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September
先生の独り言(通話編)
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「お兄さん、急でごめんなさい。今日、帰省してもいいですか?」
妹から連絡が来たのは、窓からの日差しがまぶしい昼頃だった。
僕が講師を務める講演会の打ち合わせをしていて、ちょうど昼休憩になった時。
コンビニで適当に買った総菜を口に運びながら返信する。
「別に大丈夫だけど…両親はいないよ?」
「大丈夫です。今、わけあって日本に帰ってきているのですが、泊まる場所を探すのは面倒で。」
妹は大学在学中に起業し、今は日本を離れて外国でビジネスを経営している。
この時期に日本に帰ってくるの、珍しいな…なんて思いながら、二つ返事で承諾した。僕にとってここが実家なように彼女にとってもここは実家だし、断る理由なんてない。
「りょーかい。いいよ~」
敬語でLINEが来ると、どうしてもゆうを思い出す。
昨日も一昨日も、連絡とらなかったな。今日あたり電話してみようかな。
妹から「18時頃行きます。」っていう連絡が入る。
そうか、僕より先に妹が帰るのか。
誰かがいる家に帰るのなんて久しぶりだ、と思うとちょっとだけ嬉しくなる。
ゆうのおかげで僕は、寂しがり屋になってしまったみたいだ。
「それでは講演は以上になります。この後は20時まで、会食のお時間です。」
司会がそうアナウンスして、肩の力がどっと抜ける。
この後の会食も少しは憂鬱だけれど、講演で多くの大人から品定めされるような視線を一手にあびるよりはましだ。
「疲れた…。」
一度控え室に戻って休憩する。
妹は無事に家に到着したらしい。
控え室の外に一歩でも出ると、騒がしい音が聞こえてくる。
みんなスーツを着ていたり、ドレスを着ていたり。
大人たちがやるパーティーみたいな雰囲気はどうも性に合わない。
とりあえず夕食分くらいの食料を口に取り込んで、早めに帰ることにした。
家に帰ると、妹がリビングでパソコンをいじっていた。
相変わらず集中した顔の気迫が…すごい。
妹は昔から真面目で、勉強、仕事に対しての熱量がいつも高かった。
今もきっとそうなんだろう。
「おかえりなさい。」
「ただいま。」
「ご飯は食べてきたんですか?」
「うん。講演会と会食があったから、そこで食べてきちゃった。」
「実は私、まだ食べてなくて…。台所、借りてもいいですか?」
「あ、うん。もちろん。」
キッチンに行った妹をぼーっと見ていて、僕は気づいた。
もともと妹の部屋だった客間は、今はゆうの部屋になっている。
さすがに、ゆうに何の許可もなく、というか許可を取ったとしても、知らない人に足を踏み入れさせるわけにはいかない。
妹も、急に男子大学生の部屋に入れられるのは嫌だろうし…。
「前君が使ってた部屋、今実はちょっと入れなくなってるんだ…。ちょっと別の客間で眠れるように片付けてくる。」
僕が研究室みたいにして使っている部屋。
論文をいったん全部俺の部屋にうつして、掃除機をかける。
布団を敷いて、一応妹が使えるくらいにはなったはずだ。
逆に僕の部屋の足の踏み場がなくなったけど…。別に今日くらい、ソファーで眠っても大丈夫なはず。
「あの奥の部屋、使えるようにしておいたから眠るときとかはそこ使って。」
「わかりました。ありがとうございます。」
疲れた…癒しが欲しくてゆうにLINEをしたのが間違いだった。
広瀬君とカフェ巡り!?そんなこと、僕ともやったことないのに。
いてもいられなくなって、通話を取り付けてしまった。
やっぱり、ゆうと話している時間は至福だった。
ゆうの方は眠そうだったけれど、不機嫌になるでもなくただとろとろとした声で終始穏やかに相槌を打って、僕の話を聞いてくれた。
この時間だけは間違いなく、ゆうが僕だけのものになる。
ゆうが、僕のためにわざわざ時間を取ってくれている。
その事実にたまらなく安心して、僕はそのままソファーの上で眠りに落ちた。
妹から連絡が来たのは、窓からの日差しがまぶしい昼頃だった。
僕が講師を務める講演会の打ち合わせをしていて、ちょうど昼休憩になった時。
コンビニで適当に買った総菜を口に運びながら返信する。
「別に大丈夫だけど…両親はいないよ?」
「大丈夫です。今、わけあって日本に帰ってきているのですが、泊まる場所を探すのは面倒で。」
妹は大学在学中に起業し、今は日本を離れて外国でビジネスを経営している。
この時期に日本に帰ってくるの、珍しいな…なんて思いながら、二つ返事で承諾した。僕にとってここが実家なように彼女にとってもここは実家だし、断る理由なんてない。
「りょーかい。いいよ~」
敬語でLINEが来ると、どうしてもゆうを思い出す。
昨日も一昨日も、連絡とらなかったな。今日あたり電話してみようかな。
妹から「18時頃行きます。」っていう連絡が入る。
そうか、僕より先に妹が帰るのか。
誰かがいる家に帰るのなんて久しぶりだ、と思うとちょっとだけ嬉しくなる。
ゆうのおかげで僕は、寂しがり屋になってしまったみたいだ。
「それでは講演は以上になります。この後は20時まで、会食のお時間です。」
司会がそうアナウンスして、肩の力がどっと抜ける。
この後の会食も少しは憂鬱だけれど、講演で多くの大人から品定めされるような視線を一手にあびるよりはましだ。
「疲れた…。」
一度控え室に戻って休憩する。
妹は無事に家に到着したらしい。
控え室の外に一歩でも出ると、騒がしい音が聞こえてくる。
みんなスーツを着ていたり、ドレスを着ていたり。
大人たちがやるパーティーみたいな雰囲気はどうも性に合わない。
とりあえず夕食分くらいの食料を口に取り込んで、早めに帰ることにした。
家に帰ると、妹がリビングでパソコンをいじっていた。
相変わらず集中した顔の気迫が…すごい。
妹は昔から真面目で、勉強、仕事に対しての熱量がいつも高かった。
今もきっとそうなんだろう。
「おかえりなさい。」
「ただいま。」
「ご飯は食べてきたんですか?」
「うん。講演会と会食があったから、そこで食べてきちゃった。」
「実は私、まだ食べてなくて…。台所、借りてもいいですか?」
「あ、うん。もちろん。」
キッチンに行った妹をぼーっと見ていて、僕は気づいた。
もともと妹の部屋だった客間は、今はゆうの部屋になっている。
さすがに、ゆうに何の許可もなく、というか許可を取ったとしても、知らない人に足を踏み入れさせるわけにはいかない。
妹も、急に男子大学生の部屋に入れられるのは嫌だろうし…。
「前君が使ってた部屋、今実はちょっと入れなくなってるんだ…。ちょっと別の客間で眠れるように片付けてくる。」
僕が研究室みたいにして使っている部屋。
論文をいったん全部俺の部屋にうつして、掃除機をかける。
布団を敷いて、一応妹が使えるくらいにはなったはずだ。
逆に僕の部屋の足の踏み場がなくなったけど…。別に今日くらい、ソファーで眠っても大丈夫なはず。
「あの奥の部屋、使えるようにしておいたから眠るときとかはそこ使って。」
「わかりました。ありがとうございます。」
疲れた…癒しが欲しくてゆうにLINEをしたのが間違いだった。
広瀬君とカフェ巡り!?そんなこと、僕ともやったことないのに。
いてもいられなくなって、通話を取り付けてしまった。
やっぱり、ゆうと話している時間は至福だった。
ゆうの方は眠そうだったけれど、不機嫌になるでもなくただとろとろとした声で終始穏やかに相槌を打って、僕の話を聞いてくれた。
この時間だけは間違いなく、ゆうが僕だけのものになる。
ゆうが、僕のためにわざわざ時間を取ってくれている。
その事実にたまらなく安心して、僕はそのままソファーの上で眠りに落ちた。
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