【完結】奇跡の子とその愛の行方

紙志木

文字の大きさ
上 下
38 / 53

秋風 ※ Side-S

しおりを挟む
朝の風は日に日に冷たくなってく。サガンは足元に積もった枯れ葉を踏みしめながら砦の裏手を歩いていた。厨房の裏口では、若い女が一人で荷車から積荷を厨房へ運び入れている。

「手伝おう」

サガンは一際大きな積荷をひょいと担ぎ上げた。

「あら、ありがとう。助かるわ。一人風邪を引いて休んじゃって」

「ここのところ寒いからね」

積荷を全て運び終えると、女はサガンの腕に手を掛けて言った。

「あなた、もしかして噂の元団長さん?お茶いれるから飲んで行ってよ」

サガンは苦笑して言った。

「いや、これから朝の鍛錬なんだ」

「そう?残念」

「またね」


国境近くの砦には鍛錬場などという上等なものはなく、砦の周辺の開けた場所の草を適当に刈って鍛錬の場所にしていた。朝の鍛錬には珍しく騎士団長のカルザスも参加していた。

「見てたぞ、男前」

カルザスは目を細めてニヤニヤとしている。剣を型通りに振りながらサガンが言った。

「何のことだ」

「厨房係のメアリだよ。仲良さそうじゃないか」

「大変そうだったから手伝っただけさ」

「サイラスの件といい、相変わらずモテるな」

サイラスの名を聞くとサガンは大きくため息を吐いた。食堂での一件以来、サガンを遠巻きにしていた騎士達から時折話しかけられるようになったが、その内容が問題だった。

「よう、あんた強いんだな、さすがは元団長」
「あんたサイラスの貞操を賭けて決闘して勝ったんだって?もうヤったのか?」
「女好きって噂は嘘かよ。いや両刀ってやつか」
「サイラスとはもう寝たのか」

等々である。いちいち否定するのも面倒で言わせたままにしているが、自分がどんな人間だと思われているのかを想像すると頭痛がした。

「それより、この辺りに魔狼が出たという話は本当か?」

サガンは騎士達がしていた立ち話を思い出して聞いた。

「ああ、砦の西側の森でな。周辺の集落の者達が不安がっている。近く討伐隊を出す予定だ」

「俺もその討伐隊に入れてくれ。走り込みと素振りばかりでは腕が鈍る」

「ふむ、考えておく。あと、今夜付き合ってくれ。酒でも飲もう」

カルザスはそう言うと、他の騎士に呼ばれて行ってしまった。

********

夜、砦の食堂の片隅に葡萄酒を持ち込んでカルザスと二人で飲んだ。酒場はここから遠く離れた集落に一軒あるきりで、酒を飲みたくなったら基本は皆こうして食堂で飲んでいるのだった。

「ここには慣れたか」

「そうだね。思っていたより良いところだよ」

「そうだろう。顔馴染みのよしみで部屋も個室にしておいてやったしな」

騎士達は二、三人の相部屋が基本だった。サガンは自分はなぜ個室なのかと思っていたが、カルザスが差配してくれたのだった。

「助かるよ。寝やすくて良い」

「連れ込みやすいしな!」

カルザスはまるで水かのように葡萄酒をあおりながら声を上げて笑った。

「恋愛ごとは懲り懲りさ」

「忘れられないか、…キリトが」

久しぶりに名前を聞いて胸がズキンと痛む。途端に頭に、求めて止まない黒目黒髪の美しい人の姿が浮かんで辛くなる。自分が重症だという自覚はあった。
胸の痛みを誤魔化す様に、ぐいと酒をあおった。



サガンが飲み過ぎてふらつく足で、自分に当てがわれた部屋に向かって廊下を歩いていると、部屋の前の壁に持たれて腕を組んで立っている男が目に入った。サガンは心の中でため息を吐く。サイラスだった。

無言で前を通り過ぎて部屋に入ろうとすると、急に腕を掴まれた。

「なぜ、俺を避けるんです」

周りの騎士達からあれこれ言われるのが面倒で、鍛錬中に顔を突き合わせないように遠巻きにしていた事を言っているのだろうか。

「…避けてなどいない」

「女に、体を触らせて居ましたね」

「何の事だ」

「ああいう女が好みですか?」

サイラスはそう言うなり、サガンの腕を背中に捻じ上げた。振り解こうとするも、酔いが回っているせいで力が入らない。もがいているうちに、いつの間にかサガンの両手は後ろで一つに縛られていた。

「何をする、離せ」

サイラスはその言葉に構わず、サガンの肩を無理矢理押すとサガンの部屋の扉を開けて、寝台の上にサガンを突き飛ばした。

「…おまえ…!」

俯いているせいでサイラスの表情は見えない。

「名前を呼んでくださいと、言ったはずです」

サガンは身を捩って逃げようとするが、手をきつく縛られていて身動きが取れない。

サイラスはサガンの下衣の前をくつろげると、下着の上から中心を撫で上げた。

「…こんなこと、して…」

執拗に上下に扱かれて、嫌なのに体は勝手に反応を返す。

サガンの屹立した中心を下着の中から取り出すと、それをうっとりと見つめてサイラスは言った。

「ああ、素敵だ。これを、俺の中に入れても?それとも、俺があなたに入れても良いですか」

「…どちらも勘弁してくれ」

サガンの言葉は無視して、サイラスは何でもない事のように次々と服を脱ぐと裸になった。普段から訓練に励んでいるのだろう。均整の取れた筋肉質な体だった。

「実は、ナカを慣らして来たのです」

言いながらサイラスはサガンの膝の上に跨った。

「俺を嬲って楽しいか」

サイラスは首を傾げてサガンを見つめている。

「俺が泣いてヨがったとでも言いふらすつもりか」

「まさか。あなたのこんな姿、誰にも教えたくない。それに、俺はあなたに本気です」

そう言うと、サガンの昂りの上にゆっくりと腰を落とした。

「く、う」

締め付けられてサガンが苦しげに眉を寄せる。サイラスは快楽に蕩けたような顔をして言った。

「…はあ、大きい、凄いな。これまでに男を抱いたことは?」

「…」

昂りを収め切るとサイラスはゆっくりと腰を前後に振り始めた。

「俺が、初めてですね?」

サガンが答えないでいると、サイラスは動きを早くしてサガンを攻め立てた。

「ああ、良すぎる」

無理矢理されているのに、体は勝手に快楽を拾っていく。サガンの中心は狭い肉壁に思うさま締め付けられてさらに硬さを増した。

「は、あ、ぁ」

「う、く、あああ」

どちらのものとも知れない声と濡れた音が部屋に響く。程なく、二人は同時に登り詰めて果てた。


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...