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第三十二話 罪作りだな!

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クルトはバルハルトに体をぴったりとくっつけたまま、彼のベッドに腰かけ襲撃の際に気が付いたことを話した。

「バルハルト殿、あの賊の中にね、私が神官だった頃に私の護衛だった者がいたんだ。だから今回の件で裏で糸を引いているのは神殿の関係者だと思うんだ。それに彼らは元神官として私を高値で売るのは難しい、と話していたでしょう?それで思い出したんだ、私の同期で番になれなかった者は何人か姿を消しているんだ。それと同時に護衛や神殿に出入りしていた商人の行方も分からなくなっているんだ」

クルトの話にバルハルトは考え込むように顎に手を当てて床に視線を落としていた。
神殿全体で神官を売買していたとなれば、国を揺るがす大問題になる。誰が関わっているのかまでは今は分からないが、かなり複雑なことになっていそうだ。

「これは私ではどうしようもできないな……。まあ生き残った奴らを尋問すれば、多少なりとも情報を得られるだろう。お前の部屋を片付けるついでに後処理も済ませてしまおう」

彼の言う後処理というものが、一体どんなものなのか怖くて聞けなかった。








「クルト、今夜は私の部屋で寝るか?」

ひとまずめちゃくちゃになってしまった館の簡単な掃除を済ませると、皆今日は寝ることにしたのだが、一番の問題はクルトの部屋が手の施しようがない状態になってしまっていたことだ。

その為彼の申し出は非常にありがたいのだが。



「なんか予想してた寝方と違います……」


てっきりバルハルトの部屋にある長椅子で寝るのかと思っていたのに、気がつけばバルハルトの腕にすっぽりと収まった状態でベッドに入っていた。

(要するにバルハルト殿に抱き締められているってことだよね……)

安心感はあるのだが、何故だかちょっぴりどきどきするような気がする。それにこんな姿勢で寝ていて肩の傷に響かないのだろうか。

「この姿勢だったらなんかあった時にお前をすぐ守ることができるからな」

安心安全なシェルターというような認識でいいのだろう。
彼の腕に抱かれていると、体温がじかに伝わってきて体がとてもぽかぽかする。
体が温まってくると瞼が重くなり始め、目を開けているのが難しくなってしまった。

「バルハルト殿……むにゃむにゃ」

半分寝かけているクルトに笑いかけると、バルハルトは耳元で囁いた。

「おやすみ、クルト」

彼がどれほど優しい顔をしていたのか、寝入ってしまったクルトには分からないことだった。







翌朝久しぶりにぐっすりと寝たクルトが目を開けると、目の前にバルハルトの顔があり、一瞬頭が混乱する。

(そうだ部屋がめちゃくちゃになってしまったから、彼の部屋で寝かせてもらったんだ)

まだ起きる時間には少し早そうだ。クルトは初めて見るバルハルトの寝顔をにこにこしながら眺めていた。

「寝ている時は眉間の皺がなくなるんだ……。んふふっ、こんな穏やかな顔で寝ているなんて意外だなあ」

きりっとした目は今は閉じられ、長いまつ毛に縁取られている。こうしてじっくりと彼の顔を眺めていると、つくづく男前なのだと実感する。いつもしっかりとセットされている髪には寝癖が付き、まるで冬眠明けの熊のようだ。

「なんか可愛い」

そう呟くと彼の耳に届いてしまったのだろう、ゆっくりと彼の目が開き眠たげに瞬きした。

「………おはようクルト」

そういうと彼はクルトをぎゅっと抱き締めてきた。
まるでクルトの存在を確かめるように、強く抱きしめるものだがら、ちょっと息苦しくなる。

「ちょっと苦しい」

「目が覚めていなくなってたらどうしようかと心配で」

別に心配しなくても良いのに、と思いつつしかし昨日あんなことがあったばかりなのだから、彼が心配するのも当然である。

「今日はどうするか?いつも通り演習場に行くか?」

そう言いながらも、本当は心配でたまらずできれば館の中でおとなしくしてて欲しい、という思いが透けて見えている。無表情を装っているのに、クルトのことを強く抱き締めて、クルトの返事を待っている。

「今日は家でおとなしく本でも読んでおくよ。バルハルト殿だって心配なんでしょう?」


クルトがそう言えばほっとした表情を浮かべる彼に思わず微笑んでしまう。彼は不器用だけれどもちゃんとクルトのことを心配してくれているのだ。

「ねえ、明日もここで寝ていい?」

クルトが聞くと彼はすぐに首を縦に振った。好きなだけここで寝てもいいようだ。

「ベッドと言わず、私の部屋を自由に使って構わない。外に出れないのだから、その分家の中では自由に過ごせる方がいいだろう」

「本当?ありがとう!」

クルトが礼を言えば彼はふわりと柔らかく笑った。そのあまりにも優しくて甘い笑顔にクルトの心臓は完全にやられてしまった。

「バルハルト殿は心臓に悪い!!」

「どういうことだ?」

よく分かっていないような顔でクルトに尋ねてくる。
本当に自分に関することにはとことん鈍いのだ。つくづく罪深い男だとクルトはため息をついた。


(でも…………)


そのうち彼のこの優しい笑顔は別の人に向けられるのだろう。その時クルトはそれを側で指を咥えて見ていることしかできない。

他の人は知らない彼の一面を、自分だけが知っていたい。
彼の婚約者が羨ましかった。何故彼と一緒にいられるのに、自らその立場を捨ててしまったのだろうか。


(あれ?何で私こんなこと考えているんだろう?)


そんな風に考えていた自分自身に驚く。

「クルト?」

「何でもないです」

結局クルトは目を逸らすことにした。
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