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第十六話 なんでそんな怖くなっちゃうんだろう?
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彼と過ごしてすでに数日が経過していたが、これはクルトにとって世紀の大発見であった。
「うそ……全然気が付かなかった……」
彼の顔を凝視しながら、思わず心の声が漏れてしまう。
「何にだ?」
そう訊かれるも、クルトは世紀の大発見に気を取られていて、彼の言葉は耳に入っていなかった。
(なぜこれまでイケメンに見えなかったんだろう?
─────眉間の皺が原因?!)
勝手に一人で不思議がり、勝手に納得しているクルトを、バルハルトは怪訝そうな顔で見ていた。
「何か服に不備があったのか?」
「いえ、違います」
彼に問われて意識を引き戻されたクルトは、慌てて否定した。
「まあそれならいい」
そう言う彼をじっと眺めていたクルトは、ふととある疑問が浮かんできた。
「バルハルト殿」
「何だ?」
怒られてしまいそうだが、どうしても気になっていることがクルトにはあった。
「何でバルハルト殿はあまり笑わないのですか?」
クルトの問いに彼はしばらく考え込むような顔をすると、眉を寄せながら口を開いた。
「私はそんなに笑ってないのか?怖く見えていたりするのか?」
思いのほか深刻そうな口調に、クルトは眉を上げる。彼にもコンプレックスなるものが存在するとは。
(へえ~彼も実は気にしてた感じ?)
この地位も財力も能力も持ち合わせた男が、そんなことを気にしていることが何やら可笑しかった。
だが誰が彼に顔が怖いなどと言ったのだろうか。なかなかの勇者である。
「別にそこまで怖くは見えませんけど.......。笑ったほうがより素敵にみえますよ。ほら、わらって!!」
口角をちょんちょん、と指で示しながらそう言えば、彼の口元に笑みのような、ちょっと引きつったものが現れた。
もうひと頑張りすればいい線を行きそうだ。
「もうちょい頑張ってください!そうすればいい感じですよ!」
彼は意外にも素直にクルトの助言を受け入れ、何とか笑顔を作ろうとしている。
しかし集中しているせいか、余計眉間にしわが寄ってしまい、おまけに笑顔の方は唇をひん曲げたような状態であるため、もはや鬼神のような見た目となってしまった。
「あ───.......イイカンジデスヨ」
彼を傷つけるわけにもいかず、クルトは棒読みな感想を言うことになった。
「やはりだめだったか」
やや落ち込んだ様子を見せるバルハルトの肩を、クルトは優しくぽんっと叩いた。
「大丈夫ですよ!よくしようっていう気持ちがあれば、必ず変われますから」
にっこりと笑うクルトの顔をまじまじと見て、バルハルトはぽつりと呟いた。
「お前は本当によく笑うな。食事の時も、服を着る時も。なんでそんなに笑えるんだ?」
「そんなに笑っていましたか?でもできる限り笑顔でいようって心がけています。院長が笑顔でいればきっといいことが起こるよって教えてくれたので」
クルトの言葉にバルハルトが首を傾げたため、クルトは慌てて説明する。
「院長は私が育った孤児院の院長のことです。とても優しい方でしたね」
バルハルトの瞳が揺らぎ、もの問いたげに口が少し開かれたが、結局言葉が出てくることはなかった。
(あらら、少し重い話だったかな?)
彼の表情とその場の空気を見て、クルトは雰囲気を変えようとなにか話題を探す。
しかしちょうど良い話題が特に思い浮かばず、当然その場の空気は重いままでクルトは困って眉を下げた。
「まあ孤児院での生活は楽しかったですよ。あとバルハルト殿はそんなに笑顔ができないことを気にしなくていいと思います。誰に言われたのかはわかりませんが、大丈夫ですよ!」
わたわたと身振り手振りを交えて、彼を元気付けようとした。
「.......まあお前が言うなら大丈夫か」
「なんですか、それ」
彼のほうを見ながら思わず笑みがこぼれた。彼にも悩みがあったことが分かって、クルトは嬉しくなった。
「これから一緒にたくさん笑顔の練習をしましょ!!」
「うそ……全然気が付かなかった……」
彼の顔を凝視しながら、思わず心の声が漏れてしまう。
「何にだ?」
そう訊かれるも、クルトは世紀の大発見に気を取られていて、彼の言葉は耳に入っていなかった。
(なぜこれまでイケメンに見えなかったんだろう?
─────眉間の皺が原因?!)
勝手に一人で不思議がり、勝手に納得しているクルトを、バルハルトは怪訝そうな顔で見ていた。
「何か服に不備があったのか?」
「いえ、違います」
彼に問われて意識を引き戻されたクルトは、慌てて否定した。
「まあそれならいい」
そう言う彼をじっと眺めていたクルトは、ふととある疑問が浮かんできた。
「バルハルト殿」
「何だ?」
怒られてしまいそうだが、どうしても気になっていることがクルトにはあった。
「何でバルハルト殿はあまり笑わないのですか?」
クルトの問いに彼はしばらく考え込むような顔をすると、眉を寄せながら口を開いた。
「私はそんなに笑ってないのか?怖く見えていたりするのか?」
思いのほか深刻そうな口調に、クルトは眉を上げる。彼にもコンプレックスなるものが存在するとは。
(へえ~彼も実は気にしてた感じ?)
この地位も財力も能力も持ち合わせた男が、そんなことを気にしていることが何やら可笑しかった。
だが誰が彼に顔が怖いなどと言ったのだろうか。なかなかの勇者である。
「別にそこまで怖くは見えませんけど.......。笑ったほうがより素敵にみえますよ。ほら、わらって!!」
口角をちょんちょん、と指で示しながらそう言えば、彼の口元に笑みのような、ちょっと引きつったものが現れた。
もうひと頑張りすればいい線を行きそうだ。
「もうちょい頑張ってください!そうすればいい感じですよ!」
彼は意外にも素直にクルトの助言を受け入れ、何とか笑顔を作ろうとしている。
しかし集中しているせいか、余計眉間にしわが寄ってしまい、おまけに笑顔の方は唇をひん曲げたような状態であるため、もはや鬼神のような見た目となってしまった。
「あ───.......イイカンジデスヨ」
彼を傷つけるわけにもいかず、クルトは棒読みな感想を言うことになった。
「やはりだめだったか」
やや落ち込んだ様子を見せるバルハルトの肩を、クルトは優しくぽんっと叩いた。
「大丈夫ですよ!よくしようっていう気持ちがあれば、必ず変われますから」
にっこりと笑うクルトの顔をまじまじと見て、バルハルトはぽつりと呟いた。
「お前は本当によく笑うな。食事の時も、服を着る時も。なんでそんなに笑えるんだ?」
「そんなに笑っていましたか?でもできる限り笑顔でいようって心がけています。院長が笑顔でいればきっといいことが起こるよって教えてくれたので」
クルトの言葉にバルハルトが首を傾げたため、クルトは慌てて説明する。
「院長は私が育った孤児院の院長のことです。とても優しい方でしたね」
バルハルトの瞳が揺らぎ、もの問いたげに口が少し開かれたが、結局言葉が出てくることはなかった。
(あらら、少し重い話だったかな?)
彼の表情とその場の空気を見て、クルトは雰囲気を変えようとなにか話題を探す。
しかしちょうど良い話題が特に思い浮かばず、当然その場の空気は重いままでクルトは困って眉を下げた。
「まあ孤児院での生活は楽しかったですよ。あとバルハルト殿はそんなに笑顔ができないことを気にしなくていいと思います。誰に言われたのかはわかりませんが、大丈夫ですよ!」
わたわたと身振り手振りを交えて、彼を元気付けようとした。
「.......まあお前が言うなら大丈夫か」
「なんですか、それ」
彼のほうを見ながら思わず笑みがこぼれた。彼にも悩みがあったことが分かって、クルトは嬉しくなった。
「これから一緒にたくさん笑顔の練習をしましょ!!」
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