青春なんて要らないのに

紐下 育

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November

92

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アラームが鳴る。
起きたって。起きてるって。
起きたけど、なかなか動けないだけなんだって。
肌寒さを感じる十一月。
布団から出るのにも、決心がいる。
今日はちゃんと一限から、みっちり授業の予定があるのに。
若狭先生の、選択必修の授業も二限にある。
電車…やだなぁ…。
後期が始まって一か月。
まだ、電車通学には慣れない。
なんなら、嫌悪感は日ごとに増している気もする。
広瀬がいるからなんとか続いてるけど。
先生ももう、先に大学に行ってしまってる。
がらっとした部屋に俺が一人。
全然やる気もわかないんだよなぁ。
とはいえ、この「電車嫌だ」を広瀬たちと共有できるのはちょっとだけ嬉しい、かも。

「やべっ、もうこんな時間!」

ぼーっと着替えていると、もう出発予定時間の五分前だった。
朝ごはんを食べる時間なんて当然なくて、ただ水を飲んで腹を誤魔化す。
先生と一緒の時はちゃんと食べられたんだけどな。
一人だと自堕落になる、っていうのを痛感させられる日々だ。

「おはよう!」
「おおっ、おはよ~」

慌てて外に出ると、しゃれた制服の高校生が隣家を出るところだった。
少し遠くの私立高校に通っているらしい彼とは、よく通学時間がバッティングする。
よく会っていたら、彼とはため口で話せるくらい、いつの間にか仲良くなっていた。

「今日は遅刻?」

慌てている俺の雰囲気を察したのか、彼がにやけた顔で聞いてくる。

「いや、この電車乗れば間に合う」
「えらっ、頑張れ~」
「ありがと。そっちも頑張れ~」

おしゃれな庭の低木越しに、とりとめのない会話を交わす。
じゃあ、って言って走り去っていった高校生を眺めながら、俺も駅に向かった。

「おかしいな…。来ない。」

いつも待ち合わせしている改札前。
あと三分で電車が来てしまうというのに、広瀬がまだ来ない。

「今どこ?」

LINEをしても、既読がつかない。
チャラそうに見えて意外と真面目な広瀬は、基本的には待ち合わせ時間の五分前には来ている。
遅刻する時はめったにないけど、そういう時だって絶対に連絡をくれる。

「ごめん、さすがに俺も遅刻しそうだから、先電車乗って行ってるわ。」

電車が来る一分前。
俺はそう広瀬にLINEを送って、慌てて電車に飛び乗った。

ドアが閉まる寸前だったから、いつもの号車じゃないところに乗ってしまった。
ぎゅうぎゅうの満員電車の中で、その号車まで移る余裕もないし。
会社員の人たちのスーツに視界が覆われて、目の前は真っ黒。
仕方ない。今日はこの位置で、我慢するしかない。
そんなことよりも、広瀬が心配だ。
事故…とかに遭ってたりしないよね。
頼むから普通の寝坊であってくれ。

そう願っている俺のジーパンに、一瞬、何かが触れた。
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