青春なんて要らないのに

紐下 育

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April

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「ほんとに来てくれたんだね!!」
翌日俺が先生の研究室に向かうと、先生はものすごい速さで駆け寄ってきた。
スタイルがよくて高身長だから、一歩一歩がでかい…

「君優秀だから、他の先生にとられちゃうと思って、、僕のところに来てくれて、本当に嬉しいよ!」
…俺があんなにまじめに授業を受けるのはこの授業だけなんだけどな
思ったけど、口には出さなかった。

「でも、バイトじゃないにしても、何か目にみえる形で契約しておきたいんだ。僕は意外と執念深いんだよ?」
きれいな顔して怖いこと言うな、、
「ということで、パートナーになってほしいんだ。学生と教授っていう関係じゃなくて。僕の家に遊びに来てほしいし、通話したりもしたい。」
…え?

「…先生は、なんでこんな俺に目をかけてくださるんですか」思っていたことが、口から零れ落ちた。
「え、そんなの簡単だよ」
口角をちょっとだけあげて、先生はこう続ける。
「大学にいると、僕が研究をやっている意味がわからなくなる時があるんだ。メディアに出演したり、広告塔になったり、本を書いたり。僕からしたら、全部鬱陶しい。金の話しかしない大人にはうんざりだよ。」
「でも」一息ついて、先生はこう続ける。
「君といると、僕がここにいていいんだって気持ちになる。研究が好きでこの道を選んだことが間違っていなかったんだって気がしてくる。自分の好きなことを純真に追いかけている君を見ていると、僕も好きなことを大事にしようと思えるんだよ。」

先生が、いきなり俺を抱きしめた。「君は本当に、僕の癒しだよ」

チャイムが鳴って、先生ははっとしたように俺からはがれた。
「次の時間、授業だったりする?」

次の授業まではまだ時間がある。でも、これ以上先生と一緒にいたらどうにかなってしまう。こんなに心臓が動いてたら寿命も縮まっちゃう気がする。

「…図書館で課題やってきます」
できるだけ平静を意識して答えた。

「じゃあ、図書館まで送るよ。契約、急なことだからびっくりしたかもしれないけど、考えてみてくれると嬉しいな」

その日、俺が課題も授業もうわの空だったことは言うまでもない。
夜、俺はなかなか寝付けなかった。
正直、先生に提示されてもらった契約を断る理由なんてない。だけど、俺だけ特別扱いされてるなんて他の人にバレたらどうなるんだろう。先生の下で学べなくなったら嫌だな。

ピコ、とスマホが鳴いた。先生からのメッセージだ。
「永瀬君、起きてる…?」
寝たふりをしようかとも思ったけど、返事をしようがしまいがどうせ今日は眠れそうにない。
既読をつけるか三分くらい悩んでから、返信することにした。

「今日はいきなりいろんなことを言ってしまってごめんね」
「でも僕は、何が起きても君を守るよ」
「これは絶対に約束する」
「だから、僕のそばにいてほしい」

連投されたメッセージは全部、先生の声で脳内変換された。こんなこと言われたら惚れちゃうじゃないか。

「返信はすぐじゃなくていいよ」
「いつでも待ってる」

俺は先生の研究が好きだったはずなのに。先生のことも好きになってきているのかもしれない。
くすぐったいような、幸せなような、それでいて未来が怖いような。
でも、不快なわけではなかった。スマホの充電を忘れて、俺はいつの間にか眠っていた。

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