青春なんて要らないのに

July

42

「ありがとう、美味しかった！」

空っぽになった茶碗をシンクに下げながら、先生が微笑む。

「よかったです。顔色も良くなってて安心しました。」
「ゆうのおかげだよ、昨日は本当にごめんね。」
「…あの。昨日のことって、覚えてたりします？」

気まずくなるかもしれない。
でも好奇心が勝った。

「……覚えてない。」
「絶対今の間、覚えてるでしょ。」
「ちょっとタメ交じりになるゆう可愛い。」
「あ、誤魔化した！」

先生が困ってるところを見るのはあんまりなくて、新鮮で可愛い。
そして俺は、先生は都合悪いことがあるとそっぽを向くってことを知った。

「嬉しかったですよ、俺は。」

先生がこっちを見てないタイミングで、独りごちる。
聞こえないように言ったつもりが、どうやら失敗したらしい。
先生がバッと振り返った。

「そんなこと言われたら、期待しちゃうよ？」
「…え？」

先生の真意がわからなくて戸惑う。

「よし、ちょっとお仕事してくる！やっぱり、メディアの取材は受けることにしたんだ。」
「ええ！そうなんですね！」
「僕にしかできない仕事だから。頑張るよ。」
「へぇ、かっこいいです！」

特に他意はなく、口をついて出た。

「へへ、ありがとう。」

そう言うと、先生は俺を抱きしめた。
ちょっと体温の高い大きな体に包まれて、うっとりしそうになる。

話題を急に変えてはぐらかされてることに気づいたけど、もう遅い。
追求するのはあきらめることにした。

先生がいて、俺のことを見てくれてるだけで十分幸せじゃないか。
絆されてる自覚はある。
でも先生がかっこいいんだから仕方ないよね。

「夕ご飯までには、お仕事ひと段落しそうですか？大変そうならお部屋のところまでご飯持っていきます。」
「ありがとうね。でも大丈夫。ご飯までには終わらせる！」
「了解です。頑張ってください。」

先生がまたお部屋に戻って、俺は一人になる。
今は15時。夕飯作り始めるには早すぎる。

「ドラマでも見るか。」

コマーシャルとかでやってたから、七月から新ドラマが始まるのはなんとなく知ってた。
スマホで見逃し配信されてるドラマをいくつか眺めていると、面白そうなやつがいっぱい見つかる。
最近は考察ブームらしく、ミステリー要素があるドラマが多い。嬉しい。

俺は刑事ものとかが結構好き。
警察とか、科捜研が出てくるようなやつ。

へぇ、こういうのやってるんだ。
最近の俳優さんや女優さんは詳しくないけど、この人かっこいいな。
テーマもそうだし、演じてる俳優さんたちも気になる。
面白そうなやつを流し見しながら、課題を進めることにした。

そういえば、先生はドラマとか見るのかな。
あんまりそういうイメージ無いけど、夕ご飯の時にでも聞いてみよう。

犯人と対峙するかっこいいアクションシーンを見ながら課題を進めていて、俺はぼんやりそんなことを考えていた。