17 / 26
第十七話 外出のお誘い
しおりを挟む
その日の夕方。
二人で夕食をとっていると、クルトはバルハルトに誘われた。
「明日の朝、街に出かけに行かないか?」
ここに来てから初めてそんなことを言われたクルトは、少し首を傾げた。
「何か買いに行くんですか?」
基本的に彼は忙しいため、よほどの用事がなければわざわざ街に買い物に行かない。
それがクルトを誘ってくるとは、一体どういう風の吹き回しなのだろう。
「別に特に用事はない。ただお前に新しい服が届いただろう。せっかくだからあれを着ていったらどうだ?」
「確かにそうですね!でも私と一緒でいいんですか?せっかくの休みなら婚約者の方と出かけるとか、そちらのほうがいいんじゃないんですか?」
綺麗な器にのったサラダをもぐもぐと食べながら、クルトは彼の様子を伺った。
「婚約者には逃げられた」
「えっ?!」
空耳かと思うほどの、衝撃的な発言が彼の口から飛び出てきて、クルトは耳を疑った。
「婚約者には逃げられた……?」
「そうだ」
ホットミルクに蜂蜜を垂らしたものを啜りながら、バルハルトは頷く。
「何でですか?」
「顔が怖い、ドラゴンが嫌い、軍人は野蛮、顔が好みじゃない、家にあまり帰ってこない。あと最近は好きな男ができたと言ってたな」
指折り数えるバルハルトを尻目に、そんなことを言う令嬢がこの世に存在するのかと、クルトは口をあんぐり開けた。
「あれ噂じゃなくて事実だったんですね」
クルトの言葉をバルハルトはむっつりとした顔で聞いている。
どうやら噂は本人にも届いていたようだ。
「どうせ世間の者は皆私を偏屈で力に頼るしかない、金だけは有り余っている哀れな男だと思っているのだろう」
彼の明らかに拗ねたような口調にクルトは、苦笑いを浮かべることしかできなかった。
(意外と自己分析できているみたいだね……)
世間一般でのバルハルトの印象はまさに、彼が先程言った通りだった。
傲慢、偏屈、無愛想、ケチといえばバルハルト、という言葉が囁かれるくらいだ。
(いや、まあケチの部分は違うかな。私にたくさん物を買ってくれたし、給料も弾んでくれた。傲慢、偏屈、無愛想は………うーん、彼と関わりのない人にはそう見えるんだろうな)
クルト自身も彼と暮らして数日経つが、いまだに彼の考えていることは分からず、性格もいまいち掴めていなかった。
(それにしても婚約者から逃げられるなんて、流石に可哀想すぎるなぁ。私自身も明日は特に予定もないから、一緒に出かけよう)
「じゃあ明日は一緒に街に行きましょう」
多少の同情を込めながら彼の提案に賛成すると、彼は黙って頷いた。
「何か買いたいものとかあるか?連れていってやろう」
「そうですね……、通りに並ぶ屋台の食べ物を食べてみたいです!神殿にいた頃は食事も厳しく管理されていたので、そういうものは口にしたことがないんです」
サラダを食べ終え、タラのムニエルに手をつけながら、クルトは街で何をするか考えてみた。
やはり美味しいものは外せない。特にたっぷりの油で揚げたドーナツや、鶏の串焼きは絶対に食べてみたい。
「神殿では脂分が多いものは健康に良くない、とほとんど食べさせてもらえなかったんです」
野菜ばかりでどう生きろというのか。
あまりに味気ない食生活である、と神殿にいた頃常日頃考えていたクルトは、既にたくさんの食べ物を想像してうっとりとした顔をしていた。
二人で夕食をとっていると、クルトはバルハルトに誘われた。
「明日の朝、街に出かけに行かないか?」
ここに来てから初めてそんなことを言われたクルトは、少し首を傾げた。
「何か買いに行くんですか?」
基本的に彼は忙しいため、よほどの用事がなければわざわざ街に買い物に行かない。
それがクルトを誘ってくるとは、一体どういう風の吹き回しなのだろう。
「別に特に用事はない。ただお前に新しい服が届いただろう。せっかくだからあれを着ていったらどうだ?」
「確かにそうですね!でも私と一緒でいいんですか?せっかくの休みなら婚約者の方と出かけるとか、そちらのほうがいいんじゃないんですか?」
綺麗な器にのったサラダをもぐもぐと食べながら、クルトは彼の様子を伺った。
「婚約者には逃げられた」
「えっ?!」
空耳かと思うほどの、衝撃的な発言が彼の口から飛び出てきて、クルトは耳を疑った。
「婚約者には逃げられた……?」
「そうだ」
ホットミルクに蜂蜜を垂らしたものを啜りながら、バルハルトは頷く。
「何でですか?」
「顔が怖い、ドラゴンが嫌い、軍人は野蛮、顔が好みじゃない、家にあまり帰ってこない。あと最近は好きな男ができたと言ってたな」
指折り数えるバルハルトを尻目に、そんなことを言う令嬢がこの世に存在するのかと、クルトは口をあんぐり開けた。
「あれ噂じゃなくて事実だったんですね」
クルトの言葉をバルハルトはむっつりとした顔で聞いている。
どうやら噂は本人にも届いていたようだ。
「どうせ世間の者は皆私を偏屈で力に頼るしかない、金だけは有り余っている哀れな男だと思っているのだろう」
彼の明らかに拗ねたような口調にクルトは、苦笑いを浮かべることしかできなかった。
(意外と自己分析できているみたいだね……)
世間一般でのバルハルトの印象はまさに、彼が先程言った通りだった。
傲慢、偏屈、無愛想、ケチといえばバルハルト、という言葉が囁かれるくらいだ。
(いや、まあケチの部分は違うかな。私にたくさん物を買ってくれたし、給料も弾んでくれた。傲慢、偏屈、無愛想は………うーん、彼と関わりのない人にはそう見えるんだろうな)
クルト自身も彼と暮らして数日経つが、いまだに彼の考えていることは分からず、性格もいまいち掴めていなかった。
(それにしても婚約者から逃げられるなんて、流石に可哀想すぎるなぁ。私自身も明日は特に予定もないから、一緒に出かけよう)
「じゃあ明日は一緒に街に行きましょう」
多少の同情を込めながら彼の提案に賛成すると、彼は黙って頷いた。
「何か買いたいものとかあるか?連れていってやろう」
「そうですね……、通りに並ぶ屋台の食べ物を食べてみたいです!神殿にいた頃は食事も厳しく管理されていたので、そういうものは口にしたことがないんです」
サラダを食べ終え、タラのムニエルに手をつけながら、クルトは街で何をするか考えてみた。
やはり美味しいものは外せない。特にたっぷりの油で揚げたドーナツや、鶏の串焼きは絶対に食べてみたい。
「神殿では脂分が多いものは健康に良くない、とほとんど食べさせてもらえなかったんです」
野菜ばかりでどう生きろというのか。
あまりに味気ない食生活である、と神殿にいた頃常日頃考えていたクルトは、既にたくさんの食べ物を想像してうっとりとした顔をしていた。
21
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる