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サガンは傍らに置いてあった剣を手に取ると、スラリと抜いた。

「レイルと打ち合うのは久しぶりだね。」

「あ、嘘、待って…」

キリトは突然の展開についていけず声が震えた。
レイルとサガンが斬り合うところなど見たくないが、どうしたら良いのか分からない。二人が傷ついて血を流す姿が一瞬目に浮かぶ。
キリトは咄嗟に両腕を広げて剣を構える二人の前に立つと、レイルに向かって言った。

「お、おねがい、やめて…」

サガンを背にして立ち、目に涙を浮かべて震え声で言うキリトに、レイルは愕然として言った。

「…サガンを庇うのか。」

レイルは剣を下ろすと、ふらふらとしながら部屋を出て行った。

********

キリトが自室でぼんやりしていると、ノックの音がして、部屋にメイド長が入ってきた。あの後サガンの執務室からどうやって帰ってきたのか良く思い出せない。

「ご紹介したい方が居るのです。セイエル様、お入りください。」

メイド長に呼ばれて部屋に入ってきたのは少年だった。金髪を後ろに撫でつけて形の良い額を出し、青い目をして、王族のような装飾の多い服を着ている。

「セイエルです。初めまして。」

キリトは立ち上がって挨拶をした。

「は、初めまして。キリトです。」

「セイエル様は隣国に嫁いだレイル様の姉上様のご子息、レイル様の甥にあたります。本来ならレイル様からご紹介がある筈でしたが、レイル様はご気分が優れないとのことで、私が代わりにお連れしました。」

セイエルはキリトにニコリと笑いかけると、手で金色の髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜ、顔の前に髪を垂らした。襟足を短く切り揃えた金髪に長い前髪。途端にキリトは既視感に襲われる。

「…もしかして」

「そう。今朝の新入りメイドだよ。」

セイエルは笑って言った。メイド長は額を押さえてため息をついている。

「僕、レイル兄様の婚約者がどんな人か見たかったんだ。」

「それだけの為にメイドに変装を?!」
キリトは驚いて言った。

「…メイド達が噂話してるのを聞いたんだ。キリトはレイル兄様とサガンを手玉に取ってるって。」

「手玉?!」

「だから本当はどんな人なのか、確かめたかったんだ。」

ごめんなさい、とセイエルは続けて言った。

「でも、キリトは僕の火傷の手当てをしてくれた。僕はキリトの事、信じるよ。」

「信じるって…」

「レイル兄様の為に言っておくと、部屋で僕の服を脱がせていたのは、兄様にメイドの女装してキリトの部屋に行った事がバレて、怒られたからだよ。馬鹿な事をしていないで早くその服を脱げって。」

火傷した手の甲を押さえながらセイエルが言う。

「実のところ、手に触れられて心がときめいたのは初めてだったんだ。もしレイル兄様ともサガンとも破局したら、今度は僕が結婚を申し込もうかな。」

「な、な…」

言う言葉が見つけられず、キリトはガックリと肩を落としたのだった。

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