真っ白な君は

紐下 育

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「そうだったんだね…。」

沙羅に話したこととほぼ同じ内容を、岸谷さんにも話す。
意外とみんな、引かないで聞いてくれることに安心した。
ありきたりな言葉かもしれないけど、こんなでも、生きてていいんだってわかったというか。

「腑に落ちたよ。どうして建都君くらいの年の子が、『作ることがこわい』なんて言うのか、不思議だったんだ。伊藤先輩、あ、建都君のお父さんは、作ることが生きがいみたいな人だから余計にね。」
「それまでは、俺も本が好きだったし、本を書くのも好きだったんですけど。」
「今も、まだ書くのが怖い?」
「それが…。」
「何か、気持ちの変化とかあったの?」
「その幼馴染に絵本を書いたんです。文字を読む練習もしたいから、書いてほしいって頼まれてて。今日、それを彼女に渡してきたんですけど。」
「へぇ、それは…建都君としては、大変だったね。」
「はい…。でも、文字を勉強するのが楽しみだって言う幼馴染の前で、書きたくないなんて言えなくて。それで、時間はかかったんですけど、なんとか書き上げたんです。」
「へぇ!すごいね。」
「そうしたら、それがすごく気に入ったみたいで。幼馴染が病院の人たちに見せて、瞬く間にそれが広がって。」
「すごいじゃん!」
「今は、ちょっと気持ちが変わってきた気がします。」
「そっか。」
「書き終わったあと、沙羅、あ、幼馴染の名前が沙羅って言うんですけど。沙羅に、言ったんです。本当は言うつもりなんてなかったんですけど、文字がふにゃふにゃしてるけど、どうしたの?って言われちゃって。」
「沙羅ちゃんには、わかっちゃったんだね。」
「だから、もうどうにでもなれと思ってしゃべっちゃったんです。そしたら、沙羅はすごく真剣に向き合ってくれて。」
「うんうん。」
「パソコンで書くこともできるし、俺が喋ったことを沙羅が文字起こしすることもできるからって、言ってくれて。」
「へぇ!」
「バッドエンドじゃなくて、ハッピーエンドの話を書けばいいじゃないって言ってくれて。」
「うんうん。」
「それで気持ちが軽くなったし、これなら、書き続けられるかなって思って。」
「本当に、建都君と沙羅ちゃんは素敵な関係なんだね。」

岸谷さんの言葉は、今までさんざん言われてきた茶化す感じじゃ全くなくて、心から、そう言ってくれてる感じがして、思わず泣きそうになった。

「パソコンだったら、文字かけそうなの?」
「はい。LINEとかもそうなんですけど、デジタルで書いてる分にはそこまで疲れないんです。ペンを握る時みたいに力を入れなくても済みますし。」
「そうなんだね。たいていの作家さんがパソコンで作ってると思うし、それなら少し、安心したよ。」
「ありがとうございます。」

ただの上司の息子に、こんなにも優しくしてくれる岸谷さんが不思議なくらいあたたかい。
電話を切って目をつむっても、岸谷さんの優しい声は耳に残っていた。
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