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日取り
しおりを挟む王都の街は昨晩の雨に洗われて、今朝は顔を出した太陽に照らされて輝いて見えた。小高い丘を背景に建つ王宮もまたその白い壁を輝かせている。
その一室では、ジャンの報告を聞いたコルドールが盛大にため息を吐いていた。
「一体何をやっている!」
ジャンは自分の事を言われたかのように、ビクリと肩を震わせた。
ジャンはコルドールに、キリトの護衛に当たっていた騎士が天幕の中でキリトを襲った、とありのまま報告したのだった。
「レイルはこの事を知っているのか?」
「い、いえ。まずは団長にご報告をと思いまして。」
「正解だ。」
レイルに知られれば処分は軽いものでは済まないだろう。事が事とはいえ、コルドールとしても自分の配下が極刑になるのは忍びなかった。
コルドールはまた一つため息を吐くと、キリトの部屋へと向かったのだった。
「ジャンから聞いた。俺の配下がとんだ失礼をした。本当にすまない。怪我はないか?」
キリトは首を横に振って言った。
「いいんだ。コルドールのせいじゃないし。」
「やつは逃亡中で行方が知れないが、必ず捕まえて懲罰房にぶち込んでやる。」
「い、いいよ。そんな事しなくて。ただ…」
「何だ?」
「レイルにはこの事を言わないで。怒るような気がするから。」
「まあ、知ったら激怒するだろうな。」
護衛の任に就いていながら任務を放棄して、あろう事か護衛の対象を襲うなど、正気の沙汰ではなかった。
別の見方をすれば、正気を失くさせる程にキリトが魅力的だとも言える。
先日、騎士達の鍛錬に顔を出した時の事をコルドールは思い出した。
鍛錬場の隣でキリトが薪割りを始めると、チラチラとキリトを盗み見る騎士が何人も居るのである。
いっそのこと薪割り場と鍛錬場の間に目隠しの塀でも建てようかと思う程だった。
レイルと正式に結婚してしまえば、流石にそういうことも無くなるのだろうが。
「ところで、式の日取りはもう決まったのか?」
「式…?」
「結婚式だ。レイルとの。」
「…分からない。結婚式、するのかな?」
「そりゃあ、するだろう。」
この国を背負って立つ王の配偶者になるのだ。結婚式を挙げないなどということは考えられない。
宰相にでも聞いてみるか、とコルドールは思った。
コルドールが廊下を歩いていると、ちょうど良く向こうから灰色の髪の宰相が歩いてくるところに行き当たった。
「トルガレ、レイルの結婚式の日取りはもう決まっているのか?」
「おや、これはコルドール団長。結婚式の日取りは未定ですよ。レイル様からはすぐにでも式を挙げたいと打診がございましたが、まずは戴冠式が終わって正式に王位につかれてからでないと。」
「まずは戴冠式か。そうだよな。」
「それより...団長は、キリト様が洪水の街で怪我人を癒された様子をお聞きになりましたか?」
「いや。詳しくは聞いていない。」
「私は奇跡を目にしたのです。キリト様が目を閉じて十一人の怪我人達に向けて手を掲げると、怪我人達の上に光を放つ繊細な紋様が浮かび、それが更に輝きを増したと思った次の瞬間、全員の怪我が治っていたのです。」
「それは、凄いな。」
「無欲で、慈悲に満ちて、自らを顧みず癒しの力を行使なさるキリト様を、私は心からお慕い申し上げます。」
「お慕い…」
「ええ。忠誠はレイル様とこの国に捧げましたが、私の心はキリト様とともに。」
そういうと、トルガレは両手で胸を押さえて、うっとりと目を閉じた。
キリトに心を持って行かれたやつがまた一人、とコルドールは額に手を当てて思ったのだった。
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