ドラゴン使いと元神官の奇妙な暮らし〜傷モノ神官はコワモテ軍人に溺愛される〜

江島梓

文字の大きさ
43 / 59

第四十三話 それもう少し早く教えてほしかったよ

しおりを挟む
「.......え?」

驚いたクルトが慌てて手を引っ込めると、それはドラゴンの全身に広がっていった。そのドラゴンはクルトが見慣れた人へと変わっていく。


「バルハルト!!」

「.......クルト」

バルハルトは力なくつぶやくようにして、クルトの名前を呼んだ。全身血まみれで正直助かるかどうか怪しいほどだった。

「バルハルト、しっかりして!ドラゴンの姿と人間の姿、どっちの方が体が楽?」

とにかく治療の方針を立てるため、バルハルトの体力が少しでも持ちそうな方を選ばせる。


「.......ドラゴン」

「分かった。ハンス、まず消毒するよ!」


「分かった!!」


二人は阿吽の呼吸でドラゴンの姿に戻ったバルハルトを治療していく。脇腹の傷に薬を一時間ごとに塗り、乾燥しないように気を付け、薬を放置している間に他の傷口を縫っていく。

(.......状態が悪すぎる)

ウジ虫が湧いている傷口すらあった。一体どういう状況で応急手当をしたのか、と思うようなものだ。

「絶対助けるから!」

クルトは本当は泣きたい気持ちだった。でも泣いてしまえば正常な判断ができなくなる、と思い必死に耐えていた。








「もう後は本人がどこまで頑張れるか、だね」


一通り治療したクルトはハンスにそう言った。バルハルトは庭で丸まって微かに寝息を立てている。

「ハンス、もう帰っても大丈夫だよ。とりあえず今日はゆっくり休んで疲れをとってね」

「本当に大丈夫か?なんかあれば連絡を」


「うん」

ハンスが帰った後、クルトはバルハルトに寄り添うようにして、ちょっとした変化も見逃さまい、と彼の様子を観察していた。


(.......何が不敗だ、何が勝利だ)


こんなにも傷ついていることを町の人は知らずに、先ほどから浮かれ騒いでいる。バルハルトをそっと撫でクルトは呟いた。


「お願い、私を置いて行かないで」







バルハルトの傍を離れようとしないクルトを使用人たちは心配し、簡単に食べられるサンドイッチを用意してくれたり、毛布を持ってきてくれたりした。

そうして数日過ごし、ようやくバルハルトの状態は良くなっていた。まだ自由には動けないが、それでも以前より意識ははっきりとしていて、クルトの話していることにも反応を示してくれた。


さらに数日経つと人間の姿に戻れるほどまで回復していた。一時は本当にだめだと思っていたクルトはほっとし、思わず泣いてしまった。

「心配かけたな」


庭から自室のベッドに移動したバルハルトはそういいながら、泣くクルトの手を握った。


「………それにしてもなんでドラゴンであることを教えてくれなかったの?」


「正確に言うと、私はドラゴンではないんだ。ただドラゴンの血を引いているだけらしい。あと教えなかったのは、お前が怖がって離れていってしまうかと思ったからだ」


それくらいのことでは離れないのに、とクルトは笑った。どんな彼だって大好きだ。

「でもドラゴンの時は瞳が金色だったよね?普段は赤みがかっているけど」


クルトが不思議そうにバルバルトの瞳を覗き込むと、彼は一瞬目を閉じ、再び目を開けた時には彼の瞳は金色に変わっていた。


「うおおっ!すごい、変えられるんだ」


かっこいいっと目を輝かせるクルトに、バルハルトは少し得意げな顔をした。


そこまで話していて、クルトはふとあることに気がついた。


「この館に初めてきた時にさ、ドラゴンを治療したじゃん?あれもしかしてバルハルトの親戚だったりする?」


「弟だ」


「……………」


バルハルトに対する文句を散々ぶつくさ呟いていたから、流石に申し訳なく気まずい。

無言になったクルトに対して、バルハルトはにやにや笑っていた。


「なんだ、私の悪口でも吹き込んでいたのか?」


「……もし会うことがあったらどんな顔すればいいんだろう」


「だからあいつにクルトには優しく接しろ、とやたら言われたのか」


納得したように頷いている彼に、ミクマリは顔を赤くし揶揄わないでくれと小突いた。
バルハルトは大笑いをし、クルトを抱きしめた。

「つくづく愛おしいな、クルトは」

彼の言葉にクルトはますます赤くなり、じたばたした。


「もう寝ます!」

「今日は一緒に寝ないのか?」

項垂れる大型犬のような表情でこちらを見るが、クルトは頑なに首を縦に振らなかった。

「そんな大怪我している人とは一緒に眠ることなんてできません!」

しょんぼりするバルハルトに心が揺れそうになるが、なんとか耐え、自室に戻り数日間は一人で眠った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

処理中です...