23 / 41
23
しおりを挟む
それから毎日、俺は沙羅の病室に通った。
偽善でもいいって言われて、自分の醜さをちょっとだけ受け入れて。
いや、受け入れたのかは自分でもわからない。開き直ってるだけなのかもしれない。
それでも、沙羅の病室は家にいるより居心地がよかった。
昔二人だけで遊んでた時の公園みたいに、この場所は秘密基地になっていた。
この場所が永遠に続くわけはない。それはわかっている。
沙羅が早く元気になって退院すれば、この病室は誰か別の人の空間になって、沙羅の色がなくなる。
それを願うべきだと、わかっている。
だけど、この居場所がなくなったら俺はどこにいけばいいのか。
就職するのか大学に行くのかもわからない。
この時期にこんなぼーっとしてたら、大学は受からないかもしれない。
そうしたら就職するのかな。
活字も読めないのに?日本で働けるのかな。
不安でいっぱいの俺は、この場所があの公園みたいに壊されるのは嫌だと思ってしまった。
ずっと続いてほしいと、心の中で静かに願った。
「ねぇ、建都。私、音楽が聴きたい。」
窓から入り込んでくる日差しが我が物顔で病室に侵入してきて沙羅を照らす、そんな
昼。沙羅が唐突に言った。
イヤホンを沙羅の耳に持っていくと、沙羅は目を細めて音楽を感じている。
「この曲がいい」って言われた通りに、俺がスマホを操作する。
最初はポップな曲にはまってた沙羅だけど、最近はどんどん間口が広くなってきている。
洋楽からJ₋popまで、バラードからロックまで、幅広い音楽で頭を満たす。
ふと、沙羅の頭の中を覗いてみたくなる。
言葉はわかるのに、文字があんまり読めない。
それっていったいどんな感覚なんだろう。
俺も子どもの時はそうだったのかな。
自分が子どものころ何を考えていたかなんて覚えてない。
それに、あの頃考えていたことは今の沙羅が考えていることよりも簡単なことだったと思う。
音楽を聞いて、沙羅の頭の中に浮かぶのはどういうものなんだろう。
「次はこの曲がいい。」
沙羅の目線である程度のことは理解できるようになったけど、沙羅についてのことは何もわからない。
理屈がわからないまま割り算の筆算をさせられている時みたいだ、と思う。
自分の見えている世界が本当なのかわからなくて、なんだか世界に置いてかれてる感覚。
でもきっと、沙羅もそうなんだろう。
この病室にいるとき、俺たちは平等に孤独だ。
二人とも孤独だから、孤独じゃない。
そんな時間がゆっくり流れるのを、ずっと眺めていたいと思った。
偽善でもいいって言われて、自分の醜さをちょっとだけ受け入れて。
いや、受け入れたのかは自分でもわからない。開き直ってるだけなのかもしれない。
それでも、沙羅の病室は家にいるより居心地がよかった。
昔二人だけで遊んでた時の公園みたいに、この場所は秘密基地になっていた。
この場所が永遠に続くわけはない。それはわかっている。
沙羅が早く元気になって退院すれば、この病室は誰か別の人の空間になって、沙羅の色がなくなる。
それを願うべきだと、わかっている。
だけど、この居場所がなくなったら俺はどこにいけばいいのか。
就職するのか大学に行くのかもわからない。
この時期にこんなぼーっとしてたら、大学は受からないかもしれない。
そうしたら就職するのかな。
活字も読めないのに?日本で働けるのかな。
不安でいっぱいの俺は、この場所があの公園みたいに壊されるのは嫌だと思ってしまった。
ずっと続いてほしいと、心の中で静かに願った。
「ねぇ、建都。私、音楽が聴きたい。」
窓から入り込んでくる日差しが我が物顔で病室に侵入してきて沙羅を照らす、そんな
昼。沙羅が唐突に言った。
イヤホンを沙羅の耳に持っていくと、沙羅は目を細めて音楽を感じている。
「この曲がいい」って言われた通りに、俺がスマホを操作する。
最初はポップな曲にはまってた沙羅だけど、最近はどんどん間口が広くなってきている。
洋楽からJ₋popまで、バラードからロックまで、幅広い音楽で頭を満たす。
ふと、沙羅の頭の中を覗いてみたくなる。
言葉はわかるのに、文字があんまり読めない。
それっていったいどんな感覚なんだろう。
俺も子どもの時はそうだったのかな。
自分が子どものころ何を考えていたかなんて覚えてない。
それに、あの頃考えていたことは今の沙羅が考えていることよりも簡単なことだったと思う。
音楽を聞いて、沙羅の頭の中に浮かぶのはどういうものなんだろう。
「次はこの曲がいい。」
沙羅の目線である程度のことは理解できるようになったけど、沙羅についてのことは何もわからない。
理屈がわからないまま割り算の筆算をさせられている時みたいだ、と思う。
自分の見えている世界が本当なのかわからなくて、なんだか世界に置いてかれてる感覚。
でもきっと、沙羅もそうなんだろう。
この病室にいるとき、俺たちは平等に孤独だ。
二人とも孤独だから、孤独じゃない。
そんな時間がゆっくり流れるのを、ずっと眺めていたいと思った。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【完結】碧よりも蒼く
多田莉都
青春
中学二年のときに、陸上競技の男子100m走で全国制覇を成し遂げたことのある深田碧斗は、高校になってからは何の実績もなかった。実績どころか、陸上部にすら所属していなかった。碧斗が走ることを辞めてしまったのにはある理由があった。
それは中学三年の大会で出会ったある才能の前に、碧斗は走ることを諦めてしまったからだった。中学を卒業し、祖父母の住む他県の高校を受験し、故郷の富山を離れた碧斗は無気力な日々を過ごす。
ある日、地元で深田碧斗が陸上の大会に出ていたということを知り、「何のことだ」と陸上雑誌を調べたところ、ある高校の深田碧斗が富山の大会に出場していた記録をみつけだした。
これは一体、どういうことなんだ? 碧斗は一路、富山へと帰り、事実を確かめることにした。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
不審者が俺の姉を自称してきたと思ったら絶賛売れ出し中のアイドルらしい
春野 安芸
青春
【雨の日に出会った金髪アイドルとの、ノンストレスラブコメディ――――】
主人公――――慎也は無事高校にも入学することができ可もなく不可もなくな日常を送っていた。
取り立てて悪いこともなく良いこともないそんな当たり障りのない人生を―――――
しかしとある台風の日、豪雨から逃れるために雨宿りした地で歯車は動き出す。
そこに居たのは存在を悟られないようにコートやサングラスで身を隠した不審者……もとい小さな少女だった。
不審者は浮浪者に進化する所を慎也の手によって、出会って早々自宅デートすることに!?
そんな不審者ムーブしていた彼女もそれは仮の姿……彼女の本当の姿は現在大ブレイク中の3人組アイドル、『ストロベリーリキッド』のメンバーだった!!
そんな彼女から何故か弟認定されたり、他のメンバーに言い寄られたり――――慎也とアイドルを中心とした甘々・イチャイチャ・ノンストレス・ラブコメディ!!
恋の消失パラドックス
葉方萌生
青春
平坦な日常に、インキャな私。
GWが明け、学校に着くとなにやらおかしな雰囲気が漂っている。
私は今日から、”ハブられ女子”なのか——。
なんともない日々が一変、「消えたい」「消したい」と願うことが増えた。
そんなある日スマホの画面にインストールされた、不思議なアプリ。
どうやらこのアプリを使えば、「消したいと願ったものを消すことができる」らしいが……。
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる