青春なんて要らないのに

紐下 育

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October

89

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ご飯食べ終わった後、すぐ眠くなるのは俺の性なのだろうか。
朝早起きしちゃったのもあるのかもしれないけれど、眠気を自覚する前に横になってしまった。

男性だけで暮らすにはあまりにおしゃれすぎるリビング。
クリーム色のソファーはふかふかで、先生の匂いがする。
このふわふわの上で真剣に仕事している先生はすごいと思う。
俺はすぐ眠っちゃうから。パブロフの犬みたいに、もう体に染みついちゃってるのかもしれない。

「…はっ」
直感で、何かやばい、っていう気がした。
外が暗い。
そして、窓にぼつぼつと何かが当たる音がする。

「うわぁぁぁぁあ!」
やばいやばい。本当にやばい。
やらかした。
雨だ。
どうしよう。
先生にどうやって謝ろう。
いろんな思いが頭を取り巻くなか、俺は三階へと駆け上る。
今日雨が降るなんて、天気予報では言ってなかったのに。
昼コンビニに出掛けた時はちゃんと晴れてたのに。
夕立?この季節に?
最悪だ。なんて運が悪いんだ。

水に濡れて、ただでさえ重い布団がさらに重くなってる。
だけど一刻も早く雨から守らないと。
そういう思いで、寝ぼけた体を精いっぱい使って取り込んだ。

今日の布団、もうないかもしれない。
さすがに先生を怒らせちゃうかもしれない。
全部布団を取りこんだ後で、自分の顔についているのが雨ではなく、涙だったことに気づいた。

「すみません。布団干していたら眠ってしまって、その間に雨が降って、濡らしてしまいました…。本当にすみません。」

今朝の状態で、先生は布団を全部干すなんて思ってもいなかっただろう。
そう、元凶は俺の夢精だ。
恥ずかしさと申し訳なさと、居心地の悪さと、色んな思いがぐちゃぐちゃに絡まって、頭が熱くなる感覚がする。
仕事だからか、先生の既読が珍しく遅い。
フィールドワークだって言ってたし、きっと誰かから話を聞いたり記録を取ったりするのに忙しいんだと思う。
でも、今回ばかりは困った。
この濡れた布団をどうしたらいいのか、全く見当がつかない。
乾燥機の中に入れられるサイズではないし、そもそも布団に乾燥機を使うのはあまりよくないような気がする。
とりあえずお風呂場で乾かせばいいのかな。でも布団全部をお風呂場に持って行ってもスペースの関係で干しきらないだろうし…。
俺たちの分の布団をいったんお風呂場に持っていくか。
妹さんの方の布団は…ドライヤーで乾かす?
気が遠くなる作業だけど、あのタイミングで寝落ちした罪は重い。
甘んじて受け入れなくては。

布団の吸水力は恐ろしくて、水が滴り落ちたりすることはない。
けどこの布団の中にどれだけの雨水が入ってしまったのか、考えるだけでも申し訳なくなる。
先生の家の布団だもん。あんなに寝心地がいい布団だもん。
安いはずがない。

お風呂に持っていって乾燥機をつけて、三階にドライヤーを持って駆け上がる。
雨のせいで湿度が高くて、動けば動くほど嫌な湿気がまとわりついてくる。
先生だけじゃなく、妹さんにも申し訳ない。
懺悔の気持ちを込めて、ぶぉぉぉぉ、とドライヤーをかけていく。
そのおかげで、俺は先生からLINEが来ていることにも気づかなかった。
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