問題だけだ。
声が気に入ってノリが合って、そして実際に寝落ち出来ればいいだけの存在。
「その、ミユキって人は私の事、知ってるの……?」
ミユキはそんな寝落ち通話相手の一人だ。会った事はなく加工された写メを見た事がある程度。正直どうでもいい相手だ。そんな女に自分の彼女の話をするはずもなく。
「いやいやいや、ただの寝落ち通話友達だよ! 会うつもりもないし、相手にも彼氏がいるかもしれないし、そんなマジなヤツじゃないから。だいたい、相手は関東らへんに住んでるっぽいし、会おうと思っても簡単に会える距離じゃないよ」
でも何で寝ぼけてる訳でもないのに凛ちゃんの名前を間違ってしまったんだろうか。
「……間違えるって事はシロさんが無意識でミユキちゃんの事考えてるからじゃないの?」
それほどミユキに入れ込んでいるつもりはない。ミユキ以外にも寝落ち通話相手はいる。
でも、珍しく凛ちゃんが俺に対する嫉妬心を見せてくれたのは嬉しい。
「何で笑う訳? こっちは真剣に話してるんだよ?」
「ごめんごめん、妬いてくれるくらいには好きでいてくれるんだなって思って」
「妬いてる訳じゃなくて、単純に心配してるっていうか……」
眉間に皺を寄せて呟く彼女。食欲が沸かないのか、あまり箸が進んでいない。
「肉いっぱい食べて元気付けて、就活頑張んないと」
その後は何気ない会話をしつつ、夕食を終えてタクシーを拾う為に大通りへ向かう。
「こんなご時世だから仕方ないよ、焦んなくても俺が養うから大丈夫だよ」
「でもシロさん絶対私より先に死ぬじゃん。自分が死んだ後の二~三十年分の貯蓄出来る?」
「いや、それはさすがに……」
自分でも浪費が激しい方だという自覚があるし、凛ちゃんとのお付き合いで発生する必要経費もかなり痛い。二十も年下と付き合っているのだから仕方ないと思っている。
彼女との将来を意識してはいるが、貯蓄や財産形成については全く意識出来ていない。
「じゃあ私も働かないと。シロさんが死んだ後もオタ活したいし」
「言い方!」
タクシーが止まり、彼女が乗り込む。今日はここでお別れだ。彼女に五千円札を手渡す。
「忙しいのに時間作ってくれて嬉しかったよ」
「あー、うん。また連絡するね」
「じゃあね、ミユキちゃん」
そう告げてタクシーを離れる。バタン、とドアが閉まって走り出すタクシーを見送り、横断歩道を渡りながら、自分が乗るタクシーを呼ぶべくiPhoneを取り出す。
そのタイミングで凛ちゃんからLINEが来た。
『またミユキって言った』
「……は?」
久しぶりの彼女とのデート。
彼女はここのところ就活で忙しく、会う事はもちろん電話する時間すら取ってもらえなかった。
そんな多忙な彼女から誘われて、こうして夕食を共にしている幸せな時間、になるはずだったのに。
彼女の口から思いもよらない名前が出て、最初はピンと来なかった。
「昨日気味が悪い事があったからって、寝る前にちょっとだけ電話で話したでしょ? 切る時に『お休み、ミユキ』って言われたんだけど」
……は? 何でその名前を?
昨日は寝言を口にするような状況ではなかった。気味が悪い出来事については教えられてないけど、普通に喋って普通に話して、普通に切った。
そのつもりだったんだが。
「別に私以外の人と寝落ち通話するのは良いよ、実際に会っても良いしホテル行ったとしても怒らない。でも最低限私には知られないようにしてくれないかな。その、マナーって言うか……」
寝落ち通話。
一人で寝られない、と言葉にするととても甘えた性格に聞こえるが、ある種の精神的な安らぎを求めての事だ。
寝酒を求めるのとそう変わらないと自分では思っている。寝落ち通話友達を探せば割と簡単に見つける事が出来るほど、寝落ち通話は認知されている。
もちろん俺が探す相手は女性だ。向こうとしても寝るまで話し相手になってくれるならオッサンであろうがイケメンでなかろうが関係ない。声さえ気にならなければ、後は気が合うかどうかの問題だけだ。
声が気に入ってノリが合って、そして実際に寝落ち出来ればいいだけの存在。
「その、ミユキって人は私の事、知ってるの……?」
ミユキはそんな寝落ち通話相手の一人だ。会った事はなく加工された写メを見た事がある程度。正直どうでもいい相手だ。そんな女に自分の彼女の話をするはずもなく。
「いやいやいや、ただの寝落ち通話友達だよ! 会うつもりもないし、相手にも彼氏がいるかもしれないし、そんなマジなヤツじゃないから。だいたい、相手は関東らへんに住んでるっぽいし、会おうと思っても簡単に会える距離じゃないよ」
でも何で寝ぼけてる訳でもないのに凛ちゃんの名前を間違ってしまったんだろうか。
「……間違えるって事はシロさんが無意識でミユキちゃんの事考えてるからじゃないの?」
それほどミユキに入れ込んでいるつもりはない。ミユキ以外にも寝落ち通話相手はいる。
でも、珍しく凛ちゃんが俺に対する嫉妬心を見せてくれたのは嬉しい。
「何で笑う訳? こっちは真剣に話してるんだよ?」
「ごめんごめん、妬いてくれるくらいには好きでいてくれるんだなって思って」
「妬いてる訳じゃなくて、単純に心配してるっていうか……」
眉間に皺を寄せて呟く彼女。食欲が沸かないのか、あまり箸が進んでいない。
「肉いっぱい食べて元気付けて、就活頑張んないと」
その後は何気ない会話をしつつ、夕食を終えてタクシーを拾う為に大通りへ向かう。
「こんなご時世だから仕方ないよ、焦んなくても俺が養うから大丈夫だよ」
「でもシロさん絶対私より先に死ぬじゃん。自分が死んだ後の二~三十年分の貯蓄出来る?」
「いや、それはさすがに……」
自分でも浪費が激しい方だという自覚があるし、凛ちゃんとのお付き合いで発生する必要経費もかなり痛い。二十も年下と付き合っているのだから仕方ないと思っている。
彼女との将来を意識してはいるが、貯蓄や財産形成については全く意識出来ていない。
「じゃあ私も働かないと。シロさんが死んだ後もオタ活したいし」
「言い方!」
タクシーが止まり、彼女が乗り込む。今日はここでお別れだ。彼女に五千円札を手渡す。
「忙しいのに時間作ってくれて嬉しかったよ」
「あー、うん。また連絡するね」
「じゃあね、ミユキちゃん」
そう告げてタクシーを離れる。バタン、とドアが閉まって走り出すタクシーを見送り、横断歩道を渡りながら、自分が乗るタクシーを呼ぶべくiPhoneを取り出す。
そのタイミングで凛ちゃんからLINEが来た。
『またミユキって言った』
10
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

死界、白黒の心霊写真にて
天倉永久
ホラー
暑い夏の日。一条夏美は気味の悪い商店街にいた。フラフラと立ち寄った古本屋で奇妙な本に挟まれた白黒の心霊写真を見つける……
夏美は心霊写真に写る黒髪の少女に恋心を抱いたのかもしれない……
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。

こちら御神楽学園心霊部!
緒方あきら
ホラー
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。
灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。
それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。
。
部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。
前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。
通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。
どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。
封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。
決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。
事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。
ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。
都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。
延々と名前を問う不気味な声【名前】。
10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ルール
新菜いに/丹㑚仁戻
ホラー
放課後の恒例となった、友達同士でする怪談話。
その日聞いた怪談は、実は高校の近所が舞台となっていた。
主人公の亜美は怖がりだったが、周りの好奇心に押されその場所へと向かうことに。
その怪談は何を伝えようとしていたのか――その意味を知ったときには、もう遅い。
□第6回ホラー・ミステリー小説大賞にて奨励賞をいただきました□
※章ごとに登場人物や時代が変わる連作短編のような構成です(第一章と最後の二章は同じ登場人物)。
※結構グロいです。
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
※カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
©2022 新菜いに
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる