青春なんて要らないのに

紐下 育

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September

72

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「どっちが好き?僕と、広瀬君と。」

これは…どう言うべきだろうか。
広瀬の方が好き、なわけではない。実際、広瀬と話してても先生のことを思い浮かべちゃう時が多いし。
でも、先生の方が好きですって言うのも、なんか猪口才な気がするし。
好きのベクトルが違いますって言うのはまたちょっと違うというか。俺みたいな平凡な男がやるにはチャラすぎる気がしてしまう。

「…冗談だよ。困らせてしまってごめんね。」

逡巡している途中で先生の声が聞こえてきて、はっと我に返る。

「そう…ですよね。すみません。」

馬鹿みたいだ。こんなに真剣に考えちゃってさ。
多分先生は、今日俺が突き飛ばしちゃったことをからかってるんだ。
怒ってはないんだろうけど、先生には、こういうところをつんつん突っついてくるSっ気がある。

「ちなみに僕は、ゆうのことが好きだよ。その、一人の学生として、パートナーとして、家族として、それをすべて超越したゆうっていう存在として、全部が、大好きだよ。」

ずるい。
そんなこと言われたら、先生以外を選べなくなる。
本気なのかわからないそんな言葉に、俺は言葉を失った。

俺はちょっと、わかりはじめていた。いや、わかりたくは、なかったんだけど。
どうしても、そうとしか思えなくなってきたというか。もう、無視できないところまで来ている気がした。

先生のことが、恋愛的な意味で、好きなんだ。きっと。
付き合えるわけ、ないけど。
いっそのこと、先生が俺のことを恋愛的な意味で好きだって、言ってくれたらいい。
それが興味本位だったとしても、あまつさえ間違いだったとしても。それでもいいから。
そうして先生が俺に告白でもしてくれたら、俺は先生と学生っていう今の立場を理由に断って、それで、すっきりできる。

大好きだよとは言われているけど、恋愛的な告白では…なさそう。
というかそもそも、先生はしょっちゅう好き好き言うからどこまで真に受けていいかわかんないし。

「先生は、俺のこと、どう思ってるんですか。」

言って、しまった。
およそ俺にとって納得できる回答が得られるとは思えない。
だけど、ここまで考えたら聞かずにはいられなかった。

「え?それはもちろん大好きだし、愛してるし、僕にとっての天使だと思ってるよ?」

照れ一つなさそうな、潔いまでに純度の高い愛の言葉に一瞬困惑する。
愛してるなんて、親にも言われることないし。俺、男だし。どちらかというと恋愛関係においても言う方というか。そういう立場の方がしっくりくるんだけど。
…じゃなくて。

「そういうんじゃなくて、どういう『好き』なんですか!先生みたいなイケメンに愛してるとか言われたら、誰だって惚れちゃうじゃないですか。もっと自分のたらしを自覚してください。」

「どういう好きって言われても…困るけど。きっと、ゆうが思ってるよりもあつくて、暗い『好き』だと思う。」
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