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October
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授業のち、課題。
「だりー。」
図書館の談笑スペースで椅子にのけぞってあくびを連発している広瀬に、適当に相槌を打つ。
「腹減ったー。」
ふとここで、俺は気づいた。
「あっ!」
俺の声に、広瀬がびっくりして固まる。
「え…?」
「忘れ…た。」
「永瀬…?」
「昼ご飯。持ってくるの…忘れた。」
無念だ。
ちゃんと、一昨日作っておいたのに。
先生は、今日はちゃんとお弁当を持って行ったはずだ。
「うううううう…。」
作る時間がなくて持ってこられないことはあったけど、作ったのに忘れたのは初めてだ。
いつもは先生に、「忘れないように!」って俺が言う立場だった。
そんな俺が忘れるなんて…。
「学食食べればいいじゃん。」
「そう…だけど。」
そうだけど。
そうじゃないのだ。
先生と同じものを、食べたかった。
帰ってきて「今日もおいしかったよ」って言ってくれる先生と、その味を共有したかった。
俺だって、びっくりしてる。
こんなにショックだなんて思ってなかったんだから。
「そんなにショック…?」
弁当忘れたくらいで感情を揺さぶられているのが不思議だったらしく、広瀬が本気で心配してくる。
「そんなに大事な弁当だった?」
「いや…仕方ない。」
仕方ない。そう、仕方ない。
電車通学一日目だ。仕方ない。
自分に何度も言い聞かせる。
「今日は早めに昼ご飯にしない?お腹が空いて力が出ないよー。」
下手に某人気キャラクターの真似をする広瀬。
変顔も入れてきたせいで、思わず笑っちゃった。
「ははっ、そうだな。たまには。」
いつもは俺に合わせて、昼過ぎにご飯にすることが多かった。
たまには、昼前に学食に行くのも悪くないだろう。
混んできた図書館を出ると、秋の柔らかい日差しに包まれた。
先生みたいだ、と思う。
「何頼む?」
「今日は絶対、ハンバーグ。」
作った弁当にも、ハンバーグが入ってた。
タッパーに入れて持って行って、学食の電子レンジであっためて、食べようと思ってた。
「おお、がっつりいくね。」
確かに、学食でハンバーグを食べるのは初めてかもしれない。
じゃあ俺も、と広瀬もハンバーグを頼んでいた。
「「いただきます。」」
同じ時間で同じものを頼むと、同じ時間で提供される。
一緒のタイミングでいただきますをして、一緒に食べ始めた。
先生が学食に来るにはまだ早い時間。もしかしたらまだ授業中かもしれない。
それなのに、癖で回りを見渡してしまう。
「電車通学、どう?」
口いっぱいに肉をほおばりながらも、広瀬は会話を続けようとする。
「うん…頑張る。」
一日で音を上げるなんて、いくらなんでも情けないし。
そんな俺にちょっと笑った後、今日の帰りはこの電車がいいと思う、って言いながら時刻表を見せてくれた。この電車は混んでるとか、この電車は小学生が多くてうるさいとか、いろいろ内情を教えてくれる広瀬はめちゃくちゃ頼りがいがあって、余計に言い出せなかった。
「だりー。」
図書館の談笑スペースで椅子にのけぞってあくびを連発している広瀬に、適当に相槌を打つ。
「腹減ったー。」
ふとここで、俺は気づいた。
「あっ!」
俺の声に、広瀬がびっくりして固まる。
「え…?」
「忘れ…た。」
「永瀬…?」
「昼ご飯。持ってくるの…忘れた。」
無念だ。
ちゃんと、一昨日作っておいたのに。
先生は、今日はちゃんとお弁当を持って行ったはずだ。
「うううううう…。」
作る時間がなくて持ってこられないことはあったけど、作ったのに忘れたのは初めてだ。
いつもは先生に、「忘れないように!」って俺が言う立場だった。
そんな俺が忘れるなんて…。
「学食食べればいいじゃん。」
「そう…だけど。」
そうだけど。
そうじゃないのだ。
先生と同じものを、食べたかった。
帰ってきて「今日もおいしかったよ」って言ってくれる先生と、その味を共有したかった。
俺だって、びっくりしてる。
こんなにショックだなんて思ってなかったんだから。
「そんなにショック…?」
弁当忘れたくらいで感情を揺さぶられているのが不思議だったらしく、広瀬が本気で心配してくる。
「そんなに大事な弁当だった?」
「いや…仕方ない。」
仕方ない。そう、仕方ない。
電車通学一日目だ。仕方ない。
自分に何度も言い聞かせる。
「今日は早めに昼ご飯にしない?お腹が空いて力が出ないよー。」
下手に某人気キャラクターの真似をする広瀬。
変顔も入れてきたせいで、思わず笑っちゃった。
「ははっ、そうだな。たまには。」
いつもは俺に合わせて、昼過ぎにご飯にすることが多かった。
たまには、昼前に学食に行くのも悪くないだろう。
混んできた図書館を出ると、秋の柔らかい日差しに包まれた。
先生みたいだ、と思う。
「何頼む?」
「今日は絶対、ハンバーグ。」
作った弁当にも、ハンバーグが入ってた。
タッパーに入れて持って行って、学食の電子レンジであっためて、食べようと思ってた。
「おお、がっつりいくね。」
確かに、学食でハンバーグを食べるのは初めてかもしれない。
じゃあ俺も、と広瀬もハンバーグを頼んでいた。
「「いただきます。」」
同じ時間で同じものを頼むと、同じ時間で提供される。
一緒のタイミングでいただきますをして、一緒に食べ始めた。
先生が学食に来るにはまだ早い時間。もしかしたらまだ授業中かもしれない。
それなのに、癖で回りを見渡してしまう。
「電車通学、どう?」
口いっぱいに肉をほおばりながらも、広瀬は会話を続けようとする。
「うん…頑張る。」
一日で音を上げるなんて、いくらなんでも情けないし。
そんな俺にちょっと笑った後、今日の帰りはこの電車がいいと思う、って言いながら時刻表を見せてくれた。この電車は混んでるとか、この電車は小学生が多くてうるさいとか、いろいろ内情を教えてくれる広瀬はめちゃくちゃ頼りがいがあって、余計に言い出せなかった。
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