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第二十九話 面白いことになりそうだ
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クルトが軍でドラゴンの治療をするようになってから少したったある日のこと。
獣舎でいつものように治療をしていると、外から怒鳴り声と宥めるような声が聞こえてきた。何事かと思って顔を覗かすと、ちょうど外で怒鳴っている男と目が合ってしまった。中年の小太りで薄汚れた白衣着た、いかにも仕事ができなさそうな見た目だった。彼はクルトを認識するとカッと目を見開き、物凄いスピードでこちらへ歩いてきた。
「お前か?新入りのくせに調子に乗っているのは!!俺の仕事場を荒らすつもりか?!」
唾を飛ばしながら叫ぶ男に圧倒されクルトが思わず後ずさりすると、すっとバルハルトが二人の間を割るようにして庇ってくれた。クルトを背中で隠しながら、バルハルトは淡々と男に話しかけている。
「ハンス殿も自分一人では大変だと以前から話していただろう。だから軍はもう一人雇うことにしたのだ。今国境沿いでは不穏な動きもある。有事の際にドラゴンの怪我が治っていないと、我々は国を守ることができなくなってしまう」
「だがこんな若造にドラゴンの治療ができるものか!状態を悪化させるだけだ!」
そういいながら彼はあの怪我が酷かったドラゴンの方へ歩いて行く。
「ほらこの傷だって─────」
意気揚々とクルトの不手際を指摘しようとしたハンスだったが、途中で言葉が途切れた。
ぴたりと黙ってしまった彼に対し、その場にいる皆が怪訝そうな視線を送っている。
傷口を確認したハンスはこれまでに感じたことのないような、激しい敗北感に包まれるのを感じた。
(まさかこんな高度な治療をあの若造が.......?!この縫い方も傷口に塗ってある薬も、相当な技術がないとできない。一体どういうことだ?)
ハンスはやぶ医者だが、相手の技量を見極めることぐらいはさすがに可能だ。
自分より二回り以上も年が離れている者が高度な技術を用いて、あっさりとドラゴンを治してしまった、という事実に頭をガツンと殴られたような衝撃を覚えた。そして自分のプライドがめちゃくちゃに踏みにじられたような気分になった。
ぎりぎりと歯ぎしりをしながら、クルトの方を睨みつける。その瞳には怒りと憎しみと嫉妬が渦巻いていた。
これまで向けられたことのない強い感情に、クルトは冷や汗が噴き出してくる。しばしクルトを睨みつけた後、ハンスは聞くに堪えないような罵詈雑言を叫ぶと、怒ってそのまま演習場から出て行ってしまった。
追いかけた方がいいのかもしれない、とクルトは思ったがもし自分が動けば余計彼を刺激してしまうだろう。結局その場にいる者は誰も彼を追いかけようとする様子すらなかった為、クルトもそれ以上はハンスに関わらないことにした。
「クルト殿、先ほどのことは気にしなくて大丈夫ですよ。あの人がすぐ怒るのはいつものことだから」
そう言ってくれたのは、クルトと同じ年頃の青年だった。明るい真っ直ぐな瞳の持ち主だ。
「俺のドラゴンの傷が全然治んなくて……。おかしいなと思いつつ、俺は医術のことなんて全く分からないから、どうすればいいのかずっと悩んでいて。でもあなたがあっという間に治してくれたから、本当に感謝しています!」
彼はあの大きなドラゴンの飼い主のようだ。自分のドラゴンがあのような状態だったら、心配するのも当然だろう。
「お役に立てて何よりです」
誰かに感謝してもらえるのは久しぶりのことで、うれしくてにこにこしていると、バルハルトから呼ばれた。
「クルト、どうしても足りない薬があるんだが、作ることができるか?」
彼のもとに行くと開口一番そう言われた。どうやら傷の治りを早くする薬がなくなってしまったらしい。
しかし本当の問題はそこではない。その薬はよく使うものにも関わらず、非常に値段が高い。そのため軍の財務を担当する者たちは、半泣きになりながらお金のやりくりをしているらしい。しかし少し前にあった国境付近での戦いで負傷したドラゴンがあまりにも多く、相当な額が治療費として使われてしまった。
それゆえ今では薬を用意することができなくなってしまったらしい。
「まあ材料さえ手に入れば作れますよ。材料費自体はそんなに掛からないですよ。ただ作れる人が少ないから、値段がどうしても上がってしまうんです」
話しながらも作り方を思い返してみる。道具と材料さえ揃えてもらえればできるはずだ。
「家に帰ったらもう一度作り方を確認してみますね」
「ありがとう」
ほっとしたような顔をするバルハルトを見ると、なぜかクルトも嬉しくなった。
「お礼は美味しいものでお願いします!!」
「分かった。いくらでも欲しいものを買ってやろう」
二人のやりとりを見ていた青年はバルハルト殿も大分変ったな、などと考えていた。以前はもっと厳しく、人を寄せ付けない雰囲気だったのに、今はかなり柔らかな感じになっている。
(バルハルト殿はなんかあの人に対してはかなり甘い気がする.......)
クルト、と呼ばれている人の服は見た限り相当上等なものだ。もちろん今はドラゴンの世話をしに来ているためか、服装自体はシンプルだが生地はしっかりとしたものだ。
噂によるとバルハルトは彼に装飾品やその他様々な服を買い与えているという。
(倹約家だからあんまりそういったものは買わない、と聞いていたけど)
なにやら面白いことになりそうな空気に、皆がわくわくしていた。
獣舎でいつものように治療をしていると、外から怒鳴り声と宥めるような声が聞こえてきた。何事かと思って顔を覗かすと、ちょうど外で怒鳴っている男と目が合ってしまった。中年の小太りで薄汚れた白衣着た、いかにも仕事ができなさそうな見た目だった。彼はクルトを認識するとカッと目を見開き、物凄いスピードでこちらへ歩いてきた。
「お前か?新入りのくせに調子に乗っているのは!!俺の仕事場を荒らすつもりか?!」
唾を飛ばしながら叫ぶ男に圧倒されクルトが思わず後ずさりすると、すっとバルハルトが二人の間を割るようにして庇ってくれた。クルトを背中で隠しながら、バルハルトは淡々と男に話しかけている。
「ハンス殿も自分一人では大変だと以前から話していただろう。だから軍はもう一人雇うことにしたのだ。今国境沿いでは不穏な動きもある。有事の際にドラゴンの怪我が治っていないと、我々は国を守ることができなくなってしまう」
「だがこんな若造にドラゴンの治療ができるものか!状態を悪化させるだけだ!」
そういいながら彼はあの怪我が酷かったドラゴンの方へ歩いて行く。
「ほらこの傷だって─────」
意気揚々とクルトの不手際を指摘しようとしたハンスだったが、途中で言葉が途切れた。
ぴたりと黙ってしまった彼に対し、その場にいる皆が怪訝そうな視線を送っている。
傷口を確認したハンスはこれまでに感じたことのないような、激しい敗北感に包まれるのを感じた。
(まさかこんな高度な治療をあの若造が.......?!この縫い方も傷口に塗ってある薬も、相当な技術がないとできない。一体どういうことだ?)
ハンスはやぶ医者だが、相手の技量を見極めることぐらいはさすがに可能だ。
自分より二回り以上も年が離れている者が高度な技術を用いて、あっさりとドラゴンを治してしまった、という事実に頭をガツンと殴られたような衝撃を覚えた。そして自分のプライドがめちゃくちゃに踏みにじられたような気分になった。
ぎりぎりと歯ぎしりをしながら、クルトの方を睨みつける。その瞳には怒りと憎しみと嫉妬が渦巻いていた。
これまで向けられたことのない強い感情に、クルトは冷や汗が噴き出してくる。しばしクルトを睨みつけた後、ハンスは聞くに堪えないような罵詈雑言を叫ぶと、怒ってそのまま演習場から出て行ってしまった。
追いかけた方がいいのかもしれない、とクルトは思ったがもし自分が動けば余計彼を刺激してしまうだろう。結局その場にいる者は誰も彼を追いかけようとする様子すらなかった為、クルトもそれ以上はハンスに関わらないことにした。
「クルト殿、先ほどのことは気にしなくて大丈夫ですよ。あの人がすぐ怒るのはいつものことだから」
そう言ってくれたのは、クルトと同じ年頃の青年だった。明るい真っ直ぐな瞳の持ち主だ。
「俺のドラゴンの傷が全然治んなくて……。おかしいなと思いつつ、俺は医術のことなんて全く分からないから、どうすればいいのかずっと悩んでいて。でもあなたがあっという間に治してくれたから、本当に感謝しています!」
彼はあの大きなドラゴンの飼い主のようだ。自分のドラゴンがあのような状態だったら、心配するのも当然だろう。
「お役に立てて何よりです」
誰かに感謝してもらえるのは久しぶりのことで、うれしくてにこにこしていると、バルハルトから呼ばれた。
「クルト、どうしても足りない薬があるんだが、作ることができるか?」
彼のもとに行くと開口一番そう言われた。どうやら傷の治りを早くする薬がなくなってしまったらしい。
しかし本当の問題はそこではない。その薬はよく使うものにも関わらず、非常に値段が高い。そのため軍の財務を担当する者たちは、半泣きになりながらお金のやりくりをしているらしい。しかし少し前にあった国境付近での戦いで負傷したドラゴンがあまりにも多く、相当な額が治療費として使われてしまった。
それゆえ今では薬を用意することができなくなってしまったらしい。
「まあ材料さえ手に入れば作れますよ。材料費自体はそんなに掛からないですよ。ただ作れる人が少ないから、値段がどうしても上がってしまうんです」
話しながらも作り方を思い返してみる。道具と材料さえ揃えてもらえればできるはずだ。
「家に帰ったらもう一度作り方を確認してみますね」
「ありがとう」
ほっとしたような顔をするバルハルトを見ると、なぜかクルトも嬉しくなった。
「お礼は美味しいものでお願いします!!」
「分かった。いくらでも欲しいものを買ってやろう」
二人のやりとりを見ていた青年はバルハルト殿も大分変ったな、などと考えていた。以前はもっと厳しく、人を寄せ付けない雰囲気だったのに、今はかなり柔らかな感じになっている。
(バルハルト殿はなんかあの人に対してはかなり甘い気がする.......)
クルト、と呼ばれている人の服は見た限り相当上等なものだ。もちろん今はドラゴンの世話をしに来ているためか、服装自体はシンプルだが生地はしっかりとしたものだ。
噂によるとバルハルトは彼に装飾品やその他様々な服を買い与えているという。
(倹約家だからあんまりそういったものは買わない、と聞いていたけど)
なにやら面白いことになりそうな空気に、皆がわくわくしていた。
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