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「おはよう。」
相変わらず、俺は沙羅のもとに通っている。
春が見え隠れする冷たい空気の中を、自転車に乗って。
違うのは、俺が学校を辞めたってこと。
作家で食っていけるとは思わないけど、文字が苦手になった俺が、近いうちに高校に通えるようになるとも思えない。だったら、自分でスマホを使って勉強した方がよっぽど効率がいいし、負担も少ない。そう思ったから。
両親は、特に反対しなかった。
「高卒の資格取ればいいし、今すぐ高校卒業しなくてもいい。」
それが両親の考えみたいだった。
あそこに戻らなくちゃいけないプレッシャーを、知らないうちに感じていたらしい。
辞めてから、心がすごく軽くなった。
いつも俺を信じてくれる両親だから、俺が高校を辞めたと言ってもネガティブにとらえることはなかった。岸谷さんにもLINEで報告したけど、返ってきたのは相変わらず優しくて、未来志向の言葉だった。
つくづく、環境に恵まれていると思う。
ただ、穂乃果さんだけがちょっと心配していたけど。
沙羅は、俺の進路にはあんまり興味がないみたいだった。
直接ではないにしても、俺が決断する時はたいてい沙羅の言葉に背中を押されているっていうのに。
ついこの間、絵本を持って滔々と語っていたあの姿は幻想なんじゃないかと思うくらいだ。
「私は、建都が本書いてくれるならそれでいい。」
ご都合主義というか、不干渉というか。
まぁでも、そのくらいの距離感だからこそ相談しやすいこともあるだろう。
「また本、書いてよ。スマホに入力したやつ印刷するだけでもいいから。」
沙羅が俺の方を全く見ずに言う。
「いいよ。ネタはいくらでもあるし。」
文字に起こすのは結構大変だけどね。その辺のところを、沙羅はわかっているのか、わかっていないのか。
「どんな話がいいとかあるの?」
「ん-、特にない。建都が書きたいやつで。」
「わかった。」
沙羅がそういうからには、俺が書きたいものを存分に書かせてもらおう。
帰り道、自転車に乗りながら構想を練っている時間が嬉しくて、目の前の夕日が今までで一番輝いて見えた。
相変わらず、家には誰もいない。
父さんも母さんも穂乃果さんも、みんな仕事に行っている。
帰ってくるのは外が暗くなってからだろう。
スマホを開いて、帰り道に考えた構想をまとめていると、LINEの通知が入った。
学校の友達のLINEはもう全部削除したから、来るとしたら親か岸谷さんだ。
「建都君?今お家にいる?」
岸谷さんだった。
「はい、今お見舞いから家に帰ってきたところです。」
「よかった。今から、お家行ってもいい?」
「え?大丈夫です…けど、何かありました?」
「ちょっと、建都君に渡したいものがあって。お父さんに渡すのでもいいんだけど、直接渡したいと思ったから。」
「えぇ、ありがとうございます…。」
そういえば、俺の家の場所わかるんだろうか。
岸谷さんが俺の家に来たことなんて、一回もない気がするけど。
「大丈夫大丈夫、場所はお父さんに教えてもらってあるから!」
岸谷さんが俺に渡したいもの…なんだろう。
そればっかり考えていて、構想を練るのに集中できない。
仕方ないから、岸谷さんを家にあげても大丈夫なように家の片付けをすることにした。
相変わらず、俺は沙羅のもとに通っている。
春が見え隠れする冷たい空気の中を、自転車に乗って。
違うのは、俺が学校を辞めたってこと。
作家で食っていけるとは思わないけど、文字が苦手になった俺が、近いうちに高校に通えるようになるとも思えない。だったら、自分でスマホを使って勉強した方がよっぽど効率がいいし、負担も少ない。そう思ったから。
両親は、特に反対しなかった。
「高卒の資格取ればいいし、今すぐ高校卒業しなくてもいい。」
それが両親の考えみたいだった。
あそこに戻らなくちゃいけないプレッシャーを、知らないうちに感じていたらしい。
辞めてから、心がすごく軽くなった。
いつも俺を信じてくれる両親だから、俺が高校を辞めたと言ってもネガティブにとらえることはなかった。岸谷さんにもLINEで報告したけど、返ってきたのは相変わらず優しくて、未来志向の言葉だった。
つくづく、環境に恵まれていると思う。
ただ、穂乃果さんだけがちょっと心配していたけど。
沙羅は、俺の進路にはあんまり興味がないみたいだった。
直接ではないにしても、俺が決断する時はたいてい沙羅の言葉に背中を押されているっていうのに。
ついこの間、絵本を持って滔々と語っていたあの姿は幻想なんじゃないかと思うくらいだ。
「私は、建都が本書いてくれるならそれでいい。」
ご都合主義というか、不干渉というか。
まぁでも、そのくらいの距離感だからこそ相談しやすいこともあるだろう。
「また本、書いてよ。スマホに入力したやつ印刷するだけでもいいから。」
沙羅が俺の方を全く見ずに言う。
「いいよ。ネタはいくらでもあるし。」
文字に起こすのは結構大変だけどね。その辺のところを、沙羅はわかっているのか、わかっていないのか。
「どんな話がいいとかあるの?」
「ん-、特にない。建都が書きたいやつで。」
「わかった。」
沙羅がそういうからには、俺が書きたいものを存分に書かせてもらおう。
帰り道、自転車に乗りながら構想を練っている時間が嬉しくて、目の前の夕日が今までで一番輝いて見えた。
相変わらず、家には誰もいない。
父さんも母さんも穂乃果さんも、みんな仕事に行っている。
帰ってくるのは外が暗くなってからだろう。
スマホを開いて、帰り道に考えた構想をまとめていると、LINEの通知が入った。
学校の友達のLINEはもう全部削除したから、来るとしたら親か岸谷さんだ。
「建都君?今お家にいる?」
岸谷さんだった。
「はい、今お見舞いから家に帰ってきたところです。」
「よかった。今から、お家行ってもいい?」
「え?大丈夫です…けど、何かありました?」
「ちょっと、建都君に渡したいものがあって。お父さんに渡すのでもいいんだけど、直接渡したいと思ったから。」
「えぇ、ありがとうございます…。」
そういえば、俺の家の場所わかるんだろうか。
岸谷さんが俺の家に来たことなんて、一回もない気がするけど。
「大丈夫大丈夫、場所はお父さんに教えてもらってあるから!」
岸谷さんが俺に渡したいもの…なんだろう。
そればっかり考えていて、構想を練るのに集中できない。
仕方ないから、岸谷さんを家にあげても大丈夫なように家の片付けをすることにした。
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