【完結】奇跡の子とその愛の行方

紙志木

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辺境 Side-S

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サガンは、国境近くの砦の食堂で昼食を取っていた。ここにやって来てからというもの、他の騎士達はサガンを遠巻きにして、話しかけても来ない。騎士団長から只の騎士への明確な左遷である。周りの反応は当然とも言えた。

ふと視線を感じて、目線を動かさずにそちらの様子を伺う。

短く切り揃えた金髪に茶色の目、背丈はサガンより拳一つ低い、左利き。歳は十八歳頃だろうか。キリトと同じだな、とふと思ってしまってから、胸の痛みを覚えて目を閉じた。

青年は時折サガンにちらりと好戦的な視線を投げてくる。血気盛んな年頃のようだった。
こちらが気づいていないと思っているのだろうか。

やがて青年は席から立ち上がるとこちらに近づいてきた。

「少し、お聞きしてもいいですか?」

サガンが黙っていると青年は続けて言う。

「一体王都で何をやらかしたのですか?副団長から団長へと登り詰めたのに、辺境の一兵卒に成り下がるとは」

「さあ?」

サガンがそれ以上答えないでいると、他の騎士達も居る食堂の中だというのに、青年はスラリと剣を抜いて構えた。

「おい、なんだ、喧嘩か」
「いいぞ、やれやれ!」
「例の元団長じゃねーか」
「どっちが勝つか賭けるか」

あろう事か周りから喧嘩をけしかける声が掛かる。

次の瞬間、剣から放たれる暑苦しい闘気めいたものを感じて、サガンはわずかに首をのけ反らせた。一瞬後に目の前を剣が横切る。

「あなたも剣を抜いてください」

サガンはしばし躊躇った後、椅子から立ち上がって剣を抜いた。
直後に斬りかかられて、剣で受ける。キインと音が鳴った。

「なぜこんな事をする」

「欲しいものがあるのです」

と言うと、青年は立て続けに剣をサガンに打ち込んだ。その全てを剣で受けてサガンは聞いた。

「…望みは何だ」

「あなただ、と言ったら?」

サガンは虚を衝かれて固まったが、

「百年早い」

と言うと、腕の力で剣を押し返した。相手がバランスを崩して後ろずさったところで、素早く剣先を喉元に突きつけて問うた。

「名は?」

「…サイラス」


********

翌日、サガンが砦の廊下を歩いていると声を掛けられた。

「話は聞いたぞ。早速やりあったらしいな」

「カルザス」

声をかけたのは、国境警備を司る第三騎士団の団長、カルザスだった。いつものようにくすんだ金髪を後ろで一つに結んで、面白そうに目を細めて笑っている。カルザスが傭兵部隊にいた頃からの顔馴染みだった。

「うちのやつらは血の気が多くて困る。…何か言われたか?」

「…俺が欲しいと言われた」

「……ほう。くれてやるのか?」

「まさか」

サガンはため息を一つ吐いた。王都から遠く離れた辺境で、静かに任務に専念する生活を送ろうと思ってたのに、初っ端からこれでは先が思いやられた。

「怪我をしない程度に程々にしておけよ」

「…ああ」

そう言うとカルザスと別れた。
サガンは今から巡回の任務に当たる予定だった。巡回は騎士が二人組になって行う決まりだ。砦の入り口に立って、相方となる騎士が出てくるのを待っていると、しばらくして出て来たのは、あろう事か昨日食堂で斬りつけてきたサイラスだった。

「巡回の当番を代わって貰ったのです。行きましょう」

「…おまえ…」

サイラスは朗らかな笑顔を浮かべている。

「何を考えている。昨日のあれは何だったんだ」

「まずはあなたに、名前を覚えて貰おうと思って」

そう言うとサイラスは先に立って歩き出した。

「剣を交えなくても名前くらい覚えられる」

サイラスの後を追って歩きながらサガンがそう言うと、サイラスはこちらを振り返って言った。

「俺の名前、呼んでくれますか?」

「…サイラス」

サガンが名を呼ぶと、サイラスは不意に俯いた。

「…俺も、あなたを名前で呼んでもいいですか?」

「…好きにしろ」

「サガン」

山々は赤く色付き、冷えた風が砦の脇の木々を揺らして葉を落としていく。冬籠りをする小動物達は忙しそうに木の実を拾い集めている。辺境の秋であった。


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