真っ白な君は

紐下 育

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まだ父さんは帰ってきてない。
自分用の鍵持ち歩いていてよかった。
冷房をつけると、部屋中がたちまち涼しくなる。
汗が冷やされて寒くなって、自分が汗だくだったことを思い出した。
朝も入ったけど、もう一回シャワー浴びさせてもらおう。

髪の毛をドライヤーで乾かしている時、俺の腹が鳴った。
沙羅がご飯食べてたから、俺もお腹すいちゃったんだよなぁ。
髪の毛は自然に乾くだろう。とりあえずご飯。

600Wで3分半、レンジがピピっと鳴って、チャーハンができた。
食べながら、母さんの言葉を思い出した。
「―また夜、夕食の時にでも話しましょう。」
…何かあったのか。
沙羅の治療…もしかして転院とか?
毎日会いに行けなくなるのかな。

小さいころから一緒だったから、それなりに恋情を持っていた時もある。
全くもって、今はそんなことないけどね。
だけど俺にとって大切で、心に近い存在であることはずっと変わらなくて。
今まで、学校は違えどずっと近くにいたのに。
もし転院とかだったら、と想像してみる。
イメージがつかなすぎて、寂しいとかもない。
でも、なにか嫌だな、って気持ちはある。
うーん…。

「ごちそうさまでした。」
ネガティブな方向に突っ走る頭を振り切るように、つぶやく。
「よーし、課題やるか!」
沙羅のことも、将来のことも。
全部、わからないことばっかりだ。
わからないことを考えるくらいなら、目の前にある課題をやっていた方がよっぽどましだと思った。
小学校に上がってからもう10年、勉強してきたのに。
まだ何にもわからないし、何にもできない。
俺にできることはこの目の前にある数式を解くことくらいなのかもしれない。

ここのところ、ずっと気持ちが沈んでいる。
いつもはこんなことしないけど、音楽をかけながら勉強することにした。
ヘッドホンから聞こえてくるのは、最近流行ってるっていう韓国アイドルの曲。
そういえばこの曲、沙羅から教えてもらったんだっけ。

沙羅は音楽が好きだった。
よく友達とカラオケに行くって言っていたし、俺と話している時も、よく流行りの曲を口ずさんでいた。
俺は流行りには疎いから、沙羅から教えてもらった曲がいっぱいある。

「このくらい知っておかないと、おじさんって言われちゃうよ?」
沙羅はいつも、そうやって茶化しながらおすすめの曲のURLを送ってきた。

音楽が聴けるような何かを、持って行ってあげられないかな。
病室の静けさじゃ、きっと寂しいに違いないから。
手術したばっかりでまだ頭が痛そうだったから、ヘッドホンよりイヤホンの方がいいだろうな。
明日、コンビニでイヤホン買っていってあげよう。

数学をやってるのに、やっぱり頭の中は沙羅のことだった。
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