上 下
12 / 21

第十二話 そんなお金ないけど?!

しおりを挟む
翌朝目が覚めたクルトはもそもそとベッドから起き出した。

部屋にある洗面所で顔を洗い、服を着替えていると扉を叩く音がした。

「クルト様、お目覚めでしょうか?」


慌てて服を着て返事をして扉を開けると、ひょっこり顔を覗かせたのは金髪に青い瞳の、背の高い女性だった。

「おはようございます、私はジェシカと申します。
もう朝食を召し上がられますか?」


彼女からそう聞かれた途端、クルトの腹がきゅぅとなり、クルトは思わず顔を赤くした。

「………お願いします」

「承知いたしました」

にっこりと彼女は笑い、階下へと降りていく。

クルトも髪を整えるとすぐに一階へと向かって行った。

階段を少し降りるだけで、一気に料理の美味しそうな香りが鼻腔に押し寄せてくる。

(今日は何の料理だろう?)


わくわくしながら降りていくと、テーブルにはすでにバルハルトが座っていた。


「おはようございます……」

「起きたのか」

彼は食事を終えたところらしく、コーヒーをゆっくりと飲んでいた。


クルトが席につくと、すぐに朝食が運ばれてきた。

「わあっ、美味しそう!」

思わず声を上げてクルトは目を輝かせた。

目玉焼きにベーコン、綺麗な彩りのサラダに旬の野菜がたっぷり入ったスープ、焼きたてのパン。

(朝からこんな豪華だなんて……。神殿とは大違いだ!!)

「いただきます!!」

席について早速パンを口に入れる。
ふんわりとした食感とバターの香りが食欲をそそる。

(美味しすぎる……っ)

ぱくり、ぱくりと夢中になって口に運んでいると、不意に視線を感じた。

(………….?)


顔を上げれば何故かバルハルトがコーヒーを片手に、こちらをじっと見つめていた。

「あの……私の顔に何かついていますか?」

「いや」

彼の返答にクルトは内心首を傾げた。

(じゃあなんでそんなに私を見ているんだろう?食べ方が汚いとか?)

どうにも落ち着かない気持ちになってしまう。

(まあそもそも彼の考えてることなんて、全く分からないし)

そう開き直ってクルトは食事に集中することにした。

目玉焼きを口に運んでいると、不意にバルハルトが口を開いた。

「今日の午後、宝石商と服飾商が来るからな。忘れないように」

「バルハルト殿は何か新しいものを買うんですか?」

「いいやお前のを買うんだ」

「えっ?私の?!」

思ってもいなかった言葉にクルトはあんぐりと口を開けた。

「でも私はお金を全く持ってませんよ?」

自分の財布の中に入っている金額を思い返してみて、クルトは慌てる。
あの手持ちではまともなものは買えないはずだ。

「金は私が出す」

コーヒーを啜りながら、バルハルトはあっさりとなんて事ないかのようにそう言った。

「ですけど服を揃えるのだって、かなりお金がかかるじゃないですか」

今食べているものも、全て彼に用意してもらっていることを思い出し、クルトは俯いた。

「大した金額ではない。それにお前のほうこそそんな格好で出歩くつもりか」

そう彼に言われ、クルトは初めて自分の服を顧みた。

長い間着古され襟や袖の部分は若干伸びてしまっている。

神殿にいた頃についた染みは何度洗っても落ちず、今でも薄らと汚れがついていた。

おまけに服の丈も短くなってしまっていて、みっともないことこの上ない。

(確かに何かみすぼらしいな)

彼に指摘されるまで全く気にしていなかった。 

「神殿の外では着古した服は着ないほうがいい感じですね」

「まあ、そうだな。身なりを整えないと相手に軽んじられる可能性だってある」

彼のその言葉に初めてクルトは自分の常識がずれているのではないか、と気づいた。

「………バルハルト殿、もし私が常識外れな行動をしてたら教えてくれませんか」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スパダリショタが家庭教師のメスお兄さん先生と子作り練習する話

さくた
BL
攻め:及川稜 DS5。文武両道、とてもモテる 受け:狭山由貴 稜の家庭教師。文系。数学は苦手 受けの名前出てないことに気づいたけどまあええやろ…

僕が再婚するまでの話

ゆい
BL
旦那様が僕を選んだ理由は、僕が彼の方の血縁であり、多少顔が似ているから。 それだけで選ばれたらしい。 彼の方とは旦那様の想い人。 今は隣国に嫁がれている。 婚姻したのは、僕が18歳、旦那様が29歳の時だった。 世界観は、【夜空と暁と】【陸離たる新緑のなかで】です。 アルサスとシオンが出てきます。 本編の内容は暗めです。 表紙画像のバラがフェネルのように凛として観えたので、載せます。     2024.10.20

ゆるふわメスお兄さんを寝ている間に俺のチンポに完全屈服させる話

さくた
BL
攻め:浩介(こうすけ) 奏音とは大学の先輩後輩関係 受け:奏音(かなと) 同性と付き合うのは浩介が初めて いつも以上に孕むだのなんだの言いまくってるし攻めのセリフにも♡がつく

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。

柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。 頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。 誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。 さくっと読める短編です。

母の再婚で魔王が義父になりまして~淫魔なお兄ちゃんに執着溺愛されてます~

トモモト ヨシユキ
BL
母が魔王と再婚したルルシアは、義兄であるアーキライトが大の苦手。しかもどうやら義兄には、嫌われている。 しかし、ある事件をきっかけに義兄から溺愛されるようになり…エブリスタとフジョッシーにも掲載しています。

獅子帝の宦官長

ごいち
BL
皇帝ラシッドは体格も精力も人並外れているせいで、夜伽に呼ばれた側女たちが怯えて奉仕にならない。 苛立った皇帝に、宦官長のイルハリムは後宮の管理を怠った罰として閨の相手を命じられてしまう。    強面巨根で情愛深い攻×一途で大人しそうだけど隠れ淫乱な受     R18:レイプ・モブレ・SM的表現・暴力表現多少あります。 2022/12/23 エクレア文庫様より電子版・紙版の単行本発売されました 電子版 https://www.cmoa.jp/title/1101371573/ 紙版 https://comicomi-studio.com/goods/detail?goodsCd=G0100914003000140675 単行本発売記念として、12/23に番外編SS2本を投稿しております 良かったら獅子帝の世界をお楽しみください ありがとうございました!

オークなんかにメス墜ちさせられるわけがない!

空倉改称
BL
 異世界転生した少年、茂宮ミノル。彼は目覚めてみると、オークの腕の中にいた。そして群れのリーダーだったオークに、無理やりながらに性行為へと発展する。  しかしやはりと言うべきか、ミノルがオークに敵うはずがなく。ミノルはメス墜ちしてしまった。そしてオークの中でも名器という噂が広まり、なんやかんやでミノルは彼らの中でも立場が上になっていく。  そしてある日、リーダーのオークがミノルに結婚を申し入れた。しかしそれをキッカケに、オークの中でミノルの奪い合いが始まってしまい……。 (のんびりペースで更新してます、すみません(汗))

処理中です...