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「ふぅぅぅ…。」
ついに、書きあがった。
冬の朝の寒さにあらがう暖房が呻る部屋。
そこで、息を吐いた。
沙羅には一週間、と言ったけど、三日くらい過ぎてしまった。
さぼっていたわけじゃなくて、体調がとにかく悪くなってしまったから。
もう最近はお馴染みになっていた吐き気と倦怠感。
だけど、これでもうおさらばだ。
この後、病院の面会可能時間になったら沙羅のところに行って見せよう。
沙羅のことだから、多分お世辞は言わない。
良い物ならば「良い」、そうでもなければ「そうでもない」ってはっきり言ってくれる人だ。だからこそ安心できる。
何でもできるって言われて褒められたり期待されたりするより、できてないところをしっかり見て、適度にあきらめてくれる人の方が好きだ。俺にとってはその方が安心できる。
「よし。」
ここ最近は、穂乃果さんは車で、俺は自転車で、それぞれ病院に向かって、現地でまた顔を合わせている。
帰るタイミングが違うから、行く時間が同じでも別々に行かないといけない。
もちろん自転車の方が時間がかかるから、俺の方が少し早く家を出る。
リュックサックにはできたばかりの絵本とスマホ、イヤホンだけ。
自転車漕ぎやすくしたくて、最低限の荷物しか入れていない。
寒い。
ドアを開けると、玄関を支配する勢いで寒気が入り込んでくる。
ぼーっとしてたら凍るんじゃないかとすら思う。
できるだけ早く体を動かして、あたためないと。
早く漕いだせいで、面会可能時間より早くついてしまった。最悪だ。
病院に入れないから、このくそ寒い外で待たなきゃいけない。
あと五分も…。
スマホを見たとき、俺は急に思い出した。
岸谷さんにLINEするって言ってたんだった。
絵本書くことに必死すぎて、すっかり忘れてた。
ちょうどいい隙間時間。
まだ始業前だし、大丈夫かな。
LINEで文字を打ってる分には、そこまで体調が悪くなることはない。
なんでなんだろう。
活字が苦手、ではあるはずだけど、意外と大丈夫なこともあるのかもしれない。
「お久しぶりです。伊藤建都です。」
「夏休みは本当にお世話になりました。」
最近の近況について書こうと思ったけど、どうやって書いたらいいんだろう。
学校に行けなくなりました、って書くのも変だな。気を遣わせちゃうと思う。
入力しては消して、入力しては消してを繰り返していたら、いつの間にか五分経ってしまった。
いったんスマホを閉まって、沙羅の病室に入ってからまた打とう。
これから面会に行く人たちが、たくさん中に入っていく。
せかせかとした足取りの人たちに混じって、俺も病院に足を踏み入れた。
ついに、書きあがった。
冬の朝の寒さにあらがう暖房が呻る部屋。
そこで、息を吐いた。
沙羅には一週間、と言ったけど、三日くらい過ぎてしまった。
さぼっていたわけじゃなくて、体調がとにかく悪くなってしまったから。
もう最近はお馴染みになっていた吐き気と倦怠感。
だけど、これでもうおさらばだ。
この後、病院の面会可能時間になったら沙羅のところに行って見せよう。
沙羅のことだから、多分お世辞は言わない。
良い物ならば「良い」、そうでもなければ「そうでもない」ってはっきり言ってくれる人だ。だからこそ安心できる。
何でもできるって言われて褒められたり期待されたりするより、できてないところをしっかり見て、適度にあきらめてくれる人の方が好きだ。俺にとってはその方が安心できる。
「よし。」
ここ最近は、穂乃果さんは車で、俺は自転車で、それぞれ病院に向かって、現地でまた顔を合わせている。
帰るタイミングが違うから、行く時間が同じでも別々に行かないといけない。
もちろん自転車の方が時間がかかるから、俺の方が少し早く家を出る。
リュックサックにはできたばかりの絵本とスマホ、イヤホンだけ。
自転車漕ぎやすくしたくて、最低限の荷物しか入れていない。
寒い。
ドアを開けると、玄関を支配する勢いで寒気が入り込んでくる。
ぼーっとしてたら凍るんじゃないかとすら思う。
できるだけ早く体を動かして、あたためないと。
早く漕いだせいで、面会可能時間より早くついてしまった。最悪だ。
病院に入れないから、このくそ寒い外で待たなきゃいけない。
あと五分も…。
スマホを見たとき、俺は急に思い出した。
岸谷さんにLINEするって言ってたんだった。
絵本書くことに必死すぎて、すっかり忘れてた。
ちょうどいい隙間時間。
まだ始業前だし、大丈夫かな。
LINEで文字を打ってる分には、そこまで体調が悪くなることはない。
なんでなんだろう。
活字が苦手、ではあるはずだけど、意外と大丈夫なこともあるのかもしれない。
「お久しぶりです。伊藤建都です。」
「夏休みは本当にお世話になりました。」
最近の近況について書こうと思ったけど、どうやって書いたらいいんだろう。
学校に行けなくなりました、って書くのも変だな。気を遣わせちゃうと思う。
入力しては消して、入力しては消してを繰り返していたら、いつの間にか五分経ってしまった。
いったんスマホを閉まって、沙羅の病室に入ってからまた打とう。
これから面会に行く人たちが、たくさん中に入っていく。
せかせかとした足取りの人たちに混じって、俺も病院に足を踏み入れた。
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