青春なんて要らないのに

紐下 育

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April

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「俺も、先生と一緒にいたいです」
「つまり、僕の専属になってくれるってこと…?」
俺が先生の提案を承諾したのは、先生の胸キュンLINEから3日が経った頃だった。

どうやって切り出せばいいのかわからなくて直前までいろいろ考えていたくせに、いざ先生を前にして出てきたのは修飾語がほとんどない簡素な言葉。それでも、先生はとても喜んでくれた。
「ありがとう!!」そして、俺の肩を引き寄せて抱きしめる。
…この先生、絶対に抱擁癖ある。生殺しにされてる女子とかいるんじゃないかな。

俺の頭の上に先生の手のひらが乗る。先生の大きい手は、それなりの重量がある。

「本当に君はかわいいね」
どういう意味か分からなくて、聞こえていないふりをした。

「そうだ、明日休日だけど、何か予定ある?予定がないなら僕の家に遊びに来ない?」
「予定ないです」
遊びに行きたいです!って言うのはちょっと失礼かな、と思って、あえて控えめに答えた。

「君どのあたりに住んでる?明日迎えに行くよ」
俺は18歳だ。もう大人なのにそこまでしてもらうのは申し訳なさすぎる。それに、平日ならまだしも休日に一緒にいるなんて、万が一大学の人に見られたら何か言われるかもしれない。
申し訳ないから大丈夫です、一人で行きます、と何度も言ったけれど、先生は引かなかった。
「うーん、、もし君がいいなら、今日の夜から泊まっていく?着替えとかは僕の家にあるもの使ってもらって構わないよ」

なんという発想の転換。でも確かに、今日の夜なら一緒に帰っても「暗かったから」って言い訳できる気がする。
「じゃあ、そうさせてもらってもいいですか、、?」
「もちろんだよ!!」

先生の感情は本当にわかりやすい。目がきらきらするって大げさな表現だと思っていたけど、先生を見ているとあながち間違いではないと思う。

「そしたら、今日の20時に3号館集合でいい?夜だから建物の中で待ち合わせした方が安全だよね」

先生はすごく過保護だ。うれしいけど、こんなに過保護にされることがないから困惑してしまう。
「わかりました、ありがとうございます」
土日にやる予定だった課題はできる限り終わらせたい。先生との時間を無駄にしないようにしないと。
先生の研究室を出た俺は、図書館まで走って向かった。

「お疲れ様!」待ち合わせ時間の20時。先生は俺を見つけて手を振った。改めて先生が立っている姿を見ると、身長の高さを否応なくわからせられる。
さすがにこの時間まで大学に残っている人は少なかった。今いるのは掃除のおばちゃんと俺だけ。
研究室じゃないから少し遠慮したのか、先生は抱きしめたりしてくることはなかった。ちょっと寂しいなと思ったのは内緒。
でも、そう思ったのは一瞬だった。「行こうか」と笑った先生は俺の手を握って、素知らぬ顔で歩きだした。
成人男性と手を握ったことなんて記憶の限りではない。先生の大きな手のなかに包まれている自分の手も混乱したようで、意識していなくてももぞもぞと動いてしまう。
そんな俺の手を、先生は放してくれなかった。動く俺の手をさりげなく追いかけてくる。そして先生の細長い指先が、俺の手の甲をくすぐるようにしてたしなめた。だんだん居心地がよくなってきて、俺は何も言わずに先生について行った。

先生、車持ってたんですね!?
大学の駐車場で、思わず声を出してしまった。
「学会に行く時とか、大量の書類を持ち歩く時には車があると便利だからね。こうやって君と一緒に帰ることができて、改めて車を持っていてよかったと思うよ。」
「助手席がいい?後部座席がいい?」
先生は、何をするにも俺の意見を聞いてくれる。些細なことかもしれないけれど、先生のこういう繊細なやさしさが好きだ。
「もし同級生とかに見られたら問い詰められそうなんで、後部座席にします。」
てっきり電車で帰るものだと思っていたから一緒に帰っても怪しまれないと思っていたけど、車で帰るなら話は別だ。閉ざされた空間で二人きりになっているところを見られたら、言い逃れできない、、
「ゼミとかで教授が学生を乗せることもあるから、そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。でも、心配なら後部座席でいいよ。僕としても、ルームミラー越しに君を見ることができてうれしいからね。」
俺の心配の意図を汲み取ってくれて、少し安心。俺を見てうれしいと思う感性は理解できないけど、、

「疲れたでしょう?眠くなったら寝てもいいよ。ついたら起こしてあげる。」
いやいや先生に運転してもらっておいて寝るなんて、、と思っていたはずなのに、先生の穏やかな運転は心地よくて、俺はいつの間にか眠ってしまった。
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