ドラゴン使いと元神官の奇妙な暮らし〜傷モノ神官はコワモテ軍人に溺愛される〜

江島梓

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第五十三話 無事だったんだ!

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ドラゴンの治療に興味があるものを募ってから一週間ほどした頃、フードを目深にかぶった男二人が訪ねて来た。


「すみません、ドラゴンの治療に興味があったため、お伺いいたしました」

二人を部屋に通せば小柄な方の男がそう口を開いた。

(それはそうだろうけど)


クルトが気になったのは小柄な方ではなく、明らかにがっしりとした体つきのもう片方の男だった。医術の心得があるようには見えず、クルトが内心首を傾げていると小柄な方の男がそれを察して説明した。


「彼は私の護衛です。危害を加えるようなことは決していたしませんのでご安心ください」


「へえ、護衛なんだ。疑ってしまって申し訳ない」

クルトが謝罪すれば二人とも気にするな、というように首を振った。二人の言動に特に不審な点はなく信頼できそうである。詳しい話を聞こうとクルトが外套を脱ぐよう勧めると、小柄な男の唇がなぜか弧を描いた。

(何だろう?)

疑問に思い彼を観察していると彼はするりフードを外してにっこりと笑った。


「お久しぶりです、クルト兄さん」


そういった懐かしい顔にクルトは言葉を失った。






「カイ、まさかあなただなんて.......!神殿から行方をくらました後、どうしていたのかとずっと心配していたんだよ」



カイは神殿見習いの頃から一番仲の良かった弟弟子だった。クルトが番に選ばれた後、突然いなくなってしまいずっと探していたが、誰も彼の行方を知らなかったのだ。


「ほら、フードを取って」

カイが隣の男を促すと彼は大人しくフードを脱いだ。

「えっ?ずっとカイの護衛を務めていたアルフォンスじゃん!」

焦茶色の瞳と髪を持つ彼は少し恥ずかしそうに微笑んだ。彼もカイが行方不明になった時期にいなくなっており、長い間気になっていたのだ。




「二人とも一体どういう風の吹き回しで神殿を出たの?」

クルトが想定外の再会に喜びながら尋ねると、カイは少し表情を改め真面目な口調で話し始めた。


「実はクルト兄さんが番に選ばれた後、選ばれなかった者たちはマクシミリアンによって、貴族や裕福な商人に売り飛ばされていたんです。それで私も売り飛ばされそうになったのだけど、神官長様が隙を見て逃がしてくれたおかげで、今ここにいられるんです」


人身売買にマクシミリアンが関わっているという噂はあったものの、それが事実であったということを知り、クルトは衝撃のあまりなにも言えなかった。

カイはとても綺麗な金髪と角度によっては黄金色に見える瞳を持った美しい顔立ちのため、売り飛ばされそうになったのだろう。


「それじゃあカイの身の安全を確保するために、神官長様がアルフォンスに護衛としてついて行くよう、頼んだんだね」

「それは違います」

そこで初めてアルフォンスが口を開いた。もともと無口な彼がはっきりと否定したことに驚き、クルトは眉を上げた。

アルフォンスはなぜか耳まで赤くなり、少しもじもじしながら言葉を続ける。

「私が自分でついて行きたいとお願いしました」


「まあ神官長公認の駆け落ちってことです」


にこやかに言い切るカイと余計顔を赤くするアルフォンス。仲良さそうな二人の様子を見てクルトはにこにこと笑った。


「そう言えば見習いだった頃から、カイはよくアルフォンスについて話してくれてたよね」

「ちょっと恥ずかしいから言わないでくださいよ!」


慌てたように手を振るカイにアルフォンスは嬉しそうに笑った。


「それにしてもクルト兄さんはなぜここに?」


「実は秋頃にクビになっちゃって、バルハルトに拾ってもらったんだ」


「そうだったんですね。それは大変だったでしょう」


二人は何も尋ねてこなかった。ただ一言で流してくれる二人の優しさが心に沁みる。


「それにしても人身売買にマクシミリアンが関わっていることを王族たちは知っているのでしょうか?神官長様も手が出せないような貴族が何人かオークションに参加していました」


眉根を寄せ微かに目を伏せたカイに、クルトは安心させるように優しく肩を叩いた。

「大丈夫。もう王太子殿下が動き出しているから。ただ証拠がまだ足りていないから、もしかしたらカイにも証人として王太子に会ってもらうことになるかもね」


「分かりました」


バルハルトが帰ってきたら、カイとアルフォンスを紹介しまた人身売買についても話さなければいけない。

(やることが本当にたくさんあるなぁ)


無理をしないように気をつけなくては、と腹を撫でつつ考えていると、カイがクルトの肩をつついてきた。

「あの……もしかして……」

遠慮がちにクルトの腹に視線を遣る彼にクルトは微笑みかけた。

「ふふっ、お腹に赤ちゃんがいるんだよ」


クルトの言葉にカイは嬉しそうに笑い、瞳を潤ませた。

「本当におめでとうございます。兄さんの長い間の夢が実現したなんて……」


自分のことのように喜んでくれる彼に、クルトは目頭が熱くなった。


「……ずっと私たちは居場所を探していましたからね」


そういうカイは悲しみを秘めた瞳をそっと伏せていた。神官見習いとして連れてこられた子どもは、ほとんどが家族から無理やり引き離された子どもだった。


どこかで自分たちが落ち着ける場所を皆探し続けていた。クルトやカイのように見つけられる者もいれば、一生見つけられない者もいる。


「私たちは運がとても良かったんだね」

クルトが呟くとカイは静かに頷いた。
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